船上パーティ㊺
エデンさんにもらった能力を再度使用してみると、もうすでに挨拶をしていない相手は数えるほどに減っており、それこそかなりゆっくりと回ったとしても余裕があるほどだった。
とりあえず近くにひとりいるみたいなので、次はその人のところに……そう思って移動していると、目指している相手が偶然にもこちらの方に近づいてくるのが分かった。
ほどなくして見えてきたのは、グラスを片手に持ったジークさんだった。
「ジークさん、こんにちは」
「カイトさん、これは奇遇ですね」
「ええ、そういえばリリアさんのところに行った時も、レイさんとフィアさんのところに行った時も、行き違いになっててまだ会えてなかったですね」
ジークさんと遭遇した瞬間は「え? まだ挨拶してなかったっけ?」と思ってしまったが、そういえばリリアさんの元を訪れた際にはレイさんとフィアさんの元に行っており、重信さんたちがいる場所に行った時には、ほぼ入れ違いの形でリリアさんのところに戻ってしまっていたんだった。
「確かに、タイミングが噛み合いませんでしたね」
「いまはどこかに行かれてたんですか?」
「ええ、リリの元にしばらくいた後、フュンフ様に挨拶に行っていて丁度戻るところでした」
ジークさんは普段定期的にフュンフさんに指導してもらっており、パーティの参加者の中でもフュンフさんとは関係が深い。一度リリアさんの元に戻った後、余興などが終わってひと段落したタイミングで挨拶に行っていまはその帰りって感じだろう。
「カイトさんは、挨拶回りは順調ですか?」
「はい。もう残るは数人ぐらいで、時間的にはかなり余裕がありますね」
「なるほど……ふむ、それならこのタイミングまで会えなかったのは、ある意味では幸運かもしれませんね。時間に余裕があるということは、カイトさんとゆっくり話せそうですね」
「確かに、そういわれてみれば……せっかくこうして会いましたし、少しゆっくり話でもしましょう」
「はい。少し壁際に移動して話しましょう」
ジークさんの言う通り、時間的な面で言えばこのタイミングで会えたのはむしろ幸運であり、かなり時間の余裕はあるのでゆっくり話をしていても大丈夫だ。
そう思えばここまですれ違い気味だったのも、むしろよかったと思えてくるから不思議である。
ジークさんと一緒に他の人の移動の邪魔にならないように壁際に移動して、近くにいた給仕のメイドに俺も飲み物を貰って軽く乾杯する。
「ジークさん、パーティはどうですか?」
「かなり新鮮な気持ちですね。私は、リリの護衛として同行することはありますが、基本的にパーティ会場には入らずにルナと一緒に外で待っていることが多いので、実際にこうしたパーティに参加した経験は少ないですね。近い雰囲気で言えば、六王祭の最終日のパーティなどでしょうか?」
「ああ、言われてみれば……あのパーティもかなり賑やかでしたし、参加者の顔ぶれもある程度近いかもしれませんね。そういえば、六王祭で思い出しましたが……ジークさんが着てるその服って……」
「ええ、六王祭に参加する際にカイトさんが買ってくださったものですね。カイトさんもご存じかもしれませんが、私はドレスはちょっと苦手でして……礼服などに関しても、そもそもこういった場に参加する機会があまりないので、この服が一番高価だったのと……せっかくカイトさんに贈ってもらったものなので、こういった機会には着ておきたいなぁと」
そういってはにかむように笑うジークさんを見ると、なんというかこう愛おしさがこみあげてくるというか、自然と俺も笑顔になれた。
「そういってもらえると嬉しいですし、またなんかジークさんに服を贈りたいなって思いますよ。いや、俺がジークさんがいろいろな恰好をしているのが見たいってのが大きいですけど……また今度一緒に買いに行きませんか?」
「はい。是非……ああ、でも、その時は礼服のような高価なものではなく、外に着て出かけられるような服がいいですね。その、なんていうか……買ったその服を着て、カイトさんとピクニックでもできたらいいなぁと……」
「いいですね。すごく楽しそうです。リグフォレシアに一緒に行った時も、ピクニックというか森を散策はしましたが、どこか景色のいいところに行くのもよさそうですね」
「はい。その時はうでによりをかけて弁当を作りますね」
「せっかくですし、弁当も一緒に作りませんか? 俺はジークさんに比べると料理は全然ですけど、一緒にやると楽しそうですし……」
「それは素敵ですね。ふふ、なんというか、いまからすごく楽しみになってきました」
会話の流れではあったが、ジークさんとピクニックは本当に楽しそうだ。広く人気の少ない場所を選んで、ベルやリンやセラを連れて行くのもいいかもしれない。
また今度あたらめてジークさんと本格的に相談してみようと、そう思った。
シリアス先輩「やなフラグ経ったな……いや、でも、ジークとのデートは比較的さわやか路線になることが多いし……」
???「ジークさんも関係が進展するのかもしれないですね~」
シリアス先輩「恐ろしいことを言うなよ、お前……」