船上パーティ㊴
ロズミエルさんに腕を抱かれる感触にドキドキしつつ、それを誤魔化すように近くに居たカミリアさんに声をかける。
「ロズミエルさん、テンション高いですね」
「珍しい美術品を見て興奮してるみたいです。エリィがここまで積極的なのは本当に珍しいですね。まぁ、いまの行動に関しては無意識で気付いてないだけだと思うので、そろそろ気付いて……」
「え? 気付いてないって、なに……に……あっ……」
苦笑を浮かべながら告げたカミリアさんの言葉に首を傾げたロズミエルさんだったが、少ししてなにかハッとした表情に変わった後で、抱きかかえている俺の腕と俺の顔を交互に見る。
そしてみるみる顔を赤くし、大慌てといった様子で手を離した。
「あっ、ご、ごご、ごめんね、カイトくん。そ、その本当に無意識で……あっ、えっと、腕痛くなかった?」
「ああ、いえ、大丈夫です。ちょっとビックリはしましたが、痛かったりということはないです」
「そっ、そっか、それならよかった」
「ふふ、無意識とはいえエリィが腕を抱くとは、それだけカイトさんに気を許している証拠でしょうね」
顔を赤くしながら謝罪するロズミエルさんに大丈夫だと返す。実際に腕が痛かったりというのはなく、ただただ胸の感触にドキドキしていたのだが、それを口にするわけにもいかない。
ロズミエルさんが現在来ているドレスは、胸元が開いたデザインになっているため地肌の感触が凄まじい破壊力だった。
「けど、凄い数の展示品ですね。俺はパーティのステージで紹介する美術品に関しては、事前に教えてもらってたんですが……そっちでは紹介せずに展示室にだけ展示する品はあまり知らないんですよ。なにか珍しいものがあったりしますか?」
変に意識して胸に視線が向いてしまわないように話題を切り替える。俺が想像していたよりも展示室は広く、いろいろなものが展示してある感じだったので、この機会に珍しいものは見ておこうと考えたからだ。
「あっ、えっと、向こうにあるのは私も初めて見たよ。ブロッサムから少しだけ聞いたことがあるんだけど、異世界には鉄の巨人が居るって話だったから、それを模したものかなぁって……」
「鉄の巨人ですか? えっとどれどれ……あ、ああ、なるほど……ロボットですね」
ロズミエルさんが珍しいと紹介してくれた展示物に視線を動かすと、倉庫にあったのは……うん。えっと……グレートアリスちゃんロボじゃねぇか!? フィギュアかプラモかどちらかまでは分らないが、ミニチュアスケールのものを作って展示してあった。
……さてはこの展示室、アリスの悪ふざけというか、その場のノリで作ったような品も結構紛れ込んでるな……。
「ロボットっていうんだね。私もリアも初めて見たから、結構珍しく感じるよ」
「そうですね。アイアンゴーレムに近いものでしょうか? カイトさんの世界では一般的なのですか?」
「ああいや、このロボットはなんというか……創作物の中に出てくるもので、実在するわけじゃないんですよ。ただ好きな人も多いので、かなりいろんな種類がありますが……」
ふたりに簡単にロボットに付いて説明していて、ふとあることに気付いた。先程までロズミエルさんが俺の腕を抱いていた関係上自然ではあるのだが、現在俺の右にはロズミエルさんが居て、左にはカミリアさんがいるという美女ふたりに挟まれている状態だ。
なんか、意識するとちょっと恥ずかしくなってくるかもしれない。
「うん? カイトさん、どうしました?」
「ああ、いえ、いまの並び順を見て、両手に花みたいな状態だなぁとか、そんなこと考えてしまってました」
「花……ふむ、草の精霊の私は花でいいのでしょうか?」
「う、う~ん、どうでしょう? あくまで比喩なので、華やかで素敵な女性が両側に居るという意味でなら、間違いなく両手に花ですね」
どう答えるのが正解かわからなかったので、とりあえず思ったままのことを伝えると、カミリアさんは全く予想外だったという感じのキョトンとした表情を浮かべていた。
「あっ、たぶんそんな風に思われてるとは考えてなくて驚いてるんだと思う。リア、美人なのに自己評価が低いし、変に影の薄いところあるから……もったいないよね」
「そうですね。俺もカミリアさんは凄く美人だと思いますよ」
「え? あ、そ、そうですか……ありがとうございます」
「ああ、もちろんロズミエルさんも凄く美人ですよ」
「ふふ、私に気を使ってくれたんだね。ありがとう……やっぱり、カイトくんは優しいね」
あまり容姿を褒められることに慣れていないのか、カミリアさんは照れた様子だったが、ロズミエルさんは少し余裕そうな雰囲気だ。ロズミエルさんは人見知りなだけで、華やかな恰好を好んでいるし、心を開いた相手には結構積極的なところもあるので、この手の話題に関してはカミリアさんより強いのかもしれない。
シリアス先輩「なんとなくだけど、ロズミエルはアイシスとかと同じタイプで、恥ずかしいとかそういう感情より先に快人に褒められて嬉しいってのが来るタイプだと思う」