船上パーティ⑯
リリウッドさんへの挨拶を終えて次は人界の三国王……ライズさん、クリスさん、ラグナさんに挨拶をしようと思って探してみたのだが、偶然ではあるがその三人が一緒にいるのが見えた。
これはちょうどいい、恐らく国王同士で話をしているのだろうが、挨拶をするには絶好のタイミングであると、そう思いながら近づくと三人の声が聞こえてきた。
「いやはや、流石はミヤマくんというべきか、これだけのそうそうたる面々が自然と集まるのは圧巻と言えますね」
「そうですね。勇者祭であってもこのような光景は見られないでしょうし、ミヤマ様の人脈の凄まじさを実感します」
「いや、本当にアイツはどうなっておるんじゃか……別に狙って知り合ったり紹介してもらったわけでもなく、自然と遭遇する辺りがとんでもないのぅ」
なんか俺のことを話しているっぽい感じで、若干声をかけづらいとそう思った直後、ライズさんの発した言葉で場の空気が一変した。
「本当に凄まじいものですが、そんなミヤマくんとシンフォニア王国が良好な関係でいられると思うと、国王として鼻が高いですよ。今回招待された者の中でも、人界の中ではシンフォニア王国に所属している者が一番多いですし、招待された貴族もうちが最も多いですからね」
「……おやおや、なにを言っているのでしょうね? シンフォニア王国はミヤマ様が屋敷を構えた土地と隣接している国ですし、必然的にミヤマ様の知り合いも多くなるでしょう。降って湧いた幸運を国の功績の如く語るのは程度が知れるというものです。ここにおいて重要なのは、ミヤマ様と個人的にどれだけ親しくできているかが重要でしょう」
「確かにのぅ。それに、仮に環境を誇るとすればそれはカイトがこの世界に来た際に受け入れ、屋敷に滞在させて手厚くもてなしたリリア嬢の功績ではないかのぅ? ライズ坊も国王であるなら、妹の功績に甘えるのではなく己の功績を誇ってもらいたいものじゃ……まぁ、我ら国王の中で個人でカイトと一番仲がいいといえば、恐らくワシになるじゃろうがな……」
なんだろう、なんか三人の間にバチッと火花が散ったような気がした。ああそれと余談ではあるが、俺の家がある土地はシンフォニア王国首都に存在するがシンフォニア王国とはみなさないという特殊なことになっているらしく、一種の独立国家の扱いでシンフォニア王国はお隣さんという感じらしい……まぁ、アリス曰く「対外的な処置なので、カイトさんは気にしなくていいです」とのことなので、気にせず俺はシンフォニア王国首都に住んでいると思っているが……。
まぁ、それはそれとして今のこの状態は、恐らく国王同士で牽制し合っているというか、国のマウント合戦が始まっている感じだと思う。
やっぱそういうのって面子とか見栄とかが大事なんだろうし、こういう場面で精神的優位に立ちたいという気持ちは三者三様にあるのだろう。あるのだろうが……引き合いに俺を出すのはやめてほしい。ますます声がかけ辛い。
「ほれ、ワシは基本的に月に一度はカイトの家を訪れて一緒に茶を飲む仲じゃからのぅ」
「それは本来の目的はリリア公爵との模擬戦ではありませんか? ミヤマ様に招待されているわけでもないのに押しかけるのは、少々厚かましいと感じますね」
「そうですね。ミヤマくんは優しいので訪問すれば邪険になどしないでしょう。それは、むしろ彼の優しさに甘えている状態と言えるのでは?」
「むっ、なんじゃなんじゃ、どちらもさも己が一番カイトと親しいとでも言いたげな顔をしておるのぅ」
「さぁ、どうでしょう? 少なくとも私はこの中で一番多くミヤマ様と文を交わしているという自負はありますがね」
「手紙のやり取りを誇らしげに語られても困りますね。それを言うのであれば、ミヤマくんは言ってみれば将来的にリリアンヌと結婚するわけですし、私とも家族といっていいのではないでしょうか?」
……どうしようこれ、三人が三人とも自分が一番仲がいいアピールをし始めて、マジで話しかけるのが難しいんだけど!? だってこれで話しかけて、こっちに「じゃあ誰と一番仲がいいのか?」って質問が来たら、回答に本当に困る。
正直後回しにしたいんだが、順番的に他を先に行くわけにも……どうしようかと、そう思っていると……再び空気が変わる事態が起こった。
「いや、ワシが……」
「私の方が……」
「やはりここは私が……」
「……」
「「「あっ……」」」
そう、その人物はいつの間にかそこにいた。いっそ神々しいほどの微笑みをたたえて、二十枚の羽根が付いたリングを浮かべて佇む姿はまさに神……三人の顔が一瞬で青ざめ、血の気が一気に引いて行くのが見えた。
「……我々がミヤマくんの意思を決めつけるような会話をすべきではありませんね!」
「そ、そうじゃな! 誰と仲がいいかなど、ワシらが押し付けるものではなくカイトが判断すべきことじゃろうて、それを邪推するなどカイトに失礼じゃな!!」
「ええ、まさに! ミヤマ様に迷惑をかけるわけにもいきませんし、我々は多少なりとも交流を許してもらえているという事実に感謝しつつ、余計なことは言わないようにしましょう!」
いっそ清々しいほどに掌を返して、必死さを感じる声で告げる三人を見て、エデンさんは少し沈黙した後で一度頷いて姿を消した……どうやら、判定はセーフらしく、三人は心の底から安堵した表情で胸を撫でおろしていた。
うん。いや、三人も事故にあったみたいな状態で可哀そうではあるのだが、それでもあのへんな感じの話の流れが変わってくれたことを思うと、エデンさんに少し感謝したい気持ちである。
マキナ「まったく、愛しい我が子の威光に目がくらんじゃうのは仕方ないといえば仕方ないけど、節度って大事だからね。しっかり節度を守ってほしいものだよ」
シリアス先輩「え? お前が節度とか語るの……?」