船上パーティ㉓
とりあえずアンさんにトーレさんを紹介するというメインの目的は済んだわけだが、これからどうしようかと考えていると、まるでそれを察したようにトーレさんが明るい笑顔で声をかけてきた。
「カイトはまだあちこち挨拶に回るんだよね? じゃあ、アンさんは私が預かるっていうか、一緒に居よっか?」
「え? いいんですか?」
「うん。細かい契約の日程とかもついでに話せばいいし、アンさんさえよければだけど……どうかな?」
「は、はい。大丈夫です。その、少し不安はありますが……」
さすがというか、トーレさんはこういうところにかなり鋭い。たぶんアンさんの立場だとか、俺が他にも挨拶に行かないといけないと考えていることも察して、自分からアンさんを預かる提案をしてくれたのだろう。
これは本当にありがたいが、それでも若干の失敗はある。もちろんトーレさん自身はいまある程度話をしたので大丈夫だろうが、この先トーレさんと行動を共にすれば他にもいろいろな人と会う形になるので、不安は拭いきれないかもしれない。
「まぁ、その辺りは完全に不安を払拭するのは無理だけど、私以外にもある程度話せる仲のいい相手ができれば少しは安心でしょ? ちょっと待ってね、いまプロフェッショナル呼ぶから……」
「「プロフェッショナル?」」
アンさんの不安を察して明るい笑顔で告げた後で、トーレさんはなにやらプロフェッショナルと呼ぶと告げて誰かを探すように視線を動かす。
そして少しすると目的の相手を見つけたのか、大きな声で告げた。
「お~い、ラズ~ちょっとこっち着て~!」
「は~いです! どうしたんですか、トーレお姉ちゃん? あっ、カイトクンさん! こんにちはです! カイトクンさんと会えて、ラズはとても嬉しいですよ~」
「こんにちは、ラズさん。今日は来てもらってありがとうございます」
おっと、なるほどすべて理解した。現れたのはコミュ力お化けのラズさんである。確かにラズさんならアンさんともすぐに仲良くなってくれそうな気がする。
俺とラズさんの挨拶が終わったのを見計らって、トーレさんがアンさんのことをラズさんに紹介する。
「ラズ、こちらはクルーエル族のアンさんだよ」
「あや!? 初めましてですよ~ラズは、ラズリアって言うです! ラズって呼んでください」
「あ、リメギテ・リノリア・ギスルド・アメテス・アンと申します。アンと呼んでいただければ大丈夫です」
「よろしくですよ~。トーレお姉ちゃんから聞いたことがあります! クルーエル族さんは、採掘が得意な種族さんなんですよね? じゃあじゃあ、魔水晶とかも採掘するんですか?」
興味津々といった様子で尋ねてくるラズさんに、アンさんも少し戸惑いつつ頷く。
「あ、はい。魔水晶も採掘しますね」
「お~凄いです! ラズはそんなに詳しくないですけど、魔水晶は採掘が難しいんじゃなかったですっけ? なんかアレです、聞いたことはあるです……えっと、採掘の時に傷つくとなんか、えっと、大変になるです!」
「そうですね。魔水晶は採掘の際に傷がつくと、術式を刻みにくくなって価値が落ちますね。刻んだ後であれば、傷ついても問題はないんですが……」
「はぇ~難しいんですね。アンさんはすごいんですね!!」
「い、いえ、私なんてとても……」
「そんなことないですよ、ラズは採掘とかできないですし……でもでも、お話が聞けて嬉しいです! もっといろいろ知りたいですよ~。魔水晶と宝石では採掘の方法が違ったりするですか?」
「そうですね、例えば……」
可愛らしく質問してくるラズさんに、アンさんも先程までの緊張が消え微笑みを浮かべ始めていた。ラズさんの凄いところはここというか、本当に心の底から会話を楽しんでいるのが伝わってくるので、話をしていて楽しい気持ちになれるのが大きい。
ニコニコと笑顔だし、ひとつひとつのリアクションも可愛らしいし、凄く嬉しそうに話を聞いてくれるので、ついつい自然に話し込んでしまう。
香織さんとかともあっという間に仲良くなってたし、このコミュ力の高さはさすがのラズさんというべきだろう。
事実として話が進むたびにアンさんの緊張が解けていっている様子で、話がどんどん弾んできている。
「というわけで、カイト。アンさんは私たちで見とくから、カイトは挨拶回りに行ってきなよ」
「ありがとうございます。それじゃあ、よろしくお願いします……アンさん、ラズさん、それじゃあ俺は他にも挨拶に回ってくるので、また後で」
「あ、はい。ありがとうございました」
「はいですよ! また後でお話ししましょうね~!」
小さな体で目一杯大きく手を振って見送ってくれるラズさんに和みつつ、俺は次の場所に向けて移動を開始した。
シリアス先輩「実際30cmぐらいの妖精が、キラキラと目を輝かせて楽しそうに話を聞いてくれたら話も弾むか……」
???「ラズさんはマジでコミュ力高くて、初対面の人相手でもすぐに友達になりますからね。なにが凄いって別に本人は計算してやったりしてるわけでもなんでもないので、不自然さもまったくなくてスッと懐に入ってくる感じですね」