船上パーティ㉙
とりあえず必死の説明のかいあって、なんとかレイチェルさんの誤解を解くことはできた。
「なるほど、そういうことでありましたか……血の表現だったとは、自分に血液は存在しませんのでその考えには至りませんでした」
「ああ、そういえばレイチェルさんはリビングドールなんでしたっけ? それってやっぱり、死者の魂が人形に宿ったりとかそういう感じなんですか?」
「そうでありますな、そういう実例も存在するであります。というか、そういった経緯で生まれるリビングドールが本来の姿でしょう。自分の場合は養殖といいますか……自分に関してはうちの旦那が製作しましたので」
「聞いたことがありますね。死霊術士は己の魔力を変質させて、疑似的に死者の魂を作り出して死霊兵を生み出すとか……」
レイチェルさんの言葉にノアさんも頷きながら会話に加わってくる。そもそも俺は死霊系の魔族って言うのを詳しく知らない。知り合いの中ではゼクスさんやアイシスさんが該当するらしいのだが、そもそもひとくくりに死霊系といってもアイシスさんとゼクスさんではだいぶ趣が異なる気がする。
「そうでありますね。そもそも死霊系の魔族と一括りにされてはいますが、その生態は多岐にわたります。感応魔法を扱うミヤマ様にはいまさらな説明かもしれませんが、魔力には感情が籠るであります。特に負の感情は強く魔力に現れやすく、死者の怨念ともいえる感情が魂を縛ることもあるのですが……当然自己蘇生ができぬ程度のレベルの魂が他のなにかに変質できるわけもないであります。しかし、面白いものでそういった負の魂は同種の魂を呼び寄せやすく、いくつもの負の魔力が籠った魂が混ざり合い死霊系の魔族は生まれると言われているであります。その際に、何らかの媒体に宿るというのはよくある話で、特に生前に近い形のものに宿りやすいため人形なども定番であります」
「宿りやすいってことは、確実にそういう人型のものに宿るとは限らないってことですか?」
「その通りであります。植物などに宿ってリビングツリーと呼ばれる木になったり、そもそも実態を得ずに魔力体……ゴーストのような形状に落ち着く場合もあります。ただ、死霊系に属するとは聞きますが死王様はかなり特殊で、あのお方の場合は死霊というよりは死という概念の化身……生態的には精霊族に近いので、死の精霊と表現するのが適切かもしれません」
言われてみればなるほどと思う感じである。というのも先程も感じたがアイシスさんはゼクスさんやレイチェルさんとは趣が違う感じがする。死という概念の精霊と言われると確かにしっくりくる。
まぁ、事実上は絶望の大邪神の魂を核とした存在なので、精霊ではなく神に近いのだろうが、レイチェルさんがその辺りの事情を知る由はないので、精霊と感じるのも必然と言える。
「自分の話に戻りますが、そもそもうちの旦那も含め死霊術士というのは、そういった死者の魂や負の魔力を利用するであります。とはいえ、使いたいときにその辺に都合よく手ごろな死者の魂や負の魔力があるわけでもないでありますし、基本的に己の魔力を変質させることで疑似的に死者の魂などを生み出して、それを使って死霊兵を生み出すであります。自分の場合もそういった過程で作られたので、魔道人形やゴーレムに近いともいえるであります」
「なるほど、けどなんかすごいですね。死者の魂を疑似的に作り出すとか……」
「死霊術士の知り合いは居なかったので詳しくはしりませんが、かなり複雑で難しい術式を使うため、魔力の消費もかなり大きくて、そもそも死霊術士の数自体が少ないみたいですよ」
ノアさんの補足を聞きながら頷く、確かに俺が知ってる死霊術士はゼクスさんとラサルさんであり、どちらも伯爵級でも最上位クラスの実力者である。
冒険者としていろいろな実力者に会っているであろうノアさんにも死霊術士の知り合いは居ないとなると、それだけ死霊術というのは難しい魔法なのだろ。
「……旦那から聞いた程度の話ですが、死王様の陣営に加わったラサル・マルフェク様は負の魔力を特殊な循環をさせることで、1の負の魔力から10の負の魔力を生み出すような研究をしていたと聞くであります。それが完成すれば理論上は無限に死霊兵を生み出せるという凄まじいもので、長年の研究の末ラサル様はそれを完成させたとかで、旦那も『死霊術士としての頂点は間違いなくラサル殿』と称賛していたであります」
そういえばハーモニックシンフォニーの打ち上げの時とかでもそうだったが、ゼクスさんは一貫して魔界一番の死霊術士はラサルさんであると言っていたし、死霊の大賢者と呼ばれるゼクスさんでも素直に負けを認めるほどにラサルさんの死霊術士としての腕は超一流なのだろう。
しかしこういう、今まで知らなかった類の話を聞けるのは面白いものだ。ある意味で様々な人たちがいるパーティでの会話の醍醐味と言えるかもしれない。
シリアス先輩「初手土下座の印象が強くて、イキって分からされたネクロマンサーって初期イメージだったけど、話が進むごとにどんどん有能さが判明してくるというか、死王配下で一番配下らしくあれこれ行動してる気もする有能配下」