船上パーティ㉒
仕事モードから普段の状態に戻ったトーレさんは、戸惑っているアンさんに声をかける。
「あ、アンさんも楽にしてくれていいからね。仕事の話はまた今度改めてってことで、ここからは仕事は忘れてパーっとパーティを楽しもう!」
「あ、えっと……は、はい」
「アンさん、戸惑うかもしれませんがトーレさんは信頼できる方なので大丈夫だと思いますよ。もし交渉関連でなにかあれば、俺も紹介した責任があるので力になりますよ」
「……い、いえ、責任など……むしろ、すでに私はカイトさんに一生かかっても貸せなさそうな恩ができたので、どうお礼をしていいか……」
「い、いや、そんな大げさな」
アンさんは本当に心から感謝した様子で俺に頭を下げてきて、声の感じや表情から本当に一生モノの恩だと感じているのが伝わってきた。
「いえ、大げさではありません。まさか、セーディッチ魔法具商会から専属契約の話がもらえるとは……本当にありがたいです。私の組合は皆しっかり努力して高い技術を身に着けてくれているのに、それに見合っただけの仕事や給金が払えなくて、私も代表としてかなり責任を感じていたんです。それこそ、腕のいい方たちは他の組合に移ればもっといい生活ができるというのに、変わらず所属してくれていて……なんとか報いたいと常々思っていたんですよ」
「なるほど、仕事の関係だと技術力だけではどうにもならない場面もありますしね」
「ええ、なのでこうしてセーディッチ魔法具商会と縁ができたのは本当に嬉しいです」
どうも俺が思っていた以上に、アンさんの組合にとって交渉ごとに弱いというのは深刻な問題だったみたいだ。イメージとしては中小企業のような感じだろうか? 自分たちで仕事を取らないといけないので、どうしてもその手の伝手や交渉能力は必要になってくるだろう。
「ん~ぶしつけな質問になっちゃうけど、アンさんの組合って月の給料はどのぐらいになってるの? だいたいでいいんだけど……」
「えっと、例えば私の給料は低い時は月2000Rぐらいで、多い時は5000Rほどですね」
「え? 1級が7人いる中規模組合の代表でそのぐらいって……それはまた、かなり買い叩かれてるね。1級採掘技能資格持ちなら、その5倍ぐらい貰ってても可笑しくないのに……」
「お恥ずかしながら、交渉ごとに弱いという面以外にも……どうしても伝手なども弱く、そもそも回してもらえる仕事が少ないということもあって交渉事でも強く出れない場面も多くて……」
確かに、交渉のテーブルについたとしてなんとしても仕事を取りたいアンさん側と、別の組合に頼んでもいい相手側という構図だと、強気に出ることはできず不利な条件でも請け負うしかないのだろう。そうでなければ組合員に給料を支払えないという感じなのかもしれない。
「ふむふむ、なるほどね。じゃあアンさん、正式に契約を交わした後になるとは思うけど……もしよければ、うちの商会からそういった外部との交渉ができるような人材を派遣するよ。専属契約を結んだとしたらうちの仕事を優先してもらう形にはなるけど、それ以外の仕事をしちゃダメってわけでもないしね」
「え? よ、よろしいのですか?」
「うん。まぁ、その辺の詳しい条件もあとの交渉の時に話していこう!」
「あ、ありがとうございます!」
トーレさんの提案に、アンさんは感極まったような表情で頭を下げていた。その様子からも交渉ごとにかなり苦戦していたというのが読み取れるので、トーレさんの提案は渡りに船なのだろう。
「ちなみにトーレさん。俺はよく知らないんですが、1級採掘技能資格って凄いんですか?」
「うん、かなり凄いよ。採掘技能資格は7級からのスタートで、7級、6級、5級、4級、準3級、3級、準2級、2級、準1級、1級って10段階あるんだよ。まぁ、7級と6級は研修中っていうか見習い用の資格みたいなものだから、実質は5級からスタートかな。で、基本的に年一回の昇級試験で上がっていくんだけど、試験だけで上がれるのは2級までで、準1級と1級は実績とか推薦とかいろいろな条件をクリアして初めて、昇級試験を受けられるから、本当に一握りだね」
「なるほど、1級は本当に選ばれた凄腕ってわけですね」
「うん。いやもちろんクルーエル族全体で言えば1級もかなりの数はいるけど、中規模組合で7人もいるのは凄いよ。特に高純度魔水晶は採掘が難しくて準1級以上じゃないと安心して任せられないしね」
かなり段階が多いが、この世界では魔水晶は物凄く重要だし、それに携わる採掘業もかなりそういった資格みたいなのを厳しく管理しているのかもしれない。
「じゃあ、アンさんはかなり凄いんですね」
「い、いえ、そんな、たまたま両親が1級だったこともあって昔からいろいろ教わってただけです」
照れたように首を振るアンさんは、小柄な体も相まってなんというか小動物的な可愛らしさがあるような印象だった。
シリアス先輩「ぬっ……いや、落ち着け、大丈夫だ。まだ私のヒロインセンサーには引っかかってない。現状ではセーフ寄りだ」
???「貴重な肌の色が青白い女性キャラですよ」
シリアス先輩「やめろ! 独自性で攻めようとしてくるな!! そういうのが好きな奴もいるんだから!!」