船上パーティ㊼
というわけでビンゴゲームがスタートした、といっても別に特別な何かがあるわけでもなく普通のビンゴゲームである。
アリスがどこからともなく取り出した大きな球体上のガラポンを回して、数字の書かれた球を取って読み上げる。数字があってれば穴をあけて~と、そんな感じだ。
『それでは3つ目の数字は、17……リーチになってる方が居たら手を上げてください』
「……あ、俺リーチだ」
『おかしいっすね。祝福の効果は及ぼさないように調整してるはずなんですけど、なんでストレートでリーチになってんすかね? いや、他にもリーチの人はいますが……』
俺の手元にあるビンゴカードは、真ん中のフリーの穴と合わせてリーチになっており、あとひとつ……7が出ればビンゴだった。
アリスが対策しているといっているので、たぶん事前にシロさんに交渉して祝福の効果が及ばないようにしてるんだと思う。
(はい。そのように要請されて、このビンゴゲームでは祝福による運の補正は無くなっています)
じゃあこの状態は偶然である。まぁ、早々にリーチがかかったままずっと当たらないなんてビンゴゲームではよくあることだし、結局のところビンゴにならなければ意味が……。
『はい。次は……7です』
「……ビンゴ」
『カイトさん? 貴方どっかまた、変なところから補正かなにか貰ったんじゃないでしょうね? う~ん、でもそんな気配もないですし、偶然っすか……ビンゴでストレートに当たる確率って50万分の1ぐらいですし、ありえない訳でもないですね。ともあれ、他にビンゴはいないようですしおめでとうございます。さっ、壇上に着て景品を選んでください。カイトさんが選んでる間もビンゴゲームは進行します』
まさかのストレートビンゴで俺が一番乗りだった。主催者が一番になってしまうのはどうかと思ったが、参加者を見渡してみても不満そうな感じはなく、アイシスさんなんかは嬉しそうに拍手してくれていた。
とりあえず、壇上に上がって景品を見て見ると相当の数がある。けど、あんまり大物を取ってしまうのも白けそうだし、特に欲しいものは……あっ、今度買おうと思ってた新刊がある。これにしよう。
「じゃ、俺はこれで」
『はいはい、了解ですよ。じゃ、続けて次の番号は……』
景品を選んで壇上から降りると、俺が当たってから二回ほど抽選が進み、二人目のビンゴが出ていた。
「……え? あっ……えぇぇ……」
『おっと、二人目のビンゴは友好都市で異世界料理店を営むミズハラカオリさんですね。おめでとうございます。さっ、壇上で景品を選んでください』
「あひぃ、は、はい……」
なんと二人目のビンゴは香織さんだった。香織さんは明らかに恐縮しまくった様子で壇上に上がり景品のコーナーの前に立った。
そして、すぐにチラッとひときわ大きな魔法具……転移魔法具に目線をやったが、慌てた様子で首を横に振ってなんとなく低価格そうな品の方に目を向けているのが見えた。
明らかに他の人に遠慮している様子の香織さんを見て、俺は再び壇上に上がって香織さんの隣に移動して小声で話しかける。
「……香織さん、転移魔法具が欲しいんじゃないんですか?」
「うぇ!? か、快人くん……う、うぅ、た、確かにこんな機会でもなければ私が転移魔法具手に入れる機会なんてないし、あれば本当にいろいろ便利そうだけど、流石に高価すぎて選べないよ……」
「いや、大丈夫だと思いますよ。というか、ぶっちゃけた話をするとたぶん会場に居る参加者のほとんどが、転移魔法具を持ってるか転移魔法を自力で使える方ばっかりなので、欲しがる人も少ないかと……」
「……え? あっ、そ、そうなのかな? ひんしゅく買ったり、しないかな?」
「大丈夫ですし、まずありえないですけど、どこかから文句が出るようなら俺が守るので安心してください」
「うっ、そんなカッコいいことを……」
せっかくビンゴになったんだし、是非遠慮せずに欲しいものを選んでもらいたい。なにかあったとしても俺がどうにかすると伝えると、香織さんは少し悩むような表情を浮かべた後で頷いてアリスに声をかける。
「あ、あの、幻王様。転移魔法具を頂いても……」
『はいはい、了解ですよ。持ち帰り用にランダムボックスに入れることもできますが?』
「あっ、マジックボックスがあるので大丈夫です。ありがとうございます」
『さぁ、まだまだ豪華賞品はたくさんですよ! そろそろビンゴも増えてくるころ合いですね。次は……』
本当にまったく問題ないという感じであり、香織さんは転移魔法具をマジックボックスに入れて、俺と一緒に壇上から降りる。
「き、緊張したぁ……快人くん、来てくれてありがとう。その、すっごく不安だったから嬉しかったよ」
「いえ、少しでも助けになれたなら俺も嬉しいですよ」
「うぐっ、あ、相変わらずのプレイボーイ……」
香織さんの言葉に微笑みながら返すと、香織さんは少し顔を赤くして頬をかきつつ苦笑を浮かべていた。
シリアス先輩「確かにトップクラスに高価な魔法具だけど、欲しがる奴は意外と少なそう」