船上パーティ⑱
まずはグリンさんをリリアさんに紹介することに決めて、移動しつつグリンさんに声をかける。
「グリンさん、リリアさん……リリア・アルベルト公爵を紹介する形でもいいですか? 社交界に詳しくて優しく話しやすい貴族の知り合いというと、リリアさんが一番当てはまる気がするので……」
次点でアマリエさん、オーキッド、クリスさん辺りだが、どれも王族なのでリリアさんの方がいいと思ったわけだ……いや、リリアさんも王族ではあるか……。
すると俺の言葉を聞いたグリンさんは、目を輝かせる。
「り、リリア・アルベルト公爵閣下!? あ、あの、いま最も勢いのある貴族ランキング第一位の……あ、憧れの大貴族様じゃないですか……」
「貴族ランキング? そんなのがあるんですか?」
「あ、カイトさん、気にしないでください。グリンさんの脳内にあるランキングらしいので……」
よくは分からないが、とりあえずは好感触というか……グリンさん的には憧れの相手のような感じらしく、異論はない感じだった。
「まさか、リリア・アルベルト公爵閣下を紹介していただけるとは、感動です! 私の身分では恐れ多くて声をかけることも不可能な相手なので、諦めていたのですが……」
「あんまり緊張しなくても大丈夫ですよ。リリアさんは、本当に凄く優しい方なので……」
そんな風に話しながら感応魔法でリリアさんを探してそちらに向かうと、少し不思議な光景が見えてきた。というのも、リリアさんは見つかったのだがそこからある程度離れた場所でルナさんが遠巻きにリリアさんを見ている状態だった。
「……ルナさん、何してるんですか?」
「ああ、いえ、母の方は問題なさそうだったので戻ってきてまして、お嬢様の苦労を引き寄せるさまを見学していたところです」
「……よく分かりませんが、助けてあげようという発想は?」
「そもそも根本的に私の身分では話に加われませんし、胃が痛くなりたくないので……」
後半が本音のような気がする。ルナさんと軽く言葉を交わした後にリリアさんの方に向かうと、リリアさんは……おそらくアスタロトさんと思わしき方と話しているのが見えた。
思わしきというのは、リリアさんの話している相手が明らかにアリスが作ったと思える風貌の牛の着ぐるみだったからだ。パンドラさんからアスタロトさんが普段はアリスからもらった着ぐるみを着ているという話は聞いていたし、多分アレのことだろう。
服装が礼服なのは、元々そういうデザインなのか、パーティに合わせてそうしているのかはわからないが……。
『これは、ミヤマ様』
「こんにちは、アスタロトさん。すみません、話し中でしたか?」
『いえ、リリア公爵への簡単な挨拶は完了しています。リリア公爵とお話をされるのでしたらどうぞ、私は他の場所を見てきますので……』
「気を遣わせたようですみません。アスタロトさんも、パーティを楽しんでくださいね」
『もったいないお言葉です』
先程ルナさんの話を聞いた通り、リリアさんは結構いっぱいいっぱいというか疲れている感じだったので、ちょっと強引ではあるが話に割って入るように近づかせてもらった。
俺が声をかけるより前にアスタロトさんが気付いて、丁重に礼をした後で気を付かって外してくれたので、軽く一礼してからリリアさんのほうを向くと、リリアさんは救世主を見たかのような目をしていた。
「カイトさんっ……本当に、いいところに……」
「なんかルナさんがリリアさんがまた苦労している的なことを言っていましたが、どうしたんですか?」
「いえ、ちょっと、いままでに交流のなかった六王幹部の方々が次々にやってきて、その対応で……ルナやジークは早々に逃げました」
「お、お疲れ様です……あっ、えっと、リリアさんに紹介しようと思ってる人が居て……」
「……」
おかしいな、なんでそんな急に死んだ魚のような目になったのだろうか? なんか無言で「助かったと思わせておいて不意打ちとは、慈悲の心は無いのですか?」と訴えているような気さえするが、過去の行いを考えると文句も言えない。
「今度はなんですか? どこかの世界の神とか、異世界の権力者とか、そんな相手ですか?」
「いや、過去の行い的にそう思われても仕方ないんですが、普通の一般人の方で……前にフライングボードの大会に出た時に知り合ったふたりです。こちらが、グリンさんで……」
「は、初めまして! こ、公爵閣下におかれましてはご機嫌麗しく、あ、えっと……グリンと申します」
「こちらが、アンさんです」
「お、おお、お初にお目にかかります。クルーエル族のリメギテ・リノリア・ギスルド・アメテス・アンと申します。あ、アンとお呼びいただければ……」
ふたりともガッチガチに緊張した感じであり、なんというかリリアさんもキョトンとした表情というか、珍しいものを見ているという感じになっている。
「……カイトさん、そういえば私って結構偉いですよね?」
「公爵ですしね」
「そうですよね。いや、どうも、カイトさんが連れてくる方で、こんなにもあからさまに私と会って緊張しているという反応が新鮮で……」
確かにこの反応は初かもしれない。アハトやエヴァは敬語にこそ慣れてはいなかったが、日ごろからクロたちと接していることもあって緊張とかはしていなかったし、茜さんも基本的に肝の据わっている方なので、リリアさんの立場に恐縮してはいても、ガチガチに緊張していたりというのはなかったので、この反応は本当に新鮮である。
シリアス先輩「そうだよな、公爵だもんな。普通に考えて大抵の相手より立場が上のはずだよな……快人が連れてくるのが、その大抵に収まらない連中ばっかりのせいで本人も含めて感覚がマヒしてたけど……」