船上パーティ⑪
説明を受けてもなんとも言えない違和感は残ったままではあったが、メギドさんも六王であり姿ぐらい自在に変えられても不思議ではないと最終的には納得した。
するとそのタイミングでメギドさんはふとなにかを思い出したような顔になった後、訝し気な表情でコングさんの方を見た。
「そういや、ドレスで思い出したが……おい、コング! てめぇ、その珍妙な恰好はなんだ?」
おっとここでまさかのコングさんへのツッコミである。これは非常に助かるというか、あの格好を変だと思っていたのが俺だけじゃなくて安心した。
「え? 駄目っすか? 兄貴がパーティには礼服で行くってんで、俺も部下に言って買ってこさせたんですけど……」
「サイズってもんがあるだろうが、馬鹿野郎が……というか、買ってきた部下もテメェが人化したり体を縮小させたりする前提で買ってきてるだろ。なんだそのいまにも破れそうで破れてねぇ状態……状態保存魔法使ってやがるな」
ちなみにオズマさんはいつものトレンチコートではなく礼服を着ており、無精ひげも剃って髪もオールバックに纏めていて滅茶苦茶カッコいい大人の男性という雰囲気である。
いや、本当に……オズマさんは背も高いし顔もイケメンなので、もの凄く絵になるというか、仮に俺が同じ格好してもこの雰囲気は出せない。う~ん、羨ましい。俺もこういうカッコいい大人の雰囲気になりたいものだ。
「……い、いや、俺人化とか体のサイズ変えたりとかの細かい魔法は苦手で……状態保存は得意なんすけどね」
「たくっ、相変わらず得手不得手の極端な奴だな。仕方ねぇ、ほらよ」
申し訳なさそうに苦笑するコングさんを見て、メギドさんは軽くため息を吐いたあとで指をはじく。するとコングさんの体が光に包まれ、今度はサイズの合ったスーツを着ている状態になった。
いや顔はゴリラのままではあるが、サイズが合うスーツを着ると体格は筋肉質でがっしりしてて体も大きいので、これはこれで結構カッコいい雰囲気である。
「おぉ、ありがとうございます、親分! 窮屈だったんで助かります!!」
「次からは特注でサイズ図って作れよ……おっと、悪いなカイト、待たせちまって……んで、時間はあるのか?」
「いえ、他にも挨拶に回らないといけないのであまり長くは……」
「そうか……んじゃ、一杯だけ付き合っていけ、最近いい酒を見つけてな……」
メギドさんはそう言いながら酒瓶とグラスを取り出して俺に手渡してきた。
「ワイングラスってことは、ワインですか?」
「ああ、ちょっとまだ若いんだけどな……ほれ、乾杯」
「あっ、はい。いただきます」
簡単そうに片手の指でコルクを抜いて、俺の持ったグラスに酒を注いでくれるメギドさんは、やはり少女の姿であっても六王というべきだろう。
そして軽くグラスで乾杯をしてワインを飲むと、爽やかな味わいが口の中に広がる。
「美味しいですね。爽やかで後味がいいというか、赤ワインですけど白ワインっぽい感じがありますね」
「ああ、なかなかいい味わいだろ? ただやっぱまだ少し若ぇな、まろやかさが出て飲みごろになるのはあと5年ってところだな」
「ふむ……そういうのって時間魔法とかで早められたりするんですか?」
「あん? そりゃできるぞ、時空間魔法を使えば一瞬で熟成はできる……まぁ、する気はねぇが」
そういって苦笑を浮かべつつ軽くワイングラスを傾けるメギドさんは、なんというかいまの見た目も相まってどこかいつもの豪快さの中にミステリアスな雰囲気もあった。
「なんでもかんでも急ぐのが最善じゃねぇさ。熟成して飲みごろになるのを楽しみに待つってのも、酒の楽しみ方のひとつだ。それを時空間魔法で短縮しちまったら損ってもんだろう? まっ、さっさと飲みたくて魔法で熟成を早めることもあるがな」
「なるほど、確かにそういう楽しみ方もいいですね」
なんというか、今は少女の姿というのが大きいのか、普段のメギドさんの姿であれば芸術を語る時のように微妙な表情になりそうなセリフも、いまの姿だとマッチしている気がする。
それこそ雰囲気的に、いまの姿なら芸術とかを語っていたも絵になる気がする。まぁ、中身がメギドさんであると分かっていると、やはり違和感はあるかもしれないが……。
そんな風に考えていると、メギドさんは明るい笑みを浮かべて告げる。
「まぁ、そんなわけでこのワインの飲みごろは5年後だ。そんときにはまた付き合え、カイト」
「はい。じゃあ、俺もその時を楽しみにさせてもらいますね」
「おぅ! テメェも不老なわけだし、時間をかけた楽しみ方ってのも覚えておいて損はねぇぞ」
そういって楽しそうに笑うメギドさんを見て、思わず俺も笑みをこぼした。
シリアス先輩「あれ? ゴリラが割とヒロインっぽい雰囲気を……こ、これが幼女化の力だとでもいうのか……」