船上パーティ⑨
パーティが開始されたのだが、グリンとアンは会場の端から動けないままでいた。なにせ少し見渡せば、名だたる存在ばかりであり、庶民と言って差し支えないふたりにとっては近づくことすら恐縮する存在が多い。
そして、見覚えのない人物に関しても、自分たちが知らないだけで物凄く立場の高い存在である可能性もあり、迂闊に行動を起こせないでいた。
そんなふたりの元に、地獄に仏というべきか見知ったふたりが近づいてきた。
「グリンさん、アンさん、こんにちは~」
「前のフライングボードの打ち上げ以来ですね」
「あっ、た、たしかアオイさんと、ヒナさん……ですわね」
「よ、よかったです。ようやく見知った相手に会えました」
快人から頼まれてふたりに声をかけに訪れた葵と陽菜、未知ともいえる環境に委縮しっぱなしだったグリンとアンにとっては、まさに救世主と呼べる存在だった。
フライングボードの打ち上げで面識があるのもそうだが、ふたりに関しては異世界人で冒険者と立場もハッキリわかっており、なおかつふたりが委縮するような行為の存在ではないため、心の底から安堵していた。
もっとも……その安堵は直後にあまりにも脆く崩れ去ることになるのだが……。
「……おや? そちらの方々は?」
葵と陽菜と共に、もうふたり女性がいることに気付いてアンが問いかけると、問われた相手……スカイとガイアは、軽く微笑みを浮かべて口を開く。
「ああ、初めまして、私は天空神スカイといいます」
「私は、大地神ガイアと申します。どうぞ、お見知りおきを」
「「ヒュッ……」」
グリンとアンは思わず息をのんで背筋を伸ばした。顔からは一気に血の気が引き、思考だけが超高速で回る。
(天空神? 大地神? そ、それって、上級神様ではありませんの!? な、なんでそんな、ごく普通の感じで一緒に来ましたって雰囲気出してるんですの……アオイさんと、ヒナさんも、なんて恐ろしい交流関係を……異世界人だからですか!? 異世界人だから、こんな風になるんですか!?)
当たり前ではあるが、一般人のグリンにとって神族なんて下級神ですらまともに目にしたことは無い。それが上級神がふたりも、さも当然のように現れており彼女の脳の許容限界を余裕で越えていた。
まぁ、これに関しては、会場内に集まっている者たちの立場が高すぎて、スカイやガイア自身があまり自分が偉いという印象を持っていないことにも起因するのかもしれないが……。
(上級神様!? なんで上級神様が……と、というか、いま普通に名乗ってませんでした!? し、神族の名前ってこんなに簡単に知ってしまっていいものなんでしょうか……私もグリンさんもパーティ後に始末されるとか、そんなことになりませんか……)
アンも唐突な上級神の登場に混乱しまくっており、ダラダラと冷や汗をかきながらどうすべきが考えていた。スカイとガイアは自己紹介をしてきたので、自分たちも返さなくては失礼だが、恐れ多すぎて上級神相手にどう発言していいか分からず、いまにも目を回しそうだった。
だが、そんな混乱の極みにあるグリンやアンが言葉を発するより早く、突如伸びてきた手がスカイとガイアの首元を鷲掴みにした。
「……ふざけるなよ馬鹿共が、一般人相手に上級神が名乗りなんてしたら畏縮するに決まってるだろうが、まったく大海神といい私はお前らの保護者じゃないんだが……ほら、こっちにこい!」
「え? あ、災厄神?」
「と、突然なんですか?」
現れたシアがスカイとガイアを捕まえ、そのまま強引に引っ張るようにしてその場から引き離し始めた。戸惑った様子で聞き返すスカイとガイアに対し、シアは大きなため息を吐きながら告げる。
「……はぁ、白神祭以降神族全体が人界等と関わろうという雰囲気を出してきたのはいいが、関わるなら関わるで先に常識を学べ、常識を……」
元々シアは神族の中でも変わり者であり、下級神を除けば貴重な……快人がこの世界にやってくる前という前提なら、ほぼ唯一といっていいほど積極的に人界や魔界に関わりを持っており、元々時間のある時に買い物を楽しんだりしている存在だ。
そのため、一般人への接し方という点では神族の中でもトップクラスに常識人であり、今回の件にもグリンとアンが畏縮しているのに早々に気付いてスカイとガイアを回収に来ていた。
結局そのままシアは葵と陽菜に「後で回収にこい」と伝えた後で、スカイとガイアを引っ張ってその場から去って行った。
シリアス先輩「そういえば、フィーア……もとい魔王編の時にも、普通に街中で買い物してたりしたし、シアだけは唯一快人の影響とは関係なく、元々人族や魔族に友好的で積極的に関わってたのか……」