閑話・●●●●●中編
時空の狭間に存在する空間で●●●●●は、比較的仲のいい世界創造主と話をしていた。理由としては、●●●●●が再創造した世界をその世界創造主に任せようと思ったからだ。
「……別に手間が増えるわけじゃないから構わないけど、せっかく再創造したのにね」
「いやはや、まぁ、再創造したのは一種のケジメ的なやつでして、もうちょっといまの自分には他のことを考えてる余裕はないので……まぁ、そもそも別になにかしら創造主として世界に干渉してたりしたわけでもないですし、放置でもいいんですけどね! それはそれで寝覚めが悪くて……」
「なるほど……というか、なにその顔?」
「いやはや、なんか顔が仕事放棄しちゃいまして、たはぁ~クール系で申し訳ない!」
明るい声ながら能面のようにピクリとも動かない表情で告げる●●●●●を見て、世界創造主はなんとも言えない表情を浮かべた。
彼女にとっても●●●●●にとっても絶対の存在と言えた究極神ネピュラが終わりを迎えてからいくばくかの時が経ち、かつてネピュラの元に集っていた創造主たちはそれぞれ別の道を進んでいた。
シャローヴァナルに恨みを向ける者は居ない。ネピュラは己の誇りと共に終末に挑んだ。絶対者たる彼女に後悔などあるわけもなく、最後の瞬間まで偉大だったことは分かっている。だからこそ、外野がシャローヴァナルを恨んだりするのは、ネピュラの誇り高き戦いを侮辱する行為である……彼女の配下だった者たちは皆それを理解しており、悲しみはあれど憎しみに駆られる者はいなかった。
さりとて究極神ネピュラという絶対者を失った以上、数多の世界創造主を率いるに相応しいものなどおらず、世界創造主たちはそれぞれの道に分かれ、もう長らく連絡を取っていない者も多くなった。
「それで、いろんな世界を巡るんだったっけ?」
「当てや目的があるわけじゃないですけどね。いろんな世界を見れば……なにか見つかるかも……たはぁ~自分探しってやつですね!」
明るい声で告げる●●●●●は、ある意味でネピュラの消滅によって壊れてしまっていた。性格などが変化したわけではない。表情が変わらなくなった以外は、以前の彼女のままだ。
だがその心に残った傷はどうしようもなく深い。敬愛する存在を失い、出来ることならいますぐにでも消えてなくなりたい……しかし、それはできない。
●●●●●はネピュラによって生かされた。終末から逃れた……いまの●●●●●の存在は、ネピュラが最後に下賜してくれたものといっていい。だから、進み続けなければならない。立ち止まることも、消えることも……大切な主への冒涜だから……。
世界創造主に別れを告げ●●●●●は歩き出す。己は終わるはずだった存在で、世界の再創造を終えたいまはもはやなにもない存在……死体が動いているようなものだと、そんな空虚な心で数多の世界を巡る当てのない旅に出かけた。
目的もなく意味もなく、立ち止まれない理由だけがあり、●●●●●は亡霊のように数多の世界を渡り歩いた。その過程でかつて同じくネピュラに仕えていた世界創造主たちと再会する機会もあり、思い出話に花を咲かせたりもした。
それだけ聞けば、悪くない旅のように聞こえるが、●●●●●の心は表情と同じく止まったままで、努めて明るく……本来の自分の通りを装っていても、心の中心に大穴が開いたように空虚だった。
「……あぁ……そっか……ここにも……この世界にも……どこにも……もうネピュラ様は……いないんですね」
時々弱音が口からこぼれると、光を映していない瞳から涙が零れたが本当にそれだけで、彼女のなにかが好転することなどなかった。
どれだけの年月が経過したかはわからない、数えきれないほどの世界を巡り、何億、何兆という膨大な年月のなかで彷徨い続けた……そんな彼女に転機が訪れたのは、本当に長い年月が経過してからだった。
「……え? シャローヴァナルが……あの化け物が負けた?」
「らしいよ。とはいっても別に戦闘してとかってわけじゃなくて、なんだったかな……あ、そうそう、シャローヴァナルが想像した世界とは別の世界の人間って種族の宮間快人って子が、シャローヴァナルに大きな変革をもたらした……というか、シャローヴァナルと恋人になったらしいよ」
「はぁぁぁ!? え? ちょっ、恋人? えぇぇ……あの終末の化け物にそんな感情とかあったんですか!?」
「あったのか、あとから生まれたのかはわからないけど、ともかくそういうことらしいね」
当てのない旅の途中で訪れた世界の顔なじみの世界創造主から聞いたその話は、●●●●●の心に本当に久しぶりに驚愕の感情をもたらした。
詳しく話を聞いてみても、なにもかもが驚きで、表情こそ変わらないままだったが●●●●●はしばらく話に聞き入っていた。
「……驚きましたね。シャローヴァナルが世界を創造したって話は、2個前に訪れた世界の創造主に聞いて知ってましたけど、まさかそんなことになってるとは思わなかったですよ。たはぁ~しかし、とんでもない子ですね」
「うん。私も聞いたときは本当に驚いたよ。けど、経過はどうあれあの終末の破壊神に一泡吹かせたっていうなら……あ~ごめん、なんでもない」
「うん?」
「いや、これでネピュラ様の無念も少しは晴れるって言いかけたけど、無念があったとか考えるのは不敬だよね。ネピュラ様はきっと気にしないだろうし……」
「そうですね。むしろ、その宮間快人って子のことを滅茶苦茶気に入りそうですよ。ネピュラ様が健在だったら配下に誘ったかもしれませんね。なにせ自分も、話を聞いただけで結構メロメロですしね!」
「その顔で言われてもなぁ」
「たはぁ~これは手厳しい! いや、しかし、面白い話が聞けました。ありがとうございます」
「うん。じゃあ、また縁があったら何億年か後にね~」
教えてくれた世界創造主に礼を言った後、●●●●●はその世界から次の世界へ移動した。
次にたどり着いた世界はなかなか緑豊かな世界であり、景色のいい場所からぼんやりと世界を見つめる。あとでこの世界の創造主にも挨拶にと、そんなことを考えつつも●●●●●の心の中にはひとつ前の世界で聞いた話が思い浮かんでいた。
「いやはや、それにしても凄いものですよ。あのシャローヴァナルを射止めちゃうなんて……う~ん、意図的に避けていましたが、その子を一目見るためにシャローヴァナルの世界にお邪魔するってのもありかもしれませんね。ネピュラ様も興味を持ちそ……う……で――――え?」
それは本当に何気ない行為だった。久しぶりに心が動いたような気持ちを感じつつ、どこか懐かしむようにネピュラから預かったネックレスを取り出し、あれからずっと一度も動くことのなかった瞳が大きく揺れた。
なぜなら、取り出したネックレスが……淡く……光を放っていたのだから……。
「……ネックレスが……光ってる? そんな……だ、だってこれは……ネピュラ様の力の欠片で……い、いままで、だってずっと……だから……あっ、ぁぁ……」
ガタガタと体が震える。頭では必死に情報を整理しようとしているが、心があまりにも動揺しておりまともに考えることができない。
だが、一番重要な言葉は……必死に己に言い聞かせるように口から絞り出した。
「……ネピュラ様が……復活してる?」
マキナ「ある意味さ、これって一番の功労者は私だよね?」
???「まぁ、そうかもしれないっすね。なにせ、シャローヴァナル様に……」
マキナ「だって愛しい我が子という奇跡が生まれたのは私の世界だからね!!」
???「あっ、そっち……てっきり、シャローヴァナル様に世界を作る提案をしたことかと……いや、でも、たしかにカイトさんが特異点なわけですし、間違ってるわけでも……う~ん」