船上パーティ⑫
開始から少し経ち、賑わい始めるパーティ会場の中でロズミエルは静かに腕を組んで佇んでいた。緩くカールした金の長髪に鋭い目、スラッとしたモデルのような体型に流行の最先端を行く美しいドレス。その立ち姿はまさに一凛のバラの如く、なかなかに迫力もあった。
もちろんロズミエル自身は内心でビクビクしているというか、緊張で表情が固まっているだけなのだが、それはそれで凄みがある雰囲気ともいえる。そして、そんなロズミエルのもとに、カミリアが近付いて声をかけた。
「……大丈夫ですか、エリィ?」
「だ、だだ、大丈夫じゃない……こ、怖いよぉ。な、なんか注目されてないかな、私? へっ、変かなこの格好?」
「いや、むしろパーティ会場が似合いすぎて注目を集めている感じですかね。エリィは注目を集めやすい容姿をしていますし」
ロズミエルの見た目はまさに高貴な女性というような派手さと美しさを兼ね備えたものでり、女王然とした風貌ではある……あくまで風貌だけであり、中身は快人曰くチワワであるが……。
「リア、そっ、傍にいて……私ひとりの時に話しかけられたら、まともに応対できる気がしないよ……」
「そうですね。私は知り合いへの簡単な挨拶は終わったので、エリィはどうせ碌に動けないでしょうし、ここにいることにしますよ」
「あっ、ありがとうぅ……うっ、うん。本当に動かずジッとしておくよ。中心付近とか人が多くて怖いし……」
それでも比較的知り合いの多いパーティということもあって、いつもよりはマシなのだが……それでも知らない人が複数いるという状態は、極度の人見知りの彼女にはなかなか大変な環境だった。
ゆえにカミリアが傍に居てくれることを感謝しつつ、当分はこの場から一歩も動かない……そんな決意を固めた直後、ステージ上にキャラウェイが上がり拡声魔法具を使って話し始める。
『皆様、どうぞパーティを楽しみながらお聞きください。今回のパーティでは様々な余興を用意しておりまして、僭越ながら私が進行をさせていただきます。簡単な順番としましては……』
その声に視線をステージ上に向けながら、ロズミエルはポツリと呟いた。
「あっ、余興とかあるんだね」
「そのようですね。パーティと考えると演奏などでしょうか?」
「あっ、それは楽しみ……音楽は好きだし……」
キャラウェイの説明を聞きながらロズミエルは少しほっとしたような微笑みをこぼす。演奏などがあればそちらを楽しんでおけば、ある程度緊張もほぐれるだろうと考えたからだった。
『では、最初の余興ですが……今回のパーティを記念して、幻王ノーフェイス様より秘蔵のコレクションの展示する許可を頂いています。会場の皆様も幻王様の力はよくご存じかと思います……そんな幻王様より、珠玉の品々を今日に限り特別に公開するべくお預かりしています。それを順に紹介していきます。なお、紹介した展示物に関しては、会場右手に用意しております展示室にて紹介後にも確認いただけますが、展示室への飲食物の持ち込みは禁止とさせていただきますので予めご了承ください』
幻王の秘蔵のコレクションという言葉に会場内から注目が集まり、ロズミエルとカミリアも興味深そうにステージ上に視線を向けていた。そんなロズミエルの表情は、続けられた言葉で一変する。
『さて、最初の展示物ですが……皆様はセブンプラネットという絵画をご存じでしょうか? およそ一万年前に描かれたといわれ、現存するいかな素材を用いても再現できない未知の絵の具によって描かれたその絵は、世界にたった7枚しか存在せず、絵画を愛する者たちにとっては伝説の絵として知られています……ですが、もし、その絵に……世には知られていない隠されたもう一枚が存在したとしたら?』
場を盛り上げるような語り口で告げられる言葉を聞きカミリアも興味深そうな表情を浮かべた。彼女はロズミエルの親友であり、芸術に造詣の深いロズミエルからセブンプラネットについても聞かされている。
「これは興味深い話です……ね? あれ? エリィどこ――いつの間に、あんなところに!?」
カミリアが振り向いた先にロズミエルの姿はなく、困惑して視線を動かしてみると、ロズミエルはいつの間にか音もなくステージの真ん前に移動しており食い入るようにステージ上を見ていた。
『そもそも、幻王様のお話によるとセブンプラネットは、未知の絵の具を用いてある一枚の絵を描いた画家が、余った絵の具で書き上げたものであり、この絵こそが最初の一枚であるとのことです……その絵の名は、ブルーアース……とある島の風景が描かれた不思議な絵ですが、描かれたその島はこの世界のどこにも存在しない。幻王様のお話では異世界の島を描いたものではないかと言われており、なんとも不思議な魅力のある作品です。それでは、さっそく公開いたしましょう!』
そういって、キャラウェイは後方に用意してあった巨大な絵を隠す布を取り払い、謎の絵の具によって書かれ美しくも蠱惑的な魅力のある絵を公開し、ロズミエルを始めとした芸術に関心の強い者たちは感動したような目でその絵を見つめる。
そんな光景を遠目に見つつ、マキナは隣にいるアリスに向かって呟くように告げる。
「懐かしいねぇ……でもあれ、綺麗に書きすぎじゃない?」
「まぁ、実際は鉄屑の破片とか、私がぶっ壊した壁の残骸とか散らばってましたしね」
そう、その絵はこの世界に着てしばらく経ったころ、アリスがマキナとの思い出を懐かしみながら、彼女と出会った人工島を描き上げたものだった。
あくまで彼女にとっては思い出の風景を描いただけで、世間に公表する気などはなかったのだが、快人との出会いやイリス、マキナとの再会を経て過去に対する思いにもいろいろと折り合いがついた結果、こうして公開に踏み切っていた。
シリアス先輩「実際サラッと語られてるけど、当時のアリスの状態的にたぶんクソ重感情で書いてるよなぁ……」
???「い、いや、そんなことないっすよ……ちょっと、昔を懐かしんだだけで……ああ、いや、アリスちゃんは別にそこまで深く考えてたりとかないんじゃないかなぁと……」