船上パーティ㉟
賑わうパーティ会場内の一角で対照的な表情を浮かべて向かい合うふたりがいた。片や苦虫を噛み潰したような表情を浮かべているのは、十魔の一角リリムことリスティア・アスモデウスであり、対照的にどこか不敵で楽し気な笑みを浮かべているのは同じく十魔のひとりモロクことサタニア・ダークロードだった。
彼女たちはそれぞれ、リスティアは皇帝クリスの母親として、サタニアはロード商会の商会長として、それぞれ表の立場での参加をしている。そしてその表の立場こそが、リスティアが表情を歪めている要因でもあった。
「……これはこれは、サタニアさん。こうしてお会いできて光栄ですわ。娘が……クリス陛下がお世話になっているとか……」
「これはこれは、リスティア様ではありませんか。ええ、そうですね。クリス陛下とは良き関係を築けていると思っていますよ」
表面上はにこやかに挨拶を行った後、リスティアがパチンと指を弾くとふたりの周りに周囲に音を漏らさない結界が張られる。
これで外に会話の内容が知られる心配はなくなり、サタニアは口調を崩して告げる。
「随分とまぁ、忌々しそうな顔をしているなリリム。娘が私と懇意にしているのがよほど嫌と見える。ふはは、愉快なものだ」
「モロク……念のために確認しておくけど、私を煽るためにわざとクリスちゃんに協力してるわけじゃないんでしょ?」
「もしそうだと言ったら?」
「殺すわ」
「ふふっ、まぁ、案ずるな。別に貴様への嫌がらせが目的ではない。純粋に未来の展望を見据えたうえで革新派であり、いま躍進中のクリス皇帝と協力関係になっておいたほうが、ロード商会としてもいいと判断したからだ。まぁ、わざわざ言わずとも仕掛けてこない時点で、貴様も分かっているのだろうがな」
「ええ、貴女とロード商会のバックアップはクリスちゃんにとってすごく有益……私個人としては面白くないけどね」
そう、サタニアが商会長を務めるロード商会は最近クリスを支持して様々な支援を行っている。革新派のクリスとしては、大商会のバックアップを得ることで様々な場面で以前より行動を起こしやすくなっており、おかげでアルクレシア帝国の改革もかなり進んでいた。
だが、クリスを十魔の連中と関わらせたくないリスティアにとっては、その関係は複雑である。クリスにとって極めて有益な関係であると分かっているから、文句こそ言わないが……それはそれとして面白くはない。
「いい、協力関係なのはともかく、クリスちゃんに貴女の気色悪い趣味なんかを見せたりしたら、本当にただじゃおかないからね」
「やれやれ、串刺しの美しさも分からんとは、これだから色欲に溺れた奴は……言われずとも、私の正体がバレかけない趣味など話すわけがないだろう。串刺しの美しさを布教できないのは残念だがな」
「気持ち悪いだけで、美しさなんて欠片もないでしょうが……」
「は? 串刺しがいかに素晴らしいかを分からんとは、愚か者であっても許し難いな……せっかくの機会だこの場で串刺しの素晴らしさを――ちょっと待て、貴様との話は一時中断だ」
「うん? いきなりなにを――ああ、なるほど」
荒々しい雰囲気を出していたサタニアだが、突如なにかに気付いた様子で話を打ち切り、手鏡を取り出して髪型などをチェックし始めた。
その様子に一瞬首を傾げたリスティアだったが、直後に近づいてくる気配を感じてすべてを察した様子で頷いた。
「こんにちは、リスティさん、ニアさん、今日は来てくださってありがとうございます」
「こっちこそ招待ありがとう。パーティは好きだから、楽しませてもらってるわ」
「ミヤマカイト様に礼を持って挨拶を……わざわざ私たちの元にまで足を運んでいただき、その慈悲深さに身が震える思いです。さすがはミヤマカイト様というべきか、これほどのパーティは私もなかなか見たことが無く……」
「……私と話してた時と随分態度が違うわね、串刺しマニア……」
挨拶にやってきた快人に対し、リスティアは自然体で、モロクは綺麗な動作で頭を下げながら挨拶を返した。そのなんとも分かりやすい態度の変化に、リスティアは大きなため息を吐いていた。
シリアス先輩「ただ実際、この場合で快人側から評価が高いのは自然体で気楽に接してくれるリスティアの方だよな?」
???「まぁ、カイトさん的にはそうやって気楽に接してもらえたほうが嬉しいでしょうしね。まぁ、モロクは忠誠心バグ組なので、フランクに接するのは無理でしょうけど……」