船上パーティ⑳
グリンさんをリリアさんにお願いして、アンさんと共に移動する。なぜ採掘関係かと思って道中に尋ねてみると、クルーエル族は宝石や魔水晶の採掘を主に行う種族らしく、仕事の関係で伝手ができればと思ってのことだったらしい。
「……その、仲良くさせていただいているとはいえ数度会っただけのカイトさんを利用するような形で本当に申し訳ないのですが、せっかくの機会なのでと欲張ってしまいました」
「いえいえ、気にしないでください。というかそもそも、初めてのパーティ主催だったので、連絡先を知っている知り合いは全員招待しようって、他の知り合いとほぼ面識のないアンさんやグリンさんを招待したのは俺ですし、もっと事前にいろいろ考えておくべきでした」
「そうなのですか? 普段からこうしてパーティを主催されているのかと……」
「いや、完全に初めてですよ。なんなら、この手のパーティに出た経験もほぼありません。今回はたまたまこの魔導船を貰ったので、有効活用できないかと考えた結果ですしね」
「ああ、なるほ……うん? 魔導船を……貰っ……ううん?? ……聞き間違えですかね」
アンさんは本当に、ブラックマスカットとして最初に遭遇をした時の第一印象では分からなかったが、本当にいい人というか、いまもかなり申し訳なさそうな感じだった。
本当に今回は俺の考え不足で畏縮させてしまったし、できればアンさんにとっていい結果になってほしいものだ。
「そういえば、宝石関係よりは魔水晶関係の方がいいんですか?」
「あ、はい。どちらも採掘に関わるのですが、宝石より魔水晶の方が採掘に技術が必要で……その、腕さえよければ高額の報酬を得やすいのです。私の組合は本当に腕はいいのですが、仕事に恵まれないので、技術力を得られるような仕事の縁ができればと……」
「なるほど、俺はよく知らないんですが、クルーエル族は基本的に皆採掘業に関わりがあるんですか?」
「そうですね。たまに別の仕事に就くものもいますが、大抵は採掘業に関わりますね。クルーエル族はカイトさんもご存じのように日の光に弱いのですが、反面暗いところは得意で、暗い洞窟などでも鮮明に見えますし、そもそも地下で生活していたりと、種族的にそういったことが得意なので採掘業に関わる仕事を選ぶのが大半ですね」
その後も少しクルーエル族について聞いてみると、クルーエル族は特徴として体躯は小柄で、地下など暗い場所での活動が得意で、手先が器用で体躯のわりに力も強い種族らしく、特性的にそもそも採掘に向いているらしい。
そうでなくとも、日光が苦手な上で夜行性ではなく昼に活動する種族ということもあって、他の仕事になかなか就きにくいというのもあるみたいだ。
そんな風に会話をしつつ会場内を移動していると、偶然にも探していたトーレさんがこちらに近づいてくるのが見えた。
「おっ、カイトだ。嬉しそうな顔をしてるね、さては私を探してたね?」
「ええ、丁度トーレさんのところに行くつもりだったので……」
「え? 本当に探してたの? 完全に適当に言っただけだったのに……」
まさにトーレさんを探していたところだったので答えると、例によってトーレさんは別に俺の行動を読んでいったわけでもなく、適当に言っただけだったみたいで普通に驚いていた。なんというか、トーレさんらしい感じである。
「そういえば、チェントさんとシエンさんは?」
「ふたりともステージ前で美術品を見てるよ。私はよくわかんないからブラブラしていた。クロム様が参加してるパーティなら基本安心だから、別行動することも結構あるからね」
「ああ、なるほど、陶芸品と木芸品が好きって言ってましたね」
展示するコレクションの一覧は事前にアリスに見せてもらったが、陶芸品や木芸品もあったのでチェントさんとシエンさんが興味を抱くのも納得ができる。
まぁ、なんにせよここでトーレさんに会えたのはよかった。さっそくアンさんを紹介しよう。
「アンさん、こちらがアンさんに紹介する予定だったトーレさんです。トーレさん、こちらは俺の知り合いで……」
「……あれ? クルーエル族じゃん。カイト、クルーエル族の知り合いもいたんだ。これは、丁度いいかも……」
「うん? 丁度いい、なにがですか?」
アンさんのことを紹介しようとしたのだが、その前にトーレさんが呟いた丁度いいという言葉が気になって聞き返す。
「う~ん。カイトって、このクルーエル族の子と仲がいい?」
「まだ、数回しか会ってないですが、ある程度仲良くはさせてもらえると思ってます」
「ふむふむ、じゃあカイトの目から見てこの子は信用できる? 直感でいいよ」
「え? ええ、信用できる人だと思います」
「なるほど、ありがとう!」
そういって俺に確認をした後で、トーレさんは表情をキリッとしたものに変えて懐から名刺を取り出してアンさんに差し出しながら微笑む。
「初めまして、セーディッチ魔法具商会の魔水晶部門の特別顧問を務めているトーレと申します」
「あ、はい。私はクルーエル族の……は? え? セーディッチ魔法具商会の……と、特別顧問?」
「はい」
「!?!?!?!?」
気のせいかいま、一瞬アンさんの意識が飛んだように見えた。そして渡された名刺とトーレさんの顔を、ものすごい勢いで交互に見ながらダラダラと大量の汗をかき始めていた。
シリアス先輩「ちょうどいいって言ったうえで、仕事モードで自己紹介ってことは……これなんか仕事の話がありそうな」
???「さすが、カイトさんはなんだかんだでこういう機がいいというか、縁のめぐりよさは抜群ですよね。アンさんにも大きな利益が期待できるでしょうね……同時に放たれるボディブローはともかく」
シリアス先輩「胃痛と引き換えに幸運を運んでくるタイプ……」