船上パーティ⑧
クロに挨拶をした後は、そのまま順番というかその場所から近い六王か人界の三王の元に挨拶に行くことにした。
クロのいた場所から少し離れて視線を動かすと、少し離れた場所にアイシスさんと配下たちの姿が見えたので、次はそちらを訪ねることにした。
アイシスさんたちがいる場所に近づき……ある一定まで近寄ったところで、なにかふと違和感を覚えた。いや、具体的になにかというわけではないのだが、薄い膜を通り抜けたような感覚だった。
「……ああ、カイト。お前の考えていることはある程度分かる。いまお前が通過したのはポラリスの結界だ。通常であれば気付かぬほど薄く張っているのだが、お前は感応魔法で気付いたのだろう」
「なるほど、結界……位置が……ああ、つまり、そういうことですね」
「その通りだ。せっかくのパーティの席にわざわざ空気を暗くする必要もあるまいし、こちら側で配慮できる部分は配慮すると……そんな感じだ。まぁ、その辺りは我ら配下の役割であってお前が気にするようなものではない。さっ、アイシス様の元へ」
「分かりました」
先程俺が結界を通過したと感じた場所は、アイシスさんから数メートルほど離れた位置であり、予想ではあったが死の魔力の影響範囲に張っているのだと思う。
おそらくだけど、一定以下の力しか持たない……死の魔力の影響を強く受けてしまう人は近づけないようになっているのだろう。俺に関してはシロさんの祝福と……たぶん元々俺は個別に通過可能に設定しているのだろう。ポラリスさんは結界魔法の達人という話なので、そのぐらいのことができても不思議ではない。
「こんにちは、アイシスさん。今日は来てくれてありがとうございます」
「……カイト……こんにちは……私のほうこそ……招待してくれて……ありがとう……こういうパーティには……いままであんまり来る機会が無かったから……新鮮な気分」
俺が挨拶をすると、アイシスさんはパァッと分かりやすいほど嬉しそうな笑顔を浮かべて挨拶を返してくれた。死の魔力の影響でいままでこういったパーティに参加することは無かったであろうアイシスさんにとって、パーティの空気は新鮮でどこか楽しそうな様子なのが印象的だった。
というか、以前のアイシスさんならもしかしたらパーティの参加は周りを怖がらせる可能性を考慮して辞退していた可能性もあるが、頼れる配下が増えたことでこういった場にも顔を出す機会が増えていままで以上に幸せそうに見える。
「なんというか、変な言い方ですけど、アイシスさんがこういう場に出てくれるようになって……う~ん、表現が難しいですけど、気持ちが前向きになってるのはなんだか俺も嬉しいですね」
「……うん……実際カイトと会うまでは……勇者祭と趣味以外で出歩くことは……なかった……でもいまは……カイトや皆のおかげで……すごく楽しくて嬉しい……ありがとう……カイト」
「今回に限って言えば、俺はただアイシスさんを招待しただけで、他に何かできてるわけじゃないですけどね」
「……ううん……そんなことない……もちろん配下の皆がいろいろ気にかけてくれるのも嬉しいし……こういう場所に参加しようって思えるようになったのも嬉しい……でも一番嬉しいのは……カイトが私を呼んでくれて……こうして会いに来てくれて……一緒に笑ってくれることが……一番……嬉しいよ」
その言葉に嘘偽りがないことは、本当に心の底から幸せそうな笑顔を浮かべるアイシスさんを見れば理解できた。
いろいろな変化を嬉しく思っているが、それ以上に一番嬉しいのはこうして俺に会って一緒に笑っていることだと、そんな風に真っすぐなアイシスさんの好意はくすぐったくも嬉しく、俺も同じように幸せな気持ちになれた。
「他にも回らないといけないので、長くは無理ですが、それでもせっかくなので少し雑談でもしましょう」
「……うん……嬉しい……カイトは主催で大変じゃない? ……食事したりする時間は……ちゃんとある?」
「ええ、ある程度挨拶をしたら俺も軽く食事をするつもりですよ。さすがに人数が多いのでゆっくりとは難しいかもしれないですが、余興とかの時間には俺も休憩したりする予定です」
そんな風に少しの間、アイシスさんと俺はふたりで楽しく雑談をして過ごした。
シリアス先輩「前々回がアレで、前回がアレ、そして今回が……あっ、これはアレだ。快人サイドと胃痛サイドでわかれるパターンのやつだ!?」