船上パーティ㉝
結局フィーア先生との休憩は、予想通りというかなんというかしばし延長することになってしまったが、おかげでしっかり休憩出来てリラックスもできた。
フィーア先生にお礼を言って会場に送り届けた後は、挨拶回りの再開である。心身ともに元気で気力もあるので、ドンとこいという感じだが……まぁ、別にそんな気合を入れるようなものでもないか。
「おや? 愛しい我が子ではありませんか、休憩から戻ってきたのですね」
「あ、どうも、エデンさん」
あ~でもちょっと、初手エデンさんは結構厳しいというか、もうちょっと心の準備が……いや、マキナさんと共にエデンさんに対する挨拶は終わっているのだが、こうして偶然遭遇したならまったく会話しないというのも変だ。
しかし、これはかなりヤバいかもしれない。だってエデンさんはさっき愛しい我が子って……うん? おや?
「……あれ?」
「どうしました、愛しい我が子?」
「ああ、いえ、エデンさんの雰囲気が……あれ?」
エデンさんが俺のことを愛しい我が子と呼んでいるので、過去の経験上フェーズは上がっているはずなのだが、普通ならこの段階で若干感じるような狂気の気配が全くない。
むしろ非常に穏やかに微笑んでおり、暴走していない状態のエデンさんの雰囲気だった。
「ああ、なるほど……愛しい我が子の疑念は分かりました。簡単に説明しますと、愛しい我が子への一定以上の愛情は、向こうの私……マキナの方が受け持っているので、暴走するのはあちらです。そして、あちらの方にはアリスが付いていますので、エデンとしての私に関しては暴走する心配はないと考えてもらっていいかと……」
「……あ、えっと、分かるような分からないような……そういう一部の感情だけ別にとか……いや、まぁ、エデンさんならできても不思議ではないですね」
一定以上の愛情だけ別の自分が受け持つという謎のセーフティシステムには戸惑うが、目の前にいるのは全知全能の神であり、そのぐらいやろうと思えば問題なくできるだろう。
ということは、今目の前にいるエデンさんは暴走する心配がない状態のエデンさん……我が子以外に厳しい以外は、優しく穏やかな状態というわけだ。
……安心感が凄いなそれ。いや、元々エデンさんは暴走していない状態であれば、優しく穏やかな雰囲気であり、普通にいい人……いやいい神である。
実際、香織さんなどを含めた異世界人はエデンさんを慕っている。俺の場合は、油断すると暴走するため、エデンさんの状態に注意をしなければならないので気が抜けない相手なのだが……その暴走の心配がないエデンさんとは、なんか欠点が完璧に克服された感じがする。
いや、実際は他所に移してるだけで克服されてないし、対応してるアリスは大変なのだろうが……。
「愛しい我が子はいかがですか? パーティの主催は初めてで戸惑うでしょうが、なにか困りごとなどはありますか?」
「いえ、なんだかんだで楽しくやれてますよ。休憩もしっかりしたので、挨拶回りも問題なく再開できそうです。ああでも、結構招待客が多いのと、中盤に差し掛かってあちこちに移動してることもあって、まだ挨拶していない相手がどこにいるか探すのが、少し大変かもしれませんね」
「なるほど……では、私が協力しましょう。少し頭に触れますね」
「え? 協力?」
首をかしげる俺の頭にエデンさんが軽く触れ、エデンさんの手が淡い光を放ったが……特になにか変化があるわけではなかった。
すると、そんな俺に対してエデンさんは優しく微笑みながら告げる。
「このパーティが終わるまでの期間に限定して、愛しい我が子に『まだ挨拶をしていない相手の居場所が分かる』という能力を付与しました。挨拶していない相手を探そうと頭に思い浮かべれば、自然とどこにいるのかが分かるようにしました」
「え? それはめちゃくちゃ助かります。どれ、試しに……」
エデンさんの説明の通り、まだ挨拶してない相手を探そうと考えると、確かに感覚的にまだ挨拶していない人たちが会場内のどのあたりに居るかが把握できた。
これ凄く便利である。わざわざ探さなくても大雑把にだれがどの辺りに居るかが分かるので、挨拶回りの効率がかなり上がる。
「これならかなりスムーズに挨拶回りができそうです。ありがとうございます、エデンさん!」
「愛しい我が子の助けになれたのでしたら、私も嬉しいですよ。ただ、愛しい我が子は頑張りすぎてしまうところがあるので、時折休憩を挟みつつ無理のないペースで頑張ってくださいね」
「あ、はい!」
優しく俺の頭を撫でて微笑んだ後で、エデンさんは軽く会釈をして移動していった。やっぱ、暴走しない状態だと全然違うというか……いつもあの状態なら、本当に気が楽なんだけどなぁ……。
シリアス先輩「え? これはかなりいいシステムなんじゃ……今後常用すれば……」
???「やめてください。さっきの、カイトさんとエデンさんの会話の最中に、私が何発マキナをぶん殴ったと思うんですか……負担は全部こっちにきてるだけなんすよ……」