船上パーティ㉕
なんとも独特で不思議な雰囲気を持つ女性、ジェーンさんは相変わらず眉ひとつ動かず固まったような表情で、そこからは想像もできないほど明るい声で話しかけてくる。
「はいはい! 快人様、自分自己アピールいいですか?」
「うん? 自己アピール、ですか?」
「おっと、決してやましい気持ちはございません! 上手いこと取り入って玉の輿コースを狙ってやるぜとか、パーティでおめかししてる今のうちに、2割り増しぐらい誇張して売り込んでおいて、評価ポイント稼いでやるぞ~とか、そういう考えは……まぁ、大いにあるわけですが! それはそれとして、自分のことを快人様に知ってもらうチャンスなので、プレゼンタイムをくださいな!」
「な、なんというか、正直ですね」
「たはぁ~これはこれは、プレゼン前に自分の魅力がひとつ見つかってしまいましたか! さては、快人様人の長所を見つける天才ですね?」
なんというか、本当にノリのいいひとというか、軽快に話すので結構楽しい。まぁ、表情は本当に能面みたいな状態のまんまだし、相変わらず目は光を映してない空虚な感じではあるが、声はとても元気だ。
「まぁ、ともあれ売込みしていくわけですが、自分なかなかいいと思いません? 絶世の美女だというほど自惚れてはいませんが、そこそこの容姿なわけですし、自己評価甘目でいきますが全体的な能力もそこそこいい方です。胸の大きさもそこそこで、大きくも小さくもないですね……おっと、大変ですよこれは、結構甘めに評価してるつもりがアピールポイントがどれもそこそこって結論に達するんですが……飛び抜けた長所の無い己に、ちょっと泣きそうです」
本当に自己アピールを始めてしまったが、結論的に「だいたいそこそこ」ぐらいの評価で推してくるあたり、なんというか憎めないというか愛嬌を感じる。
「あっ、肌触りには結構自信ありますね。もちもちぷにぷにですよ。多分胸とかも触り心地いいのではないですかね? どうです、一度試してみますか? なんて、たはぁ~これは溢れるセクシーさが出ちゃいましたか、セクシーすぎて申し訳ない」
「な、なるほど、ジェーンさんは魅力いっぱいの女性なんですね」
「お目が高い、いまお買い得ですよ? 欠点としては、労働交渉に失敗したのか表情筋がエブリディ死滅状態で、まったく仕事しやがらねぇぐらいですね。まぁ、そんなわけでボーイッシュな元気っ娘としてひとついい感じの評価を……う~ん、自分ボーイッシュ? ボーイッシュでいいんですかね? 微妙なラインの気もしますが、無口クール系とかおっとりお姉さん系路線は明らかに違うので、そっち推していきたい所存ですね! 細かいところは目を瞑ってもらう感じで、お願いします!」
「あ、はい……えっと、というかこれ、なんのアピールですか?」
「いい質問ですね。そこのところですが……ノリで始めちゃったので、いまいち自分でも着地点を見失っているといいますか……正直そのぉ、こっからどう話繋げようか迷ってるので、助け船とか出してもらえるとキュンキュンしちゃうなぁ~ってのはありますね」
やっちゃった~と言いたげに頭を描いているが、表情が全く変化しないので本当に脳がバグりそうだ。ただ本人も、表情に変化が無いのは自覚してる感じがする。
それにやっぱりなんだかんだでいい人っぽいし、会話も楽しい。
パーティ会場の一角、人界の王たちがあるまっている場所では、ライズ、クリス、ラグナの三人が話をしていた。その内容は各国の同行者について……。
「ええのぅライズ坊は、貴族であるリリア嬢はもちろんとして、王族軒並みと騎士団長にメイド長もカイトと知り合いで招待を受けておるし、実質多数連れてきているようなもんじゃ」
「ははは、まぁ私としても多少ズルい気はしていますが、特に招待を強請ったわけではありませんしね。その分、今回同行者として連れてきたのはあまり爵位の高い者ではありませんがね」
国同士の話し合いの結果、今回はそれぞれの国から同行者はふたり連れてくるという話になった。これは、快人と国が仲良くしているというアピールという面が大きい。
あくまで同行者は快人の知り合いではないので、快人の負担を考えて挨拶などはさせないつもりではあるが、それでも快人と関わりを持てる可能性がある場には皆行きたがるし、王としては貴族などに恩を売りやすい。
「私は改革派の貴族を2名連れてきましたが、ラグナ陛下は?」
「迷ったんじゃがなぁ、貴族でもよかったが、ほれハイドラ王国は貴族の力が強くないからな……議員からふたりほど選んで連れてきた。ほれ、『あそこに居るふたり』じゃ」
クリスの質問にラグナが答えつつ少しはなれば場所を指す。そこには綺麗な礼服に身を包んだものがふたりいて、一緒に行動している様子だった。
「どちらも商人なんじゃが、なかなかに将来有望じゃぞ。あとでライズ坊とクリス嬢にも紹介しよう。まぁ、流石に挨拶回りをする相手が多いカイトへの紹介は迷惑じゃから、先程も紹介はせなんだが……他に交流を広げられれば今後のハイドラにとっても良いとは思うのぅ」
シリアス先輩「おっとこれは、ラグナの同行者ってのがそもそも適当に口にしただけとかのミスリードか……マジで正体が不明になってきた」