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船上パーティ⑦



 突然ではあるが、リリア、ジークリンデ、ルナマリアの親友三人の中でブレイン役となるのは基本的にルナマリアだ。

 彼女は頭が切れる上に洞察力も高い。そんなルナマリアは漠然とした不安を感じつつ視線を動かし、会場内の人たちやその動向をある程度見た結果……その答えにたどり着いた。


「それじゃあ、私たちも顔見知りに簡単に挨拶をして食事でも……」

「いえ、残念ですが、お嬢様はそうはいかないでしょうね」

「……え?」


 どこか余裕そうな表情で提案するリリアに対し、ルナマリアはなんとも言えない憐れみすら籠った目で告げる。その言葉を聞いて、リリアは一瞬不安そうな表情になるが、すぐに気を取り直す……もとい自分を誤魔化すように笑顔を浮かべる。


「なにを言ってるんですか、ルナ。今回私は関係な……」

「いえ、ずっと漠然とした不安があったのですが、その理由がハッキリしました……なるほど、ミヤマ様は日々お嬢様の胃を破壊すべく、定期的に胃痛を仕掛けてきます」

「……いえ、別にカイトさんも意図してやってるわけでは……」


 ジークリンデが軽くツッコミを入れるが、ルナマリアがそれに反応することはなく神妙な表情で続ける。


「ですが、ミヤマ様はお嬢様に胃痛を与えると同時に、お嬢様を守る強力な防波堤でもあったのです」

「……ど、どういうことですか?」

「そもそもの前提を考え直しましょう。お嬢様はシンフォニア王国内で現在もっとも有名な貴族といっていい存在であり、それを抜きにしても人族として短期間で伯爵級相当の戦闘力を得た稀有な天才。時の女神さまの祝福などを抜きにしても、以前の神界の戦いの際などにお嬢様を見て関心を持っている方も多いはずです。特に六王幹部辺りの方々は、六王とも交流のあるお嬢様と一度話してみたいと考えている方も多いでしょう」

「……」


 リリアはときどき楽観視することはあるが、それでも頭自体は聡明である。早い段階でルナマリアがなにを言いたいかをある程度察した様子で顔色を悪くする。


「というよりは、もっと早い段階で会って話をしたいと考えていた方も多いと思います。ですが、人界にあるお嬢様の屋敷を訪れる場合、どうしても隣接するミヤマ様の屋敷の存在が重くのしかかります。六王様方とも関係の深いミヤマ様の家の近くに行きながら一言も挨拶しないというわけにもいかないでしょうし、迷惑をかける可能性を考慮して遠慮していたか……あるいはもっと直接的にアリス様あたりが、なにかしらの制限を課していた可能性もあります」

「そういえば、実際にリリの屋敷に六王幹部の方が訪ねてきたりというのは、カイトさんが連れてくる以外ではありませんでしたね」


 考えてみれば不自然ではある。リリアの名は魔界にもかなり知られており、伯爵級のレベルまでほんの20年足らずで到達したその才能にも注目している高位魔族は多い。特に戦王五将などでリリアといまだ交流のないイプシロンやコングなどは、強者であるリリアに強い関心を抱いていても不思議ではない。

 だがそういった六王幹部が、リリアの屋敷に伺いを立ててリリアに面会を求めたりということは無かった。あったのは唯一、飛竜便の関係で訪れたファフニルぐらいであり、ルナマリアの予想通りアリス辺りがなにかしらの手を打っている可能性は高かった。


「それだけではありません。お嬢様は確かにこれまでも名だたる方々と知り合ってきましたが、その際には基本的にミヤマ様が居ましたよね? そうなると、基本的にミヤマ様が応対するのでお嬢様自身が直接やり取りをする機会というのは少なかったのではないでしょうか?」

「た、確かに、胃は痛かったですが……軽い挨拶ぐらいのパターンがほとんどですね」

「ええ、ですがいまはミヤマ様は居ません。お嬢様も何度かパーティを主催したこともあるのでお判りでしょうが、この規模なら挨拶回りだけでほぼ終わるでしょうし、こちらに来る可能性は極めて低い」

「あ、あの、ルナ……言いたいことは分ったんですが……ル、ルナの考えすぎとかって可能性は……な、ないでしょうか?」


 この後に己に待ち受ける事態を察したのか、リリアは青ざめた顔でダラダラと汗を流しながら、祈るような眼をルナマリアに向ける。だが、しかし、現実は非常である……そんな目を向けたところで、待ち受ける未来が変わるわけではない。


「先程から複数の六王幹部の方々が、互いとこちらに視線を動かしていました……おそらく、一斉に訪れてしまわないように、お嬢様の元に行く順番を決めていたのではないでしょうか?」

「そ、それは大変ですね。リリはこういった場ではシンフォニア王国の貴族、アルベルト公爵としての立場があるので下手な対応はできませんね」


 ジークリンデも事態を正確に把握しており、憐れむような眼をリリアに向ける。ルナマリアと共に感じていた嫌な予感は、これだったのかと……。


「……そもそもミヤマ様は後ろ盾が強力すぎるので、本人の性格も会って丁重ですが六王幹部様相手になにかしらの粗相をしても普通に許される立場なんですよね。というかそもそも、ミヤマ様は人たらしというか、運命や世界に愛されているかのような……いや、事実として愛されてますね。ともかく、変に意識したり意図せずとも自然と仲良くなったり、好印象を抱かれたりといったコミュニケーションの怪物なので、ミヤマ様が一緒にいる場面だと彼に任せてれば基本いい空気にしてくれますが……今日は居ませんから、お嬢様自身で頑張ってください」

「………………」

「では、私は母の様子が気になるのでこれで……」

「嘘ですよね!? さんざん不安を煽った挙句、私を置いて自分だけ逃げるつもりですか!? ジ、ジークは……」

「……あ~私も、両親の様子が気になるので……あと、仮にこの場に残ったとしても立場的に私が会話に混ざるのは難しいです……なので、その……頑張ってください、リリ」

「……お腹……痛い……」


 言うだけ言ってルナマリアはあまりにも素早く自然な動きで離脱し、ジークリンデも迷うような表情を浮かべつつも、立場的に六王幹部と公爵の会話に混ざるのは難しいと判断し、その場を去ることにした。

 そして絶望的な表情で佇むリリアの元に、最初の相手が訪れる。


「リリア・アルベルト殿、できれば少し会話をさせていただきたいのだが、構わないだろうか?」

「……は、はぃ。喜んで……イプシロン様」


 アイコンタクトの結果最初にリリアの元を訪れることに決まったらしきイプシロンに対し、リリアは死んだ魚のような目になりつつも、必死に微笑みを浮かべて対応した。




シリアス先輩「前話の唐突な砂糖で私にボディブロー、今回の胃痛でリリアにボディブロー……二種のボディブローの使い分けとは恐れ入った」

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― 新着の感想 ―
[一言] なぜ、自分の主人であり親友でもある人物の、心の首(?)を真綿で締めるような真似をするのか....
[一言] まあ幸い某超絶美少女の機転により変態トップ3が封じられていますからまだマシな状況なのでは
[一言]  元から高かったルナさんの思考力や洞察力は、アリスの指導で更に上がってきているのが、今回のようなパターンだとよく分かるね。  意図してやってる訳ではないのは分かっているけど、意図してやって…
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