船上パーティ㊵
ロズミエルさんとカミリアさんとしばし話した後で、会場に戻り再び挨拶が終わってない人のところへ向かう。今回もエデンさんにもらった能力で近場に居る人の元に向かったのだが……そこに居たのはなんというか、意外過ぎる組み合わせだった。
片方は茜さんであり、もう片方がエリーゼさんというふたり……知り合いだったのだろうか?
「こんにちは、茜さん、エリーゼさん」
「うん? おお、快人か、挨拶回りやな」
俺の言葉に反応して茜さんが明るい笑顔を浮かべて軽く手を上げて歓迎してくれ、エリーゼさんも花が咲くような笑顔を浮かべて口を開いた。
「こんにちは、カイトさん! 今日は、素敵なパーティに招待していただいて、ありがとうございます」
「……あ、はい。楽しんでいただけているようなら、よかったです」
顔は満面の笑みなのだが、感応魔法で伝わってくる感情は「手短に挨拶だけ済ませてさっさとどっか行けです」という感じのものだった。
というかアリスもそうだけど、どうやってんだこれ!? 俺は人の心が読めるわけじゃなくて魔力に乗った感情をなんとなく読み取れるだけなんだけど、なんか言葉が思い浮かぶような絶妙な感情を叩きつけてくるのは無駄に凄い技術な気がする。
「……えっと、おふたりは知り合いだったんですか?」
「いや、会場の受付で知りおうて、一般人同士話しやすかったのもあって一緒に行動してたんよ。エリーゼさんの店では、いろいろ小物とかも作ってるらしいし、そういうのも少し入れられたらな~って感じの話をしてたりしたな」
「私も茜さんも、他の招待客の方々には気圧され気味で……ですがふたりで話していると、あまり声をかけられないという利点もありますからね」
正直茜さんはともかく、エリーゼさんはそういうのに気圧される性格してないような……あ~でも、六王祭とかでは確かに恐縮してたか……普段俺の前で出すキャラクターが強烈すぎて、そういうイメージはなかったが……。
そう思っていると、エリーゼさんがにっこりと笑顔を浮かべて軽く手招きしてきた。
「カイトさん、糸くずのようなものが付いてますよ。取りますので、少ししゃがんでください」
「え? こうですか?」
エリーゼさんに促されてしゃがむと、エリーゼさんは俺の肩あたりに手を伸ばし、そのまま俺の耳元で俺にだけ聞こえる声で囁いた。
「……なんか文句でもあるですか?」
「な、ないです」
「なら、余計な話はせずにさっさと切り上げて次に行くです……でも、ちゃんと休憩も挟めです。飲食コーナーとかに挨拶行くついでに、なにか軽く食べるのもいいと思うです」
なかなかに威圧感のある声で囁いたが、それでも最後にこちらを気遣うような言葉を付け加えるあたり、やっぱり嫌われたりしてるわけではなさそうだ。
あくまで余所行き用の猫かぶり状態の時には、あんまり俺とは話したくないという感じなのだろう。
「はい。取れましたよ」
「ありがとうございました。じゃあ、簡単な挨拶だけになりましたが、俺は次の場所に向かいますね」
「なんや忙しないな。ああそや、快人。もう香織のとこには挨拶に行ったか?」
「いや、まだ香織さんには挨拶してませんね」
「そっか……香織は教主様と一緒におると思うわ。なんだかんだ強かな子やから大丈夫やと思うけど、恐縮しやすい性格やからな、見かけたら声かけて緊張ほぐしたってくれや」
「分かりました。オリビアさんにもまだ挨拶をしていないので、ふたりを探して声をかけてみますね」
面倒見のいい茜さんらしい言葉に思わず笑みを浮かべつつ、ふたりに軽く挨拶をして次の場所に向かう。そういうことなら次は香織さんとオリビアさんのところに向かいたいところだけど、この能力は個人の特定までは……うん? あれ?
いままでは挨拶していない相手がどこに居るか漠然と分かるだけだったのだが、「香織さんはどこだろう?」と考えてみると、香織さんがいる場所が分かった。
なるほど、漠然と挨拶をしていない人を探そうとすれば挨拶をしていない人が、特定の誰かを探そうと考えればその相手の場所が分かるのか……これは本当にありがたい能力だ、エデンさんに心から感謝したい。
シリアス先輩「このペースだと、㊿くらいで終わりそうな感じかな?」
???「主要な相手には挨拶しましたし、そうなりそうですね……というか㊿までしかないですし、この特殊文字」