船上パーティ㉑
忙しく視線を動かしていたアンさんだったが、少し経つとハッとしたような表情を浮かべてトーレさんに頭を下げた。
「し、失礼しました。リメギテ・リノリア・ギスルド・アメテス・アンと申します。め、名刺などは持ち合わせが無くて申し訳ありません」
「いえ、気にしないでください。アンさんと呼ばせていただいても?」
「だ、大丈夫です」
「では、出会ったばかりのパーティの場で大変恐縮なのですが、少々仕事に関わる話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい!」
なんというか、やっぱり仕事モードのトーレさんは雰囲気が全然違う。いや、元々高身長でモデル体型の美人ということもあって、キリッとしている姿は似合うのだが……普段の性格がアレなだけに、結構こうして見ていると違和感が凄い。
それはともかくとして、仕事の話……アンさんがクルーエル族であることを聞いて、丁度いいって言ってたのでなにかクルーエル族に頼む仕事があるのだろうか?
「いちおう確認なのですが、アンさんは採掘業に関わっていると考えてよろしいですか?」
「はい。その、いちおう組合の代表をさせていただいています」
「なるほど、規模などは?」
「いちおう50名以上の中規模組合ですが、所属人数は54人なので本当にギリギリ中規模ぐらいです」
「技能資格などはお持ちですか?」
「あ、はい。私を含めて7名が1級資格、15名が準1級資格、残りも全員準2級以上です」
「それは、かなり優秀ですね。どこかと専属契約を結んでいたりするのでしょうか?」
よくは分からないが、会話の内容から察するに採掘に関わるなんらかの資格があって、アンさんの率いる組合はかなりいい資格を持ってるみたいだ。聞いた感じだと1級が一番上で、下に関しては少なくとも3級とかはありそうに聞こえる。
「あ、いえ、基本的に短期の仕事を受諾している形です。その、お恥ずかしながら私の組合は技術力は高いのですが、交渉事などには弱く、あまり大きな仕事の経験はありません」
「……なるほど」
アンさんの言葉を聞いたトーレさんは少し思案するような表情を浮かべた後で、軽く微笑みを浮かべて再び口を開く。
「……丁度いいといういい方は失礼かもしれませんが、理想的な組合ですね。アンさん、まずはいろいろとお答えくださりありがとうございます」
「あ、いえ」
「その上で改めて本題に入るのですが、まず先に結論から……ウチと専属契約を結びませんか?」
「…………は? え? あ、その……セーディッチ魔法具商会と、ですか?」
「はい。最近当商会では人界における魔法具技術者の増加をコンセプトに、人界での展開規模を広げている状態です。魔水晶部門に関しても同様で、人界での規模拡大のためにいくつか魔水晶の鉱脈を抑えていまして、丁度採掘を依頼できる相手を探していたところでした。人界で採掘といえばクルーエル族ですし、後ほどクルーエル族の都市に足を運んで契約を結べる組合を探すつもりでした」
言われてみれば納得できるというか、丁度俺の母さんや父さんが利用している魔法具技師育成のプログラムも、そのプロジェクトの一巻なんだろう。
「人界での規模の拡大とはいっても、いきなり大幅に広げるわけではないので、規模的にも中小規模の組合を探していたところなので、アンさんの組合はちょうど条件に合致しています。もちろんアンさん側の都合もあるでしょうし、この場で細かい契約内容を話していては時間がかかりますので、後日改めて交渉の席を設けさせていただければと思いますが、いかがでしょう?」
「あ、は、はい。それはもう、こちらとしては願ってもないことなので……」
「では、連絡先を交換させていただいて改めて日程などをお伝えします。当商会の支部に足を運んでいただく形となりますが、移動にかかる費用などはすべてこちらが負担しますのでご安心下さい」
「は、はい。ありがとうございます」
アンさんは恐縮した様子で何度も頭を下げつつ、トーレさんと連絡先の交換を行った。そして少しの間沈黙が流れて、トーレさんの雰囲気が変わる……なんというか、ONからOFFになった感じがした。
「……よし、仕事の話はここまで! って、カイトはなんでいつもそんな微妙そうな顔するかなぁ?」
「いや、分かってはいるんです。トーレさんはちゃんと仕事もできる方で、しっかりするべき時にはちゃんとする方だってのは分かっているんですが……やっぱどうしても、出来る女性って雰囲気のトーレさんには違和感というか……」
「おかしいな? その言い方だと、仕事モードじゃない時の私はポンコツだって言ってるように聞こえるなぁ……というか、聞いていい? ポンコツってなに? 異世界人の使ってた言葉らしいんだけど、使う場面とかから意味は分かるんだけど……」
「あ~えっと、確か壊れた自動車……機械製品に対して使ったのが元だとか、なんか聞いたような……」
仕事モードからガラッと緩い雰囲気に変わって、本当にどうでもいいことを興味深そうに尋ねてくるトーレさんに苦笑しつつ答える。やっぱり俺としては、この感じのトーレさんの方がしっくりくるという気持ちはある。
アンさんは突然の温度差にポカンとした表情を浮かべていたが……。
シリアス先輩「やはり胃痛と引き換えにもたらす恩恵がでかい……私にもなにか恩恵を……」
???「シリアス先輩にとっては胃痛案件ともいえる砂糖展開を提供して、その影響による見返りでシリアス先輩に砂糖化という現象をもたらしてるじゃないっすか」
シリアス先輩「デメリットしかないんだけど!? メリットどこ?」
マキナ「愛しい我が子のおかげで私と知り合えたのが最大のメリットじゃないかな?」
シリアス先輩「デメリットデカすぎるんだけど!! メリットどこぉぉぉ!?」
マキナ「……あれ?」