パーティが終わって⑧
打ち上げを行っている会場から出て、俺は魔導船のデッキに移動してきた。いや、まだ打ち上げは続いているのだが、小休止というかちょっと夜風でも感じたいと思ったので休憩がてらデッキに来た。
……決して、メイドたちがメイド談議で盛り上がり始めたので逃げてきたわけではない。うん、ちょっとメイドの数が多すぎて、話に付いていけない状況だと場違い感が結構……。
まぁ、それはともかくとして、デッキに出ると海風が心地よく吹いてきた。実際にパーティの企画段階になって調べるまで分からなかったのだが、この魔導船には様々な魔法具が備え付けられていて非常に多機能だ。
例えばこのデッキにも一定以上の風を遮断する効果のある魔法具があるので、強風などが吹くことは無い。あくまで一定以上なので、ある程度の海風は感じられるようになっているのもいい。
そういう部分も含めて本当に超豪華客船って感じなのだが、クロにしてみればマジックボックスをプレゼントするための口実……さすが、世界一の金持ちである。
そんなことを考えつつ、ぼんやりと夜の海を見る。夜なので景色は見えないが、デッキにはそれなりに明かりがあるのと、夜空が満天の星空なのもあって退屈しない。
「……休憩ですかぁ?」
「え? イルネスさん?」
不意に声が聞こえてきて振り返ると、そこには穏やかに微笑むイルネスさんが居た。
「私もぉ、少し~休憩にきましたぁ」
「あ、そうなんですね。改めてパーティではお疲れさまでした」
「カイト様こそぉ、お疲れさまでしたぁ」
俺の言葉に微笑みと共に返した後、イルネスさんは俺の隣に来る。それこそ肩が触れ合いそうなほど近くであり、思わずドキッとしてしまう。
なんとなくそのままふたりで並んで海を見るような形になり、独特の雰囲気というか……居心地が悪いわけではないのだが、話を切り出すタイミングがつかめないような状態になってしまい、しばし無言の時間が過ぎる。
「……カイト様はぁ、感応魔法が使えますよねぇ?」
「え? あ、はい」
「感情を読み取るというのはぁ、どんな感覚なんでしょうかぁ?」
「う~ん、なんかこう漠然とした気持ち……魔力に乗った感情が伝わってくるような感覚ですね。なんかこう、気まずいとか楽しいとかそういう雰囲気みたいなのを、より強く感じる感覚ですかね」
ポツリと呟くように訪ねてきたイルネスさんに、俺は少々迷いながら言葉を返す。かなり感覚的なものなので、いざ言葉にして説明するというのが難しい。
リーリエさんとかならもっと詳しく説明できるのかもしれないが、俺としては本当になんとなく気持ちが分かるって感じとしか説明のしようがない。
「急に~変なことを聞いてぇ、申し訳ありません~。最近~気持ちをぉ、言語化するのが難しいと感じていましてぇ、カイト様の~感覚を聞いてみたかったんですぅ」
「気持ちの言語化ですか? 確かに、それは難しそうですね。実際俺も、自分の気持ちをしっかり言葉にして表現しろって言われると、悩んでしまうかもしれないです」
「はいぃ。これまではぁ、あまり~感じたことは無かったのですがぁ。いい加減~見て見ぬ振りもできなくなってきましたのでぇ、考え直していますぅ。難しいものですねぇ……自分の中にある気持ちはぁ、なんとなくわかっているはずなのにぃ、それを~上手く言葉にするのが難しいですぅ」
「……なにかに悩んでるってことでしょうか?」
「そうですねぇ。悩みと言えるのかもしれませんねぇ……自分自身がどうしたいのか~これからどうありたいのか~そういったことを考えていますがぁ、ぐるぐると思考が回るだけのような気もしますねぇ」
イルネスさんがなにかに悩んでいるというならぜひ力になりたいところではあるのだが、言い回しがやや遠回りな感じで本題は隠しているような印象を受ける。
となると無理に聞くのもダメか……う~ん、どうしよう。
そう考えていると、イルネスさんが俺の方を向いて苦笑するような笑みを浮かべて口を開く。
「もし~カイト様さえよろしければぁ、少し相談に乗っていただきたいのですがぁ、打ち上げの後など~時間はありますかぁ?」
「ええ、もちろん。俺で力になれるならいくらでも」
「ありがとうございますぅ。では~打ち上げが終わった後にぃ、お部屋の方に~伺わせていただきますねぇ」
「了解です」
イルネスさんがなにかを相談してくるというのは珍しいが、日ごろこれでもかってぐらいお世話になっているので、可能な限り力になりたいものである。
シリアス先輩「よくない、これはよくない流れだぞ……だってイルネスの悩みって、明らかに快人に対する恋愛的なやつで……く、くそっ、どこかに逃げ場は……」