船上パーティ㊶
能力を頼りに香織さんとオリビアさんの元を目指す。丁度ふたりは一緒にいるみたいで、飲食コーナーで席に座って食事をしているようだった。
丁度俺が向かってくる方向に背を向けている形であり、まだ俺の接近には気づいていない様子だ。距離が近くなって、そろそろ声をかけようと思うと、そのタイミングでふたりの会話が耳に入った。
「だから、やっぱり快人くんは恋愛経験も豊富ですし、変にあれこれ考えるよりストレートなほうがいいとおもんですよ」
「た、確かに、私の浅慮な計画などミヤマカイト様の叡智をもってすれば筒抜けでしょうし、経験においてもミヤマカイト様が圧倒的に格上であることは疑う必要もない純然たる事実です」
あれ? 俺の話をしている? ライズさんたちの時もそうだったが、なんか俺の話題をしてるところに入っていくのも気が引ける。
とは言って、このまま盗み聞きのようなことをしているわけにもいかないので、話を遮るようで申し訳ないが声をかけさせてもらおう。
「やはり悩ましいものですね。いかようにしてデ――」
「香織さん、オリビアさん、こんにちは」
「――!?!?!??!?!」
俺が声をかけると、オリビアさんは座っていた椅子がガタッとそこそこ大きな音を出すぐらいに驚いた様子で、背筋を伸ばした後で、青ざめた表情でこちらを振り返った。
……え? こ、こんなに驚かれるとは思わなかった。あんまり大きな声では話しかけてないはずだけど……なんか、申し訳ない気持ちになる。
「ミ、ミミ、ミヤマカイト様!?」
「あ、はい。驚かせたようで申し訳ないです」
「い、いえ、まったく問題はありません。さ、流石はミヤマカイト様というべきか、幻王もかくやというレベルの気配遮断には感服いたします。普段はそこ場に居るだけで三界を照らす太陽の如き輝きと存在感を放っているにもかかわらず、こうした場面では全く気取られることなく気配を消しきるとは……十全、いえ、それ以上に己の力を完璧に支配下に置きコントロールしている証拠でもありますし、またミヤマカイト様の素晴らしさをひとつ知れたようで光栄です!」
だめだ、完全にテンパってる。褒め殺しモードに入っちゃった……あとたぶん、俺の接近に気付かなかったのは、俺の気配遮断どうこうじゃなくて会話に夢中で、なおかつここは友好都市じゃないのでオリビアさんの能力が低下しているからだと思うのだが……。
「オリビア様、落ち着いてください。かえって不自然になってますよ……あはは、快人くん、こんにちは。私もオリビア様も会話に集中してたからびっくりしたよ」
「あ~割り込むような形になって申し訳ない」
「ううん。それは全然大丈夫なんだけど……えっと、快人くん……どの辺りから話聞いてた?」
「えっと、俺が恋愛経験豊富だからどうこうってあたりですね」
「なるほど……」
どうも聞いたらまずい話だったのかもしれない。俺が聞いた範囲では特にこれと言って重要なことは言ってなかったと思うが……そう考えていると、香織さんはオリビアさんの耳に口を寄せてなにかを囁いていた。
「大丈夫ですよ、オリビア様。あそこからなら、具体的なことは言ってないですし、快人くんにはバレてないはずですよ」
「そ、そうでしょうか? ミヤマカイト様とあれば全知に限りなく近い叡智もお持ちですし、僅かな会話から万象を見通すことも可能なのでは?」
「いや、ないです。大丈夫ですって……」
会話の内容は聞こえないのだが、雰囲気的にオリビアさんが焦っていて香織さんがなだめている感じなので、聞かれて不味いと感じているのはオリビアさんだろうか?
う~ん、気にはなるが……ここで迂闊に尋ねてしまえば、オリビアさんは俺の質問だからと言いたくなくても正直に言うだろうし、それはしたくないので……聞かなかったことにするのが一番かな?
とりあえずふたりが落ち着くまで待って、そのあとはさっきの話は気にしてない感じで行こう。
シリアス先輩「ああ、そっか、建国記念祭の時はシロとふたりで話してたから、オリビアが快人をデートに誘うとしてることは快人は知らないのか……」