船上パーティ㊷
とりあえず少し待つと、オリビアさんは落ち着きを取り戻したようで香織さんがどこかホッとした様子で離れる。
「大変お待たせいたしました。ミヤマカイト様を待たせるという、三界に歴史的大罪人として名を遺すほどの不敬を働いたこと、心より謝罪いたします」
「いや、大げさです。全然気にしないでください。それより、おふたりは食事をしてたんですか?」
一見するとまだ落ち着いておらずテンパっているようにも見えるのだが、このぐらいはオリビアさんとしては平常運転ぐらいなので問題はない。とりあえず待っている間に決めた通り、先程の話には触れずに別の話題を振ることにした。
「はい。ミズハラカオリにいろいろと教えてもらって食事をしておりました。いまはもう食事は終わっていたのですが、少々長話をしていました。ミズハラカオリの店でも食べたことが無いような品も多く、なかなか新鮮な気分で、今回もいろいろな学びを得れたと感じております」
「元々食事自体は結構早い段階で終わったんだけど、私が他の人たちの反応を見たいからって引き止めたのがきっかけだったんだよ。ほら、私考案段階で関わってるし、やっぱりそういうの気になってさ……」
「ああ、なるほど、その気持ちは分かります。どうでした、皆の反応は?」
「珍しそうにしてる人が多かったけど、見た感じかなり好評だったね。途中でラズ様とかも来て、美味しいって言ってくれてたしホッとしたよ」
言われてみれば凄く納得できる理由である。香織さんは今回のパーティの料理に関して、かなり協力してくれている。イルネスさんたちと相談してメニューを考えたり、試作してこの世界の人たちの好みに合わせて調整をしたりといった感じで……なのでやっぱり、皆の反応は気になるところだろう。
「好評なようなら俺も嬉しいですね。実は俺もなにか少し食べようかと思ってるんですが……オリビアさんが食べた中で、なにかお勧めとかありますか? いいのがあればそれを食べたいなぁと……」
「え? わ、私がミヤマカイト様に提案をして、それによってミヤマカイト様の食事内容に影響が……な、なんたる大役。かつて友好条約の原文をシャローヴァナル様から預かった時のような重責を感じます」
「いや、だから、大げさですって……気にせず、オリビアさんが食べてよかったなって思うのを教えてください」
俺のなに食べようかな~的な気持ちと友好条約を同列にしたら怒られそうである。まぁ、オリビアさんらしい恐縮の仕方ではある。
オリビアさん相手だと、こちらが少し強引に行くぐらいがちょうどいいのはいままでで学んでいるので、押し切る形で行こう。
「そう、ですね……個人的な好みで申しますと、ガレットは美味しく感じました」
「ガレットですか、確かジャガイモとシラス……えっと、小魚が使われてるんですよね?」
「はい。あまり主張の強い味ではありませんが、素朴ながら温かみのある味わいが好みでした。塩気のある味わいと小魚の淡白な味が合っており、舌に心地よく感じました」
「オリビア様は、ソースとかの濃い味のものよりは素材の味を引き立てるようなアッサリとした味わいのものが好みなんですよね」
「そうですね。あくまで比較するならという程度の差になってしまいますが、繊細な味わいのものの方が好みではあると思います……あっ、えっと、参考になったでしょうか?」
ガレットはいわゆるそば粉を使ったクレープで、日本料理というわけではないのだが、あくまでテーマは異世界の料理なので問題ない。
香織さん曰くシンプルでアレンジ性が高いので、調整が簡単でパーティ向きだとか……。
「ええ、ありがとうございます。せっかく教えてもらったので、オリビアさんオススメのガレットを食べてみますね」
「あっ……はい! ミヤマカイト様のお口に合えば、私としても嬉しく思います。ああいえ、私が制作に関わったわけではないのですが……」
微笑みながら返事をすると、オリビアさんは表情の変化こそ多くはないが嬉しそう表情に変わった。オリビアさんは表情の変化は少ない方だが、シロさんや少し前に知り合ったジェーンさんと比べると、普通に表情も変化するし嬉しそうだったり焦っていたりという感情も結構分かりやすい。
生真面目なところは相変わらずだが、こうして会話をしてみているとやっぱりなんだかんだで初めにあった時よりかなり柔軟というか、感情豊かになってきている気がした。
シリアス先輩「ちなみにガレットはフランスの郷土料理で、一番有名なそば粉のガレットはブルターニュ地方の郷土料理だ。快人は若干勘違いしているが、必ずしもそば粉を使ったものがガレットというわけではなく、「丸くて平べったい料理」の総称がガレットなのでそば粉以外のガレットも存在する。王様の菓子という通称もあるガレット・デ・ロアも有名だが、こちらはいわゆるアーモンドクリームパイでフランスの新年のお祝いに食べられる料理だ。中に小さな陶器の人形を入れて焼き、家族で切り分けて食べて人形が当たった人はその年幸せになれると言われているね」