船上パーティ㊲
テンションの高いアメルさんとある程度話した後、本来ならこのまま次の挨拶に向かうのだが、なんか若干ぼっち気味だったアメルさんをそのままにしておくのもアレなので、なんとかしたいところではあるのだが……アメルさんに誰かを紹介するというのは、かなり難しい。
例えばこれがロズミエルさんとかであれば、とりあえずカミリアさん辺りに傍に居てもらえればそれで解決するしネピュラが考案した目線で会話する方法も同じことができる人はいるだろう。
だが、アメルさんの場合は本人のコミュ力とは別のところに問題があるタイプなので、例えば誰かにアメルさんを紹介して、アメルさんがああいった言い回しをする理由を説明したとして、ならばそれで誤解せずにアメルさんと仲良く会話ができるかというと……残念ながらそうはならない。
例えば、葵ちゃんとか陽菜ちゃんのような同じ異世界出身組には、いわゆる中二病であると伝えれば事情はある程度理解してくれるだろうが……だからと言って、アメルさんの言い回しを読み取れるようになるわけではないのだ。
「アメルさんって、今回のパーティの参加者と結構知り合いだったりします?」
「ボクもまた使命を背負いし者だからね。勇者の祭典にて円環の理の如く巡り合う者もいれば、刹那の会合のみにとどめた者もいるよ」
「勇者祭なとで定期的に合う人も居れば、挨拶しただけの関係の人も居ると……」
そう、この言い回しを理解できなければアメルさんとの会話は成立しない。しかも厄介なのが、この言い回しには別に法則があるとかそういうわけじゃない。この単語ならこの言い回しと決まっているわけでもなく、なんとなくカッコよさそうな言い回しをその時々でチョイスしてるだけなので、法則性はない。
慣れてない人でもなんとなく意味が分かりそうな言い回しもあれば、慣れてる俺でも数秒考える難解な言い回しが飛んでくることもある。
あと俺には感応魔法があるので、アメルさんの言いたいことをなんとなく感じ取れるというのもある。リーリエさんみたいに心が読めるわけではないのだが……あっ、リーリエさんならアメルさんの心を読んで、言い回しに混乱することなく会話できるんじゃないだろうか?
「ちなみに、比較的よく会う相手だと?」
「焔の使途とは祭典でよく会うね。猛き戦の王に付きしたがって来ることが多い。しかし、会合の頻度ほど絆は煌めきを増してないね。あとは赤き花の精とも会う機会はあるが……彼女はその……心読まれるから、ちょっと苦手で……んんっ、波長がイマイチかみ合わないね」
……駄目そうだ。明らかにリーリエさんに苦手意識というか、明確にあんまり会いたくなさそうな顔してる。俺はそもそも常時シロさんとかに心を読まれてるようなものなので気にならなかったが、リーリエさんが言っていたように心を読まれるのは嫌がるものなのだろう。
アメルさんの場合はせっかくカッコよく振る舞ってるのにそれを無効化されるってのが嫌なんだろうけど……。
「……あっ、そうだ。アメルさん、アイシスさんの陣営のところには言ったりしました?」
「凍てつく死の王? いや、そもそも凍てつく死の王とはあまり祭典でも話した覚えがないし、以前はかなり怖――んんっ、近寄りがたき圧を放っていたので、ボクといえども迂闊には近づけなかった」
たぶんアメルさんが思い浮かべているのは荒れてた頃のアイシスさんだろう。アリスとかも言っていたが、あの時のアイシスさんはほぼ常時周囲を威嚇しているような状態だったとか……実際俺も初めて遭遇した時に相当距離があったにもかかわらず、死の魔力によって死を幻視した。
あの時はそれこそ爵位級レベルの力があっても威圧されていた可能性が高いが、いまのアイシスさん相手であれば爵位級に相当する実力があるアメルさんは大丈夫なはずだ。
「前に俺の家に来た時に、地下のバーで会った店長……イリスさんが、アイシスさんの筆頭配下なので、イリスさんとアメルさんは気が合いそうだなぁって」
「あの時の店主! うん、確かに、あの店主ならボクの言うこともわかってくれてたし、友達になれそ……んんっ! 確かに、彼女からは近しい力を感じた。もしや、彼女も黒を身に宿すものなのか……」
「……かもしれませんね」
その、彼女もって部分に俺も含まれてたりしないよね? 黒を宿すとか言われると、必死に記憶の奥底に封印している黒歴史のことを思い出しそうになるので勘弁してほしい。
というか、あの黒歴史この世界に来てから変なタイミングで記憶の奥底から出てこようとするので、なんとも恐ろしい話である。
シリアス先輩「……思ったんだけど、番外編とかで見たイリスの黒暴星って通り名……アメルが付けたんじゃ……」