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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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尊敬できる人だと思う


 突如駆けこんできた怪我人の治療も終了し、お礼を言って去っていく男性二人を見送った後で、ノアさんもそろそろ帰って夕食の支度をすると言ってきた。
 送ろうかと提案してみたが、大丈夫と告げてノアさんは帰っていった。
 まだ夕方前とは言え女性を一人で帰すのは心配だったが……そもそもノアさんは魔族であり、ハーフヴァンパイア……血さえ補充すれば、俺なんかとは比べのもにならないほど強いらしいので、要らぬ心配みたいだったが……

 そのまま俺も帰っても良かったのだが、折角なのでよく見て無かった教会を見学して帰ろうと思い、フィーア先生も快くそれを了承してくれた。

 壁一面に飾られた膨大な数の十字架は、プラネタリウムの星みたいで、そこがこの教会が少し変わっている部分でもある。
 俺も教会に直接行った事はなかったが、テレビ等で見てある程度は知っている……少なくともこんなに十字架だらけでは無かった筈だ。

「……綺麗ですけど、俺の知ってる教会と少し違うイメージですね」
「ああ、それはそうだよ。だってここ、元々教会じゃないからね」
「……へ?」

 思い浮かんだ疑問をそのまま口にしてみると、フィーア先生から衝撃の答えが返ってきた。
 え? 教会じゃない? この内装で?
 驚愕している俺を見て、フィーア先生は柔らかく微笑みながら近くにあった木のベンチに触れつつ口を開く。

「……ここは、元々私が個人的に作った場所で、私としては教会のつもりはなかったんだけど……ミヤマくんと同じように勘違いした人が、お祈りさせてくれって言ってきてね。それから椅子とか祭壇とか付け足して、教会っぽくした感じかな?」
「成程。それで医者だったフィーア先生が司祭も兼任してるって訳なんですね」
「……い、いや~別に司祭らしい事はしてないし、私としては医者だけで十分なんだけど……まぁ、世間の認識的にはそうなるのかな?」

 そう言って苦笑するフィーア先生の顔は美しく、司祭服も相まって本当に聖女みたいに見えた。

「そういえば、なんで、フィーア先生は医者になったんですか?」
「へ? 私?」
「あっ、いえ、聞いちゃ駄目なら大丈夫ですが……」

 気付けば不意にそんな疑問が口をついて出ていた。
 フィーア先生は立派な人だと思うし、本当に優しい方だというのは感応魔法で伝わってくる気持ちでしっかり分かる。
 ただ、どこか奇妙な感じだった……穏やかな優しさの中に、常に暗い感情が微かに紛れているって感じで、先程男性達がお礼の言葉を告げて帰った時も、何故かフィーア先生からは辛そうな感情が流れてきていた。

 その答えを知りたくて疑問を口にしたが、勿論何かの事情があるだろうし無理に聞くつもりはない。
 そう告げるとフィーア先生は、少し沈黙した後で微笑みを浮かべて人差し指を立てる。

「……じゃあ、答える前に問題! 私は、なんでシンフォニア王国で医者をやってるのでしょうか?」
「……え、えっと……う~ん。食べ物が美味しいから?」
「確かにシンフォニア王国は食文化が進んでて良いよね。でも、残念。はずれだよ」

 正直俺にとって他の国とシンフォニア王国の違いと言えば、アリスに教わった食文化が発展してる……ぐらいしかない。
 ただ、フィーア先生の口振りでは、何かしらシンフォニア王国を拠点にしている理由があるみたいだ。

「答えはね……シンフォニア王国には『医者が少ない』からなんだ」
「え? そうなんですか?」
「うん。その理由は単純だよ。この国には『健康を司る女神様』の神殿があるから」
「……あっ、そうか! 祝福ですね」

 この世界には新年に神殿へ赴き祝福を受ける文化があり、健康の女神から祝福を受ける事により病気にならなくなると聞いた覚えがある。
 成程、確かに病気になる人が居ないなら、医者にとっては仕事が少ないという事になるんだろう。

「正解……だけど、今ミヤマくんが考えてる事は、たぶん間違いだよ」
「……え?」
「……祝福ってね。女神様が直接行うもの以外は、気休め程度の効果しかないんだよ……そして、女神様から直接祝福を受けられるのは、ほんの一握りだけ……」

 フィーア先生の言葉にハッとする。そう言えば、神による祝福は一回で金貨一枚……日本円にして100万円だ。
 貴族ならともかく、家族分の金貨……夫婦なら200万、子供も居れば300万以上を毎年用意できるのは、裕福な方達だけだろう。
 つまりシンフォニア王国の大半の人は、神から直接祝福を受けておらず、病気にかかるという事だ。

「……だから、この国では医者は本当に人気が無い職業なんだよ。お金を持ってる上層の人達は病気にならなくて、怪我だって頻繁にしたりする訳じゃないからね……じゃあ、ここでもう一つ問題」
「え?」
「マーメイドとハーピーの混血を母に、ハーフエルフを父に持つ子が居たとして、その子が病気になったら……どこの病院に連れていく? マーメイド族の? ハーピー族の? エルフ族の? それとも人間の?」
「……あっ」
「そう、この世界には混血が凄く多いし、体の造りも違ったりするからね。医者って本当に難しいんだ……私も長く医者をやってるけど、それなりに自信を持って診察出来るようになるまで、200年はかかったし、未だに初めて見るような症状の患者も来るよ」

 この世界は種族間の交流が盛んであり、混血は珍しくない。
 実際俺の知り合いでも、ルナマリアさんは聞いてるだけでも4種類の種族の混血……そうなると、医療の難易度は跳ね上がってくるんだろう。
 さらにいえば魔族はもっと多種多様であり、人界に住む魔族等の治療はまるで人間とは違うんじゃないかと思うし、かかる病気も変わってくるだろう。

「……まぁ、そんな訳で医者って不足しがちだから、私は医者になったって感じかな? まだまだ勉強中だけど、出来るだけ多くの種族を治せる医者になりたいね」
「それは、沢山の人を助ける為に……ですか?」
「……うん。一人でも多くの人に元気でいて欲しいんだ。笑っていて欲しいんだ……少しでも幸せな人生の手助けが出来ればって、そう思ってるよ」

 この人は本当に底抜けに優しい人だと思う……けど、まただ。また、なにか苦しむような、辛い感情が伝わってくる。
 これは……宝樹祭の時にリリアさんから感じた感情と似てる気がする。つまり、後悔……だろうか?
 だけど、これはたぶん気安く踏み込んで良い事情じゃないと思うし、聞く訳にはいかない。

「そうですか、教えていただいてありがとうございます。やっぱり、フィーア先生は立派な医者ですね。尊敬します」
「ッ!?」

 話を終わらせようと思って告げた筈だったが……俺の言葉を聞いて、フィーア先生の表情が歪んだ。どうしようもなく、辛そうな表情に……

 その変化に戸惑う俺の前で、フィーア先生はゆっくりと祭壇の方に歩いて行き、こちらを振り向かないままで小さく呟く。

「……私は尊敬されるような立派な存在じゃないよ。ううん、むしろ……この世界で、一番の愚か者だと思ってる」
「……え?」
「……ここにある十字架はね。『私が奪った命の数』なんだ……」
「ッ!?」

 悲痛な声で告げられた言葉は、すぐには理解する事が出来なかった。
 この一面の小さな十字架と同じ数の命を奪った? だって、十字架って……100や1000じゃ足りない程、びっしりと……

「……え、えっと、それは、その……医者として助けられなかった人達って事ですか?」
「……ううん。違う……勿論私だって万能じゃないから、助けられなかった人達はいっぱいいる。診察室の奥の部屋には、私が助けられなかった人達の名前を残してるけど……これは、それとは全く別なんだ」
「別、ですか?」
「……昔、私は沢山の人達の命を奪った。何の罪もない人達の、尊い命を理不尽に奪い去った……この部屋にある十字架は、私が犯した罪の象徴で、私が生涯背負い続けないといけない罰でもあるんだ……」

 フィーア先生の声は嘘を言っている感じでは無い。何より感応魔法により俺には痛いほど、フィーア先生の後悔が伝わってきていた。

「……一人の命を救えば、一人の命を奪った事が許されるなんて考えてないよ。ううん、むしろ例え何人の命を救っても、仮に世界中の人達を救ったとしても、私の罪が許される事はない……許されちゃいけないんだ」
「……」
「私は全能の神じゃない。どんなに悔やんでも、枯れるほどに涙を流しても、毎日のようにここで謝り続けても……消えた命は戻ってこない」

 俺がノアさんを連れてここにやって来た時、フィーア先生は祭壇の前で祈りの姿勢を取っていた。
 だけど、どうやらアレは祈りじゃなくて懺悔……己の罪の象徴であるこの場所で、奪った命に謝り続けていたみたいだ。

「……苦しくて、泣きそうでも、自分の罪から目を逸らさず、命尽きるまでそれを背負い続ける。そして一つでも多くの命を救い続ける……それが、たぶん、私に出来る唯一の贖罪だと思う」
「……フィーア先生」
「ごめんね。私は君に尊敬してもらえるような者じゃないんだよ」
「……」

 なんて、言えば良いんだろうか? 正直言葉が思い付かない。
 フィーア先生は自分の罪が許される事はないと言っていたが、たぶん誰よりもフィーア先生自身が己を許せないんだと思う。
 だから、例え俺がここで何を言っても、フィーア先生は一生その罪を背負い続けると確信できた。

 けど、なんだろう? どうしても、何かを言わなければならない気がした。

「……俺には、正直よく分かりません。フィーア先生が昔どうだったか、どんな罪を犯したのか……俺には何も言う事は出来ません」
「……うん。それで良いんだ……私みたいな大罪人の事は、軽蔑してくれた方が……」
「でも、やっぱり、フィーア先生の事は尊敬してます」
「………………え?」

 フィーア先生の過去は知らないし、知ったところで当事者でない俺では、型にはめたような感想しか出てこないと思う。
 だから、それについては考えない事にした。

「過去がどうだったかは知りませんし、聞こうとも思いません。ただ、俺が知り合って、今日一日接した貴女は……俺にとっては、傷ついた人に手を差し伸べられる優しい人で、心から尊敬できる相手です」
「……ミヤマ、くん……」
「だって少なくとも200年以上は前なんでしょ? 俺には当時の事なんて確かめる術はありませんし……フィーア先生の過去の罪を知ったとしても、『今の貴女』を尊敬する気持ちは消えませんよ」
「……ミヤマくん……君、女ったらしって、よく言われない?」
「へ? な、何ですか急に!?」

 何か急にさっき以上に訳の分からない事を言い始めたぞ……女ったらしって、童貞の俺を捕まえて良くもそんな発言が出るものだ。
 戸惑う俺を見て、フィーア先生は何故か楽しそうな表情を浮かべる。

「あはは、君、モテるでしょ?」
「い、いや、別にそんな事は……」
「そうかな~まぁ、良いや……ミヤマくん、ありがとう」
「へ? え? あ、はい。ど、どういたしまして?」

 なんだかよく分からないが、どうやらフィーア先生は元気になったみたいで、両手をグーにして胸の前で握りしめる。

「よ~し、やる気出たよ! 今日から今まで以上に、バリバリ頑張るね!」
「あ、えっと、はい」
「さてと、じゃあそろそろ良い時間だし、ミヤマくんを見送るついでに掃除を……」
「あっ!? フィーア先生、足元! 段差!!」
「ふぇ? ――きゃっ!?」
「ッ!?」

 元気よく足を踏み出しかけたフィーア先生の足元は、地面より一段高くなっている祭壇……次に何が起こるか即座に察し、俺は大慌てで手を伸ばす。
 そして何とか、足を踏み外してこけそうになったフィーア先生を受け止める事が出来た。

「……だ、大丈夫ですか?」
「う、うん……あ、ありがとう」

 良かった……フィーア先生がスレンダーなお陰で、何とか非力な俺でも受け止められた。
 これで支えきれずに一緒に倒れてたりしたら、本当に情けない状況になった所だ……うん、やっぱもうちょっと鍛えよう。そうしよう。

 フィーア先生の体を起こし、しっかり立ったのを確認してから離れる。
 手にはまだ先程受け止めた時の感触が残っており、今さらになってちょっとドキドキしてきた。
 フィーア先生ってスレンダーだけど……結構膨らみが……って、なに考えてるんだ俺は!?

「……ねぇ、ミヤマくん」
「へ? あ、はい!」
「……また遊びに来てよ。ノアさんの治療の時以外にもね……紅茶ぐらいならご馳走するからさ」
「はい。分かりました。また是非来させていただきます」

 フィーア先生は癒し系とでも言うんだろうか、穏やかで優しい感じで、話しているとホッとするので、俺にとってもありがたい申し出だった。
 医者としての仕事の邪魔にならない程度に、今後も足を運ぶ事にしよう。

 そして時刻はすっかり夕方になっていたので、フィーア先生に見送られながら教会兼病院を後にする。
 小さく手を振るフィーア先生に、俺も手を振り返してから背中を向けると……小さな声が聞こえた気がした。

「……クロム様が、気に入る訳だね……」
「え? なにか言いましたか?」
「ううん。なんでもないよ……またね!」
「あ、はい」

 一度振り返って確認してみるが、フィーア先生は首を横に振り、満面の笑顔を浮かべた。
 その明るい表情に癒され、もう一度手を振ってから改めて帰路についた。

 拝啓、母さん、父さん――フィーア先生は、過去に色々あったみたいで、その事を凄く後悔しているみたいだった。その後悔は俺にはどうする事も出来ないし、たぶん無闇に踏み込んではいけないと思うけど……それとは関係なく、フィーア先生は――尊敬できる人だと思う。



いや、快人、お前は女ったらしでリア充だ。死ね。

シリアス先輩「だ、騙されない……こ、こんな飴で、懐柔なんて……も、もっとください」

次回からジーク編の予定でしたが、思った以上にこの話が長くなってしまったので、もう一話挟みます。
申し訳ありません。
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