船上パーティ㊳
アメルさんを連れてイリスさんのところに行こうと思ったのだが、偶然にも途中でイリスさんと遭遇した。
「あれ? イリスさん?」
「うん? ああ、偶然だな。丁度、飲み物や食べ物を取りに来ていたところだ……アイシス様への給仕を一般のメイドにさせるわけにはいかんしな」
「ああ、なるほど……」
言われてみれば普通のメイドがアイシスさんに近づくことはできないので、配下の誰かが飲み物や食べ物は取りに行く必要がある。食事スペースを設けているとはいえ、別に他の場所で食べてはいけないというわけでもないので料理などを取って持っていくのも問題ない。
「けど、丁度良かったです。いま、イリスさんに会いに行こうとしたところで……」
「我に?」
「秘境の主にして、雪原の一等星。こうして再び巡り合える奇跡に感謝しよう。盟友が貴女の元を訪れよとしていたのは、ボクが引き起こした因果によるものだ。ボクの奏でる旋律は選ばれし者にしか届かず、狂乱の中において静寂に飲まれるところだったので、盟友が気を使ってくれというわけだよ」
「ああ、なるほど、確かに独特の喋り方とする故、慣れておらぬ者には分らぬかもしれんな。そういうことであれば構わんぞ。アイシス様もお喜びになるだろう」
流石というべきか、イリスさんはアメルさんの言い回しをちゃんと理解しているようで、特に表情を変えることなく頷いてくれた。
アイシスさんも性格的にアメルさんと会って話せるのは喜んでくれるだろうし、イリスさんが居ればアメルさんの言葉の意図を伝えるのも簡単である。
そんなことを考えていると、イリスさんは俺の方を向いてフッと笑みをこぼして口を開く。
「お前は挨拶回りの途中であろう? コヤツは我に任せて、挨拶回りに戻って問題ないぞ」
「あ、いいんですか?」
「うむ。元よりアイシス様の元に戻るつもりであったし、同行者が増えたところで問題はない。先に言った通り、アイシス様もお喜びになるだろうしな。というわけで、アメルだったか? お前もそれで構わんか?」
「示す輝きに不満はないよ」
「ありがとうございます。それじゃあ、お願いします」
どうやらこちらの事情を察して、アメルさんのことは任せろと言ってくれるイリスさんにお礼を言う。まだ時間的には余裕はあるが、パーティも中盤となったことで結構挨拶をしていない人がアチコチに散っているので、移動に時間がかかることを考えるととてもありがたい提案だ。
「盟友も手間をかけたね」
「ああ、いえ、気にしないでください。アメルさんがパーティを楽しんでくれたら俺も嬉しいですからね。それじゃあ、また時間があれば話しましょう」
「うん! 盟友も挨拶回り頑張って――んんっ! 健闘を祈る」
アメルさんをイリスさんに任せ、俺は次の場所へ向かうことにして歩き出した。
会場を移動しつつエデンさんにもらった能力を使うと……ふと、会場の外に挨拶をしていない人がふたりいるのが分かった。
位置は……展示室。ああそっか、アリスのコレクションは一部ステージで紹介され、そのあとは紹介しきれなあったものと一緒に隣の展示室に飾られるんだった。
となるとこのふたりは、展示室に居るのだろう……よし、次はそっちに行ってみよう。
展示室にたどり着くと先程感じたふたりが誰だったのかはすぐに分かった。美術品を前にして目を輝かせているロズミエルさんと、それに付き添っているカミリアさんだった。
ロズミエルさんは芸術品が大好きだし、なんとなくの予想ではあるが、ステージで美術品が紹介されたあとはずっとこの展示室に居たんじゃないかと思う。
「こんにちは、ロズミエルさん、カミリアさん、展示品の鑑賞ですか?」
「ああ、カイトさん、こんにちは。ええ、エリィが興味津々でもうずっとこの場に……」
「あっ、カイトくん。こんにちは、凄いよ! さすがシャルティア様っていうべきかな、本当に凄い美術品ばっかりで、私もまったく知らなかったものや、噂でしか聞いたこともなかったものがいっぱい」
「あはは、楽しそうですね。いま見てるのは絵画、ですか?」
「うん! こ、この絵は凄くてね! あっ、こ、この角度から見ると絵の色が……」
「え? あっ、ちょっ――ッ!?」
初めて見るほどテンションの上がっているロズミエルさんは、非常に嬉しそうな様子で俺の手を引いて……いや、手を引くというか腕を抱きかかえるようにして俺に絵画の見どころを夢中で説明してくれる。
だが、俺の方はいきなり腕を抱きしめられふにっとした柔らかな感触と、薔薇のいい匂いにそれどころではない……なんというか、男の悲しいサガというべきか、どれだけ恋愛経験を積んでも不意打ち気味に美女の胸を押し当てられるような形になると、動揺して落ち着かなくなってしまう。
ロズミエルさんが嬉々としてしてくれている説明も、あまり耳に入ってこなかった。
シリアス先輩「ポメラニアンの次はチワワ出てきた!?」