船上パーティ⑲
いつもとは少し違う状況に若干の戸惑いを見せていたリリアさんだったが、すぐに気を取り直して慣れた様子でグリンさんとアンさんに挨拶をしていた。
この辺りはさすがというか、リリアさん自体はいい意味で貴族らしくない優しい人だが、夜会とか茶会とか貴族的な付き合いもしっかりこなしており、この手のパーティにも慣れているのだと思う。
俺が比較的アタフタしたリリアさんばかり見ているのは、なんというか流石に相手が悪いパターンが多すぎるので、むしろこうして余裕を持って対応している姿が本来の感じなのかもしれない。
「……それで、リリアさん。こちらのグリンさんなんですが、社交界に憧れているらしいんですが、俺はそういうことには詳しくないのでリリアさんに教えてもらえればなぁと……いや、もちろんリリアさんの都合もあるので、あくまで余裕があればですが……」
「………………」
「あの? リリアさん?」
自己紹介が終わったタイミングで本題であるグリンさんの件を切り出すと、リリアさんは一瞬ポカンとした後で徐々に目を輝かせ始めた。
怒ったり困ったりしているわけではなく、むしろ滅茶苦茶喜んでいるような……え? なんでだろう?
「なるほど、そういうことですか……ええ、もちろん任せてください! カイトさんの頼みとあっては無下にはできませんしね。グリンさんはこういったパーティは初めてと聞きましたし、いろいろ不安があるかと思いますが……どうでしょう? このパーティでは、私と一緒に行動をしませんか? 基礎的な部分から教えることもできますし、今後社交界への進出を考えるのであればよいと思うのですが?」
「そ、それは私としては願ってもないことですが、リリア公爵閣下は大丈夫なのでしょうか?」
「ええ、もちろんです。他ならぬカイトさんの頼みですし、万事私に任せていただいて大丈夫です」
なんだろう? マジでウキウキというか、これぞ快諾という感じの雰囲気だ。いや、俺としてはむしろありがたい、これから他のところにも挨拶に行く必要があるしグリンさんの傍にリリアさんが居てくれるのなら安心である。
しかし、なんでまたこんなにも食い気味なレベルで乗り気なんだろうか?
俺がそんな風に疑問に思っていると、いつの間にか近くに来ていたルナさんが苦笑を浮かべながら口を開いた。
「ミヤマ様が疑問に思っていることはなんとなく分かりますので、私が説明しましょう。お嬢様はいま、このパーティにおける最強の防御手段を手に入れたのですよ」
「ううん?」
「先程まで次々訪れる六王幹部様に気圧されていましたし、今後お嬢様と顔見知りである六王様方などがやってくる可能性もありますし、お嬢様としては対応に手いっぱいというか、もう早い段階でパーティを楽しむことはあきらめていたはずでしたが……ここでお嬢様は『ミヤマ様に頼まれた一般人を案内している』という、六王様が相手でも早めに話を切り上げられる最強の札を手にしたわけです」
「あ、あぁ、だからあんなに喜んでるんですね」
「事実上このパーティにおいてミヤマ様に直接頼まれたというのは、最強クラスのカードですからね。それを無視してお嬢様と長話をするのは、ミヤマ様の意向にも反すると認識されるでしょうから……」
つまりグリンさんの案内を頼んだことで、結果としてリリアさんを助ける形にもつながったという感じかな? それは俺としても喜ばしいが、そもそもリリアさんがこのパーティで苦労している理由の大半も元をたどれば俺が原因な気がするのでマッチポンプ感もあるな。
ま、まぁ、結果としてリリアさんは喜んでるからよしとしよう。
「それじゃあ、グリンさんはリリアさんに任せるとして……アンさんはどうしますか? 誰か紹介してほしい方が居れば、紹介しますよ」
「……で、では、その、厚かましいお願いになってしまいますが、採掘関係にコネのある方を紹介していただけると……宝石商などでも大丈夫ですし、願わくば魔水晶関連に強い方だと本当に嬉しいのですが……」
「ああ、それでしたら心当たりがあるので任せてください」
魔水晶関連といえばトーレさんだろう。なにせセーディッチ魔法具商会の魔水晶部門の特別顧問だし、人柄的にも紹介しやすい相手なのも助かる。
シリアス先輩「これ、アレだよな? アンの想定としては、茜とかみたいな中小規模の商会のトップとかその辺りだよな? 大丈夫? 世界最大商会の魔水晶部門のトップ出てくるけど……」