船上パーティ㊸
オリビアさんと香織さんとある程度話をして、軽くいくつかの料理を食べたあとで挨拶回りを再開した。まだ挨拶をしていなかった六王幹部の方や光永くんへの挨拶もエデンさんにもらった能力のおかげでスムーズに行えて、テンポよく挨拶回りを進めることができた。
当初の予定では挨拶回りが終わることにはパーティも終盤で、俺自身のパーティ参加は挨拶だけしてほぼ終わりと想定していたのだが、この分だとある程度余裕をもって挨拶を終わらせられそうだ。
その場合はアニマやキャラウェイに確認して、特に手伝う必要があるものがないなら少しのんびりパーティに参加してもいいかもしれない。
なんだかんだで、慌ただしく動いてたのでひとりひとりと会話できる時間は短かったし、数は限られるだろうが恋人とか親しい人ともう少しゆっくり話すのもよさそうだ。
まぁ、とりあえず挨拶回りと全て終わらせからだな……えっと、この近くにもうひとり挨拶をしていない人が……あっ、居た。なるほど、ジュティアさんか、リリウッドさんのところを訪れた際には友人などに会いに行っており、挨拶ができていなかった。
「こんにちは、ジュティアさん。今日は来てくださってありがとうございます」
「おやおや、カイトじゃないか、奇遇だねぇ、奇遇だねぇ、こうして会えてボクってばとっても嬉しいぜぃ。とっても、とっても、素敵なパーティで楽しませてもらってるよ。こっちこそ、招待してくれてありがとう」
「そういってもらえると、俺としても嬉しいです」
俺が声をかけるとジュティアさんは明るい笑顔で言葉を返してくれた。その様子は普段通りなのだが、なんだろう? 感応魔法でなにやら若干ソワソワというか、悩んでいるような感情が伝わってくる。
印象としてはなにかを躊躇しているような?
「ジュティアさん、もしかしてなにか気になることとかあったりしますか? いえ、気のせいか少しソワソワしてるような気がしたので……」
「あっとごめんよ、ごめんよ。あ~いや、う~ん……顔とかに出ちゃってたかなぁ。そう聞かれちゃうと、なんでもないっていうのも失礼になる気がするんだぜぃ。えっと、実はこのパーティの記念に特別なブレンドの紅茶が配られるって聞いてさ、シーズンスペシャルとかそんな風に記念日にちなんだブレンドってのはよくある話なんだけど……もしかして、もしかして、新作の茶葉とかあったりと思うと、どうしてもソワソワしちゃうんだぜぃ。カイトに迷惑になっちゃうから、聞いたりしないようにって思ってたんだけど……」
ああ、なるほど、流石に耳が早いというか……聞けば納得の理由である。というか相変わらずまともというか、もの凄く申し訳なさそうな表情を見る限り、俺が聞かなければ言う気はなかったのだろう。
というか、それで思い出したけど……アインさんの突撃が無いな? ジュティアさんがその情報を掴んでるってことは、アインさんも間違いなく同じ情報を得ているだろう。なのに、俺の元に押し掛けてきたりとかそういうのが無い。
いや、パーティ前に突撃が無かったのは俺に挨拶に来るのはやめてくれって言ったのでそれに配慮してくれてるだけかもしれないが、自分から声はかけてこないとしても、俺がクロの元に挨拶に行った時も軽い挨拶だけで終わったので……たぶんこれ、クロがなにか事前に厳命してるな。
「新作ってわけじゃないですが、ネピュラから聞いた話だと味は物凄くいいんですけど、もろもろの事情で外に出すのは止めた茶葉を少量加えているらしいです」
「それはまた、秘蔵の茶葉って感じなのかな? うぅ、気になるなぁ、気になるなぁ、でもそういう事情だと茶葉を欲しがるのも失礼だし、記念としてもらえる分で我慢するしかなさそうだね」
「そうしてもらえると助かります。ああでも、今日は関係ないんですか、近々新作の茶葉は出す予定ですよ」
「そうなの!?」
「うぉっ!? ジュ、ジュティアさん、近い、近いです」
「あっと、ごめんよ、ごめんよ」
新作という言葉を聞いてジュティアさんが物凄い勢いで顔を近づけてきたので驚いた。吐息がかかるほどに顔を近づけられると、ジュティアさんが美人なのも相まってドキドキしてしまう。あと相変わらず森林のようないい匂いもした。
「ええ、紅茶ブランドの方の新商品として、前にハーモニックシンフォニーに持って行ったチョコレート……紅茶に合うっていうコンセプトのチョコレートをいくつかと、暖かい気候の地域向けの水で抽出しやすくアイスティーにして飲むのに向いた茶葉を販売する予定です」
「なるほど、なるほど! 今度はアイスティーに合わせた茶葉……それはそれは、いまからとっても楽しみだぜぃ」
「これも例によって、茶葉が欲しい場合は俺かアニマ辺りに言ってもらうようになりますね。まだ準備はできてないですが、茶葉の用意ができたらまた持っていきますね」
「ありがとう! その時に備えて、ボクもカイトを歓迎できるように準備をしておくぜぃ。カイトにはいっぱい、いっぱい、お世話になってるからね」
「あはは、じゃあ、その時は俺も楽しみにして行かせていただきますね」
嬉しそうに話すジュティアさんに、俺も自然と笑顔になりつつ、そのまましばし雑談を楽しんだ。
シリアス先輩「せ、正義さぁぁぁぁん!? な、なんてこった、チャペルとかレイチェルとか読者の大半が忘れてるであろうほぼモブレベルのキャラにまで会話があったのに、正義さんはダイジェストスルーだと!? こんな不条理が許されていいのか!!」
???「……彼が言葉を発するには、まだ時が満ちてないので……」
シリアス先輩「本当に五年のインターバル開けようとするんじゃねぇよ!? 喋らせてやってくれよ!!」