船上パーティ㉛
休憩室として使っている部屋は、豪華客船だけあってかなり広く大きなソファーもある造りである。テーブルとイスもあって、シロさんとはそこでお茶をしたのだが……今回は休憩だしソファーでのんびりしたいところだ。
「フィーア先生、ソファーで大丈夫ですか?」
「うん」
「じゃあ、マジックボックスから何か飲み物でも……」
「おっと、駄目だよ、ミヤマくん」
「え?」
ソファーに座って、マジックボックスの中から紅茶か何かを取り出そうとしたら、そのタイミングでフィーア先生から待ったがかかった。
「いまはミヤマくんの休憩なわけだし、そこで私ももてなそうとしちゃ駄目だね。ミヤマくんは真面目で優しい性格で、すっごくいい子だけど……休むのだけはちょっと下手だから、ここは私に任せてほしいな」
「なるほど、お医者様にそういわれてしまうと従うしかないですね。じゃあ、せっかくなので言葉に甘えてフィーア先生に任せますね」
「うん。ミヤマくんは、喉は乾いてる?」
「いや、それがパーティである程度飲んでたこともあってまったく」
休むのが下手と言われると、なるほどと自分ながらに納得してしまう。実際過去にも休憩不足でクロに怒られたりしたこともあるし、なんだかんだで主従は似るというか、アニマと同じく俺も休むのはあまり得意ではないようだ。
性格的な面もあるのだろう。なんとなく、アレをしなきゃとかコレをしなきゃとか考えちゃうのかもしれない。なので、フィーア先生にお任せしてしまったほうが、しっかり休めるかもしれない。
「そっか、私も喉は乾いてないし……飲み物は無しでも大丈夫かな。じゃ、せっかくだしちょっと肩とか背中とかマッサージしてあげるよ。足とかの疲労に意識が向きがちなんだけど、長時間姿勢よく立ってたりすると背中の筋肉が固くなって、後々肩や背中の痛みに繋がったりするからね」
「なるほど……確かに言われてみると、ちょっと肩甲骨辺りが張ってるような感じもしますね」
「うん。その辺りは結構負荷がかかりやすい場所だからね。痛みとかを感じる前に適度にほぐしておくのが大事なんだよ。座ったままでもできるけど、ソファーも大きいし少しうつ伏せになってもらっていかな? 服には状態保存の魔法をかけるから、シワとかは気にしなくて大丈夫だけど……マッサージのしやすさを考えると、ジャケットは脱いでおらえたほうがありがたいかな」
「了解です」
フィーア先生の言葉に従って、ジャケットを抜いて部屋に置いてあるハンガーラックにかける。そしてソファーにうつ伏せの形で寝転んだ。
ソファー自体がかなり大きいので、うつ伏せで寝転がっても結構余裕がある感じだった。
「じゃあ、首回りと肩、それから背中をマッサージしていくね。痛かったら教えてね」
「はい。よろしくお願いします」
そう答えるとフィーア先生の手が俺の首に触れ、優しく全体をほぐすようなマッサージをしてくれた。あまり強すぎず、筋肉をほぐすような感じて……非常に気持ちがいい。
フィーア先生のマッサージが上手いのが最大の要因だろうが、首回りとかが程よくほぐれていくのが分かる気がした。
「ミヤマくん、どう? 力加減は大丈夫かな?」
「はい……というか、滅茶苦茶気持ちがいいです。前にも少し肩とか揉んでもらったことがありましたけど、フィーア先生は本当にマッサージが上手ですよね。医者として、マッサージとかする機会があるんですか?」
「いや、全然ないね。知識として人体の構造とかには詳しいし、どこをほぐせばいいかとかは分かってるけど、普段の医者としての仕事でマッサージをする機会はないね。医者にかかりに来るような症状だと、ひどい筋肉痛とか筋を痛めてるとかってパターンが多いし、そういう状態でマッサージをすると筋肉を傷つけちゃうことがあるから、マッサージしたりはせずに貼り薬だね。症状がひどいときは治癒魔法だね」
なるほど、確かに治癒魔法のほうが治療としては手っ取り早い。マッサージは気持ちよくリラックスできるという利点はあるが、治療なら薬や治癒魔法の方が適切だろう。
あくまで今回も俺のリラックスと疲労回復が目的で、医者としての治療行為ではないのでマッサージをしてくれているのかもしれない。
そんなことを考えていると、不意にフィーア先生が俺の耳元に口を寄せて甘くとろけるような声で囁いた。
「……だから、私のマッサージは……大好きなミヤマくんにだけの特別サービスだよ……ふふ、なんてね」
暖かな吐息と共に耳をくすぐったその言葉にドキッとした。少し顔が熱い気がするのは、マッサージによって血行が良くなったからか、はたまた気恥ずかしさからか……ハッキリとは分からなかったが、悪い気はしなかった。
シリアス先輩「ぐ、ぐわぁぁぁ……やっぱりそういう展開を差し込んできやがった、クソがっ!?」