船上パーティ㉚
ノアさんとレイチェルさんと話した後、次は誰の場所に向かおうかと考えていると、ステージ上のキャラウェイが拡声魔法具を用いて次の余興について説明を始めた。
『皆様、パーティをお楽しみいただいている最中ではありますが、ここで再び幻王様のご厚意により素晴らしい余興を用意しております。非常に多彩なことで知られる幻王様は、楽器の演奏に関しても超一流という話をご存じの方は多いかと思います。さりとて、そもそも余り表舞台に姿を現さない幻王様の演奏を聞いたことがある方は稀……ですが、今回はこのパーティにて幻王様が特別に演奏を披露してくださることとなりました。しばし、幻王様の奏でる素晴らしき旋律をご堪能ください』
どうやら俺が思った以上に時間は経過していたみたいだ。この演奏の余興はパーティの中盤に差し掛かったあたりで行われる予定だったはずなので、もう半分ほどが経過したわけだ。
チラリと時計を取り出してみてみると、なるほどそれなりに時間が経過していた。ただまぁ、このタイミングというのはある意味ありがたいかもしれない。
そんなことを考えつつ、俺は挨拶回りを一度止めてステージ脇にあるスタッフ用の扉に向かった。
というのも、アリスのこの演奏はおおよそ45分程度行われる予定であり、その間は参加者が演奏を聴くのを邪魔しないように俺は別室で待機するという話になっている。
……まぁ、なんというか、そういう名目での俺の休憩時間である。なんだかんだであちこち挨拶に回ったりしていると疲労も溜まるので、ここで一休みできるのはかなりありがたい。
というか、アリスのことだから元々この演奏の余興に関しては、俺が気兼ねすることなく休憩できるようにと敢えて用意してくれたのだと思う。
なんにせよ、せっかくの休憩だ。休憩室に移動してしばしの間のんびりするとしよう。
そんなことを考えながらスタッフ用の出入り口から外に出て、休憩室に向かって移動しようとすると……直後に先程俺が通ってきた扉が開く音が聞こえて振り返る。
するとそこには、なぜか扉から出てくるフィーア先生の姿があった。
「やっ、ミヤマくん。ここ、通ってもよかったかな?」
「え、ええ、それは大丈夫ですが……どうかしましたか?」
「ああ、いや、用事ってわけじゃないんだけど、ミヤマくん休憩だよね?」
「あ、はい。アリスが演奏している間は休憩時間ってことになってますね」
俺の返答を聞いたフィーア先生は、どこか満足げな表情で頷く。表現するならば、期待通りの反応だとかそんな感じである。
「挨拶回りとかも忙しいし疲れちゃうからね。主催者として気を使ったり配慮する必要がある部分もあるだろうし、休憩は大事だよね。というわけで、ミヤマくんがリラックスして休憩できるように手伝おうかな~って、ほら、私マッサージとか得意だしね」
「なるほど、それはありがたいんですが……フィーア先生は演奏を聞かなくていいんですか?」
「うん。シャルティア様の演奏は何度か聞かせてもらったことがあるし、私は大丈夫だよ。それにほら、私じっとしてるのが苦手だったりする部分もあるわけだしね」
そう言って苦笑するフィーアさん先生に俺も笑みを返す。実際休憩室に行っても寝たりするわけでもないし、話相手が居るのはありがたい。
恋人であるフィーア先生相手なら肩ひじ張らずにのんびり会話できるし、正直な話一緒に来てくれるのはありがたいという気持ちが強かった。
「じゃあ、せっかくですしお願いします」
「うんうん、任せて! じゃ、いこっか……ミヤマくん用の部屋があるのかな?」
「ええ、待機室として使ってた部屋で、ここからもすぐです」
「ふむふむ、じゃあ距離は短いけど恋人同士だし手をつないでいこう!」
ニコニコと明るい笑顔で話すフィーア先生を見て、こちらも自然と楽しい気分になれた。そして、フィーア先生が差し出してきた手を取って、しっかりと恋人繋ぎで手を繋いでから休憩室に向かって移動する。
「あっ、いうのが遅くなりましたけど、ドレスがよく似合ってて綺麗ですよ」
「わっ、ありがとう! 魔力で作ってる関係上、普段は同じ服ばっかり着てるからちょっと不安だったんだけど、ミヤマくんがそう言ってくれてよかったよ」
「あ~なるほど、魔力で服を作るって便利だなぁと思ってましたけど、意識しないと同じ見た目のばっかりになるって欠点もあるんですね」
「うん。もちろん別の服に変えられるんだけど、術式を微調整する必要があるからちょっとだけ手間で、それが面倒で同じ服のまま~ってパターンが多いね。一度消して作り直せば汚れとかもすぐ綺麗になるし、便利なのは間違いないんだけどね」
服の維持にもそれなりに魔力が必要なので、ある程度の実力者でなければ魔力で服を作るというのは難しい。まぁ、コングさんのように実力者であっても苦手という方もいるみたいだが……。
そんな風に穏やかに雑談をしながら、廊下を歩いて行った。
シリアス先輩「ま、待ってくれ……パーティ中は、ほのぼの挨拶回り展開じゃないのか? な、なんか、恋人と二人っきりで休憩とか、そんなシチュエーションに移行してるんだけど……」