船上パーティ㊽
ビンゴゲームの余興も進行し、ビンゴも増えてきたタイミングでパーティ会場の端ではグリンとアンが並んでビンゴカードを見つめていた。
パーティ中盤ではそれぞれ、グリンはリリアたちと、アンはトーレたちと行動を共にしていたがパーティも終盤に差し掛かり、最後の余興ということもあって合流していた。
「……アンさん、仮に、もし仮にですわよ」
「なんですか?」
「例えばこれで私がビンゴになって、あそこに飾ってるミッドナイトクリスタルが使われた激烈に高そうなネックレスを選んだとして、反感買うと思いますか?」
「う~ん。大丈夫なのではないでしょうか……というか現時点までの方々はほぼ見向きもしてませんね。基本的に高位魔族クラスの方々は衣類は魔力で作ることが多いですし、装飾品はそこまで人気はないのではないでしょうか?」
言うまでもなくグリンとアンは庶民であり、壇上に並ぶ景品の品々には圧倒されている。ただ二番目にビンゴになった香織が比較的一般人っぽい雰囲気だったこともあり、運よく機会が巡ってくればなにかいいものをと期待できる程度にはビンゴゲームを楽しんでいた。
グリンは世界的に見ても希少かつ極めて高価なミッドナイトクリスタルが贅沢に使われたネックレスに目が釘付けである。彼女の給料では手にするのはまず不可能と言っていいレベルの装飾品であり、そういったものに憧れの強いグリンの目は輝いていた。
「……しかし、あれだけ高価な魔法具や装飾品が並んでいますのに、ここまでの当選者を見ているとほぼ美術品や小物を選んでいますわね」
「おそらくですが……確かに壇上にある魔法具は私たちでは目にするのも難しいほどのランクの品々ですが、幻王様が最初に仰られていたようにすべて市販されているものだからではないでしょうか? 各界のトップランクの方々であれば特注の魔法具を持っていたり、自力で魔法行使出来たりということもあって、あまり魅力的には映らないのでは?」
「ああ、なるほど……参加者の方々のレベルが高すぎて、すでに似たものを所持しているか、必要になったとしても大した額ではないので自分で買えばいいという感じでしょうかね。なので、美術品や小物類といった見た目に物珍しさがあるものを選んでいると……」
「そう思いますね。いまビンゴになった死王様も、小物入れを選んでいましたし……」
そう、確かに壇上の魔法具などは豪華ではあるのだが、人界の国王や高位貴族、魔界の六王や六王幹部、神界の最高神や上級神にとっては特に物珍しさも無く興味を惹かれるようなものではない。
もちろん用意したアリスはそんなことは織り込み済みであり、そもそも最初から魔法具などの景品はグリンやアンといった一般人枠用であり、お金を持ってる参加者たちには珍しい工芸品や雑貨などを用意していた。
「……ちなみに、アンさんもダブルリーチですが、なにか狙っているものがありますか?」
「もし、叶うのなら……マジックボックスが欲しいですね。壇上にあるのは黒い魔水晶が使われているので、とても私個人手は手が出ませんし……」
「おや、マジックボックスはお持ちではないのですが?」
「いえ、所持はしているんですがあまりいいものではないんですよ。組合で行動する際などに、採掘道具や食事に飲料と持っていく必要なものは多くて、中規模とはいえ人数分だとかなりの量になるので、現在は低純度の魔水晶で作られたマジックボックスを複数用意して対応しています。ですが、黒い魔水晶のマジックボックスが手に入れば、全て一纏めにできるので、非常に助かるなぁと――」
『次は22番です』
「――え? あっ、び、ビンゴです」
「やりましたね、アンさん! おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます。行ってきますね」
話をしていると丁度次の数字でアンがビンゴとなり、グリンの祝福の言葉に嬉しそうに微笑んでから壇上に向かっていき、無事に目当てだったマジックボックスを入手することができていた。
なお、そのふたつ後にグリンもビンゴとなり、こちらも問題なく残っていたミッドナイトクリスタルのネックレスを獲得することができ、両者ともになんだかんだで非常に嬉しそうな表情を浮かべていた。
シリアス先輩「ああ、なるほど、確かにすべて市販品ならそういうのは一般市民向けになるのか……」
???「もちろん事前に誰がどんなものが欲しいかリサーチした上で用意してますよ。せっかくなので、カイトさん主催のパーティをいい気持ちで終わってもらいたいですしね。ただ、普通に記念品とかとして渡しても恐縮するでしょうし、こういった余興を用意して運良く手にできた感じにしてるわけです。かぁ~アリスちゃんが有能で一ファンとして嬉しいっすね!!」
シリアス先輩「……実際有能だし、相変わらず影での献身が凄すぎる」