閑話・長き旅路の果てに 前編
時間が無くてちょっと短めです。
シンフォニア王国首都にある快人の屋敷……その広い庭の開けた場所にある世界樹の麓で、ネピュラは枝を加工してなにかを作っていた。
彼女は世界樹から一定の距離しか離れられないという制約があるため、今回の船上パーティには参加しておらず快人の家で留守番をしており、暇つぶしもかねて木工品を作っていた。しかしほどなくして、ネピュラは作業の手を止めて、どこか呆れたような表情で溜息を吐いた。
「……やれやれ、なんとも回りくどいことをする」
ネピュラがそうつぶやいた直後、ほんの僅かに空気がブレたように見えた。普通であれば違和感を覚えるようなものではないが、絶対者たるネピュラにとっては何が起こったかを察するのはたやすい。
「正面から訪ねてくればいいものを、位相のズレた異空間をわざわざ作って会いに来るとは……」
「あ~いや、その……こっちでの立場とかわからなくて、少し気を使った感じと言いますか……あの……その……えっと……」
「久しいな『カナーリス』、わざわざ会いに来るとは相変わらず律儀な奴だ」
「ッ!? ネピュ……ネピュラ……さまぁ……」
穏やかな声で名前を呼ばれ●●●●●……カナーリスは、声を震わせ表情を歪めた。あの時からまるで時が止まったかのように、何億年も何兆年も動かなかった顔が動き、光を宿していなかった目に涙が浮かぶ。
ずっと、ずっと、会いたかった。もう二度と会えないと分かりながらも、新しい世界を訪れるたびにその姿を探した。その優しい声で再び名を呼んでもらえる日は、来ないとだと……そう思っていた。
依然と少し姿は違う。1mほどの小柄な体になっているし、精霊になったことで魔力なども少し変化している。だがそれでも簡単に確信できた。目の前にいるのはずっと会いたかったネピュラであると……。
「……分かっているとは思うが、先に言っておくぞ。謝罪も感謝も、妾への不敬と思え。あの時の妾は、絶対者たる妾の裁量において判断し、行動した。すべては妾の中で完結している……罪も感謝も、お前が背負う必要のあるものは存在しない。存在すると思うことが妾への不敬と考えよ」
「……はぃ……ネピュラ様なら……そういうと……ひぅ……おもって……ぅぁ……ました」
カナーリスはぼろぼろと涙を溢しながらネピュラに近づき、その小柄な体に縋るようにしがみついた。
「……言いません……ネピュラ様が言うなとおっしゃるなら……謝罪も……感謝も……口にしません。でも、でもぉ……これだけは……言わせてください……ネピュラ様……会いたかったです……そんな姿であれ……貴女様がいまも存在していることが……どうしようもなく……嬉しいです」
「大げさな……だがまぁ、こうして顔を見せに来てくれたのは喜ばしく思う。ここにたどり着くまで長かったであろう……ご苦労、よく頑張ったなカナーリス」
「ッ!?!? ネピュラ様ぁぁぁぁぁぁ!?!?」
穏やかに微笑みながら軽く頭を撫でると、カナーリスは堪え切れなくなった様子でネピュラにしがみ付いて大声で泣き始めた。
その様子を見て、優しく頭を撫で続けつつ……ネピュラは軽く苦笑を浮かべる。
「やれやれ、せっかく来たのだし妾の作った紅茶でも振る舞おうかと思ったが、これはまだしばらくかかりそうだな……だがまぁ、そういったものを受け止めるのも絶対者の務め、すべて吐き出すまで泣くといい」
その声はとても優しく温かく……その言葉を聞いただけで、長く苦しかった日々がすべて報われたように感じて、カナーリスはネピュラの胸の中で幼子のように泣き続けた。
シリアス先輩「ん~よく寝た。さすがにまだパーティは終わってないだろうけど、そこそこ進んだ?」
???「そうっすね。丁度いま終わったとこですよ……久方ぶりのシリアス展開が」
シリアス先輩「……………………え?」