パーティが終わって⑤
本当に軽い感じで、それこそ世間話の延長のような軽い口調で成長限界と成長速度を引き上げたというジェーンの言葉にポカンとしてたラグナの前に、一本の槍が出現した。
透き通るような青い槍で、ラグナがチラリとジェーンの方を見ると、ジェーンは軽く頷く。それを確認してからラグナは槍を握った。
(軽い、それに恐ろしく手に馴染む……魔力を込めやすいというべきか、見るだけで分かる。これはまさに神によって作られた槍……普通の鍛冶では到底造ることは叶わぬ品じゃと……)
その凄まじい槍もそうだが、ジェーンがラグナの悩みを解決したということに関しても、感覚的に理解できた。いままでずっと感じていたはずの己の成長限界が、いまは感じ取れなくなっている。
そのことを実感するとつい槍を握る手に力が籠った。
「まぁ、そんなわけで自分の用事は終わりです。急に呼び立てちゃって申し訳ない」
「い、いえ、むしろなんとお礼を言ってよいか……」
「ははは、お礼を言うのは自分の方ですよ。今後もまた会う機会があるかもしれませんので、その際にはまぁ……なんかこう、いい感じに会話に付き合ってもらえたらありがたいです。たはぁ~行き当たりばったり感が強くて申し訳ない!」
無表情のままで用件は済んだと告げ、そのまま空間を解除しようとしたジェーンだったが、その前にラグナが慌てた様子で口を開いた。
「お、お待ちください!」
「はい? どうしました?」
「その、大変失礼な要求とは思うのですが……ジェーン様は、最初に名乗る際に『この名前を~』と仰られていましたので、もし叶うなら本当の名前を教えていただきたいです。むろん、決して口外はせぬと誓います!」
「ああ、大丈夫ですよ。ジェーンと名乗ったのは、快人様にそう名乗ったからで……別に隠したりしてるわけでもないですからね。では改めまして、カナーリスです」
「カナーリス様……此度の件、心より感謝します。またワシで力になれることがありましたら、なんなりと……」
「ありがたいことばですね。ではもしその機会があれば、よろしくお願いします。ではでは、改めて戻しますね~」
その言葉と共に景色が揺らぎ、気が付けばラグナは海辺に佇んでいた。まるで夢を見ていたかのような感覚ではあったが、先程のことが夢ではないというのはその手にある青い槍が証明していた。
「……ふっ」
小さく笑みを浮かべた直後、ラグナは砂浜を蹴って大きく跳躍し海に飛び込んだ。そのまま波が立たないように対策術式を発動させつつ、海中で急激に加速して一瞬で遥か沖にまで移動する。
そして周囲に人や船の気配のない沖に到達すると、そのスピードのまま海面に飛び出しつつ、手に持った槍を薙ぎ払うように空に向けて振るった。
人界最強と称される彼女が振るった槍は衝撃波を生み、夜空を覆っていた曇天の雲を切り裂き、海上に月明かりを差し込ませる。
その月明かりに照らされながら、ラグナはまるで幼子のような無邪気な笑顔を浮かべていた。
(……ああ、ずっと感じていた限界という壁が感じられない。自分がまだまだ成長できると実感できることの、なんと幸せな……カナーリス様は少しと仰っていたが、少なくとも今のワシではそれがどこにあるかわからぬほど遠くまで限界は引き伸ばされた)
以前は漠然と感じられていた成長限界の壁、それがいまはまったく感じられない。どの程度成長限界が引き伸ばされたのかまではラグナには分らないが、少なくともいまの彼女がまったく限界の壁を感じ取れないほどには大きく引き伸ばされたのは確実だった。
もちろんこれから成長していくにはしっかりを鍛錬をする必要はあるが、限界を感じ悩んでいた彼女にとっては心が晴れ渡るような思いだった。
(……いかんな、どうしても気分が高揚する。早く鍛錬をしたいと体がうずいておる。ふふ、歳を取ったと思っておったが、これではまるで幼子ではないか……)
もうすでに日は落ちているので、いまから本格的に鍛錬とはいかない。だがこれから鍛え成長できるという喜びが、歓喜となってラグナの心に吹き荒れていた。
(さすがに、立場的に信仰……はまずいかのぅ。じゃが、ワシが個人的に祈るぐらいは許されるじゃろう)
海上に魔力で足場を作ったラグナは、片膝をつき騎士の礼のような形で頭を下げつつ、青い槍を頭上に掲げて祈りを捧げる。
(カナーリス様に、心からの感謝と祈りを……)
名を口外しないと誓った以上、他に誰もいない場所であってもその名を口にはせず、ラグナはしばし心の中で深い感謝と共に神への祈りを捧げていた。
シリアス先輩「実際どのぐらいかまでは分らないけど、伯爵級以上リリア未満ぐらいってことは、公爵級レベルには到達できる感じかな? いや、神界決戦時の運命の臨界点状態のリリアを考えるともっと行けるか……」
~追加のおまけ~
質問があったので、ネピュラの名前の由来は『星雲』を意味するnebulaのビをピに変更したものです。