船上パーティ⑥
シロさん、マキナさんと挨拶を終え、一緒に最高神の三人と……いちおうアリスにも挨拶は終わったことになる。あとは他の六王と人界の三王に挨拶をすれば、比較的順番は自由で大丈夫だ。
というわけで、次はクロの元にやってきた。
「あ、カイトくん! いらっしゃい」
「うん。クロ、今日は来てくれてありがとう……というか、ここは結構な大所帯というか、いっぱいいるな」
「あはは、最初はやっぱ家族で固まってたからね。これから少しずつそれぞれ別々にパーティを楽しむと思うよ」
六王の陣営の中で俺の知り合いの数が多いのは圧倒的に冥王陣営だ。クロを除いても、アインさん、ツヴァイさん、トーレさん、フィーア先生、フュンフさん、ゼクスさん、ラズさん、アハト、エヴァ、ノインさん、セイさん、チェントさん、シエンさん、ロゼさん……他にもクロの家に遊びに行った時に知り合った方々などもいるので、それが一堂に会していると相当の人数である。
まぁ、いまはまだあくまで開始直後だから固まっているだけで、クロのいう通り少ししたらバラけるだろう。あとせっかくなので、纏めてにはなってしまうが皆さんにも挨拶をして軽く礼をしておいた。
「けど、カイトくんも凄いパーティを企画したね」
「なんとかクロにもらった魔導船を有効活用しようと、ほとんど思いつきだったんだけど……あと最初のイメージだともっと小規模なホームパーティみたいな感覚だったけど、魔導船が思った以上に豪華すぎて凄い立派なパーティになった感じだ」
「……あっ、そっか、これボクがあげた船だった」
俺の言葉を聞いてクロは一瞬キョトンとした表情になった後で、思い出したように告げた。なんか、完全に魔導船を渡したことを忘れていたみたいな感じだったのだが、その理由には心当たりというか……予想していたことがある。
「クロ、お前やっぱ……自然にマジックボックスを渡すために、前のマジックボックスに入らないサイズのものを選んだだけだろ……」
「……だって、カイトくんのマジックボックスはボクが作って上げたかったんだもん」
「いや、まぁ、普通に嬉しいし……いまとなっては魔導船抜きでも、前のマジックボックスだとサイズ的に足りなかったから、クロから大容量のマジックボックスが貰えてよかったんだけどな」
「えへへ、それならよかった。いや、実際最初のバーベキューの時はさ、あんまり大きいサイズだと持て余しちゃうからってゼクスたちが言って、ボクも確かにそうだって納得してたけど……あの時は、まさかカイトくんがこんなに凄くなるとは思わなかったしね」
「それは、俺も同じというか……本当にあのころには予想もできなかったな」
この世界に来たばかりのころに誘われて参加したバーベキューで、クロは俺のマジックボックスを自分で作りたかったと溢していた。でも強引に作ったりしなかったのは、アハトたちが言っていたことに納得していたからだ。
いや、本当に俺も当時はまさか一軒家サイズのマジックボックスの容量が足りなくなるなんて事態は想定していなかったが……いや、というか、容量圧迫はほぼマグナウェルさんが渡してくるものが原因なんだけど……。
「でも、なんだろうね。いろいろな交流を持って、立派になって……もちろんそういうのも凄いことだけど、ボクとしてはやっぱり、最初のころは少し俯き気味だったカイトくんがしっかり前を向けて生き生きとしてるのが、すごく嬉しいな」
「ちょっと、多すぎるぐらいにいっぱい宝物が見つかったからな……」
「ふふ、そっか……カイトくんは、宝探しの名人だね」
そう言って優し気に微笑むクロに俺も笑い返す。実際いろいろな要因はあったし、当時の俺が知らなかったいくつものこともあるが……それでも俺が変われた。変わろうと思えたきっかけは、やっぱりクロとの出会いだ。
それを思い出すと感慨深いというか……なんだろう、ああ、ちゃんと変わることができたんだって少し誇らしい気持ちになる。
「う~ん、もっとゆっくり話したいところだけど、他も回らないといけないから……」
「あっ、そうだね。長く引き止めちゃ悪いよね」
「また後で時間があれば顔出すよ。それじゃ……」
「カイトくん、ちょっと待った」
「うん?」
「少しだけしゃがんでくれる?」
「え? こう?」
まだまだ挨拶で回る相手は多いので、長く話し込むわけにもいかない。必要な挨拶が終わった後で、時間に余裕があればまた話に来たいが、今はそろそろ話を切り上げるべきだ。
そう思って告げたのだが、直後にクロがしゃがんでくれと言ってきたので、疑問を覚えつつもしゃがむと……クロは流れるように自然な動作で顔を近づけて、俺の頬に軽くキスをした。
「……カイトくん、あの頃よりずっとずっと、大好きだよ」
そして、俺の耳元で俺にだけ聞こえるように囁いたあとで、どこか悪戯っぽい楽し気な笑みを浮かべていた。
シリアス先輩「ぐあぁぁ、な、なにやってるんだ!? 今は挨拶回りでしょ!! 軽く雑談するだけで、いちゃらぶタイムはお預けの約束でしょ!!」
???「……なんの約束かはさておいて、ここのとこやたら余裕そうだったのは、そういう展開がしばらくは来ないってタカをくくってたからっすか……」