パーティが終わって②
エミリーさんに手伝ってもらいつつ準備を進める。だがまぁ、そもそもマジックボックスから取り出して並べてるだけなので、大した手間もなく雑談がメインとなりつつあった。
「そういえば、エミリーさんってラグナさんのライバルって話を聞いたことがあるんですが……」
「ああ、少しの間そう呼ばれていた期間もありましたね。昔の人界はまだまだ移住者も少なく、爵位級レベルを見たことがある人自体が少なかったのでそう呼ばれていましたが、実際には私とラグナ陛下ではラグナ陛下の方が格上でしたね。知り合ったばかりの頃でも、10回戦えば9回はラグナ陛下が勝つくらいには差がありましたし、あくまである程度ラグナ陛下と打ち合えるという意味合いでライバルと呼ばれてはいました。まぁ、それもせいぜい友好条約が結ばれた直後から500年程度なので短い期間ですが……」
以前メイドオリンピアの際にフラウさんから聞いた話ではエミリーさんは子爵級高位魔族らしい。ラグナさんは現在は伯爵級相当ではあるが、本人曰く勇者パーティとして旅をしていたころの実力は子爵級の上の方、伯爵級には少し届かないぐらいとのことなので、なんだかんだでエミリーさんも子爵級の中では強い方なのではないかと思う。
「……エミリーさんは魔族ですよね? 友好条約が結ばれた直後からってことは、かなり早い段階で人界に来たんですか?」
「ええ、元々興味はあったんですよ。私の家族は魔界で漁師をしているのですが、祖母がその昔人界から魔界に迷い込んで定住したマーメイド族で、人界の話をいろいろ聞いていました。なので友好条約が結ばれた直後の復興支援に志願して人界で働いていたのですが、その際にラグナ陛下の目に留まって声をかけられた形です」
「仕事ぶりとか実力を評価されてスカウトってことですね」
「ああ、いえ、『48日ほど無休』で働き続けていたら、周りが引いているからいい加減にしろとお叱りを受けた形ですね。その後いろいろあってラグナ陛下に雇用される形となり、最初は休めと何度もいわれていたのですがしばらくすれば諦め……ああいえ、分かってくれました」
ワーカーホリックってレベルじゃないなこの人……しかも誰かに強制されてるとかじゃなくて、本人が好きで仕事してるだけなのでラグナさんも相当頭を抱えただろう。
相手を気遣って休憩や休暇を提案しているのに、その休憩や休暇が相手にとって不要というか、むしろ嫌がる……どことなくアインさんに近い気がする。アインさんもあのクロが呆れるぐらいであり、いちおうクロに言われて多少休みは取っているらしいが、数か月で何分間というレベルである。
「そういえば、そもそもラグナ陛下の訓練に付き合うようになったのは、どんな形であれ一時的に私に仕事を止めさせるためという意図もあったのかもしれませんね。とはいえ、私はあまり戦闘は好きではないので、乗り気ではありませんでしたが」
「そうなんですか?」
「ええ、戦闘は条件が噛み合わないと気持ちよくな……えっと、失礼。私の持ち味を生かす戦いというのは長期戦なのですが、本当に全力の戦闘ならともかく模擬戦で長期戦になることは少ないですし、そもそも爵位級同士の長期戦となると数日や場合によっては数か月という長さになるので……持ち味を生かす機会が無いのです」
「なるほど、確かに模擬戦ならある程度のところで終わりになりますし、長期戦にはならないですね」
なんだろう? 言ってることは実に真っ当というか、しっかり理由がある。模擬戦という形式においては、己の持ち味を生かしにくいというのは納得できる。でもなんだろう、一瞬なんかドロッとした感じの感情が伝わってきた気がする。
なんかこう、パンドラさんとかフェニックスさんとかティアマトさんとか、その辺のヤバい方々が性癖について語る時のような感じが……い、いや、流石にあの辺と比べるのは失礼すぎるか……気のせい、うん。多分気のせいだ。だってほら、エミリーさんはこんなに爽やかそうな雰囲気の方だし……うん。考えないようにしよう。
「で、でも、そうやって話を聞くと、エミリーさんは本当に仕事が好きなんですね」
「ええ、大好きです。特に繁忙期などで仕事が大量にある時は幸福ですね。処理しても処理しても次から次に仕事が来る時の快か……気合が入って気分が高揚してくる感覚はとても好ましいですね」
「あ、あ~運動とかでも少し体が温まってきたぐらいが、一番調子がいいですもんね」
「はい、ふふふ」
「あ、あはは……」
変なところに踏み込まないように話題を逸らしたつもりが、綺麗に核心部分を踏み抜いてしまったような感じがある。
本当に一瞬ではあったが、繁忙期の仕事について語る時の顔が恍惚としていた……やる気が出るとかそういう感じじゃないやつだと思う。明らかになんか、そういう性癖を持っていらっしゃる顔だった。
ただまぁ、本人はそれをちゃんと隠そうとしているのか取り繕ってくれているあたり、やっぱあの変態三人衆よりは全然マシだなぁとは思った。
シリアス先輩「……揃ったかドM四天王……前の番外編ではシアが数合わせみたいに入ってたけど、シアは苦労人ではあるがドMって感じではなかったから、パンドラ、フェニックス、ティアマト、エミリーで四天王が完成……四分の三が幻王配下なんだけど?」
???「こっちに振るのは止めてもらえません。私も頭抱えてるんすから……」