閑話・会場の一般人??
息を潜めるように会場の隅に待機していたグリンとアンだが、ある程度は落ち着きを取り戻して改めて会場内を見ていた。
「……創造神様、最高神様、六王様、六王幹部様方、各国の陛下……他にも上級神や下級神、教主様に英雄のひとりフォルス様……本当にあらゆるという言葉が合うほど、権力者の方々が集まっていますね」
「ですわね。ただ、その割には貴族などは少なめ……あっ、あのお方は!?」
「うん? お知合いですか?」
アンの言葉に頷きつつ視線を動かしていたグリンがある一点を驚愕した表情で見たため、アンも同じ方向に視線を向ける。視線の先にはリリア、ルナマリア、ジークリンデの三人がいるが、貴族社会に疎いアンにはそれが誰かというのは分らなかった。
「アンさん、ご存じないのですか!? アレは、いま最も勢いのある貴族ランキング第一位のリリア・アルベルト公爵閣下ですよ!」
「……あ、ああ、シンフォニア三花の……見るのは初めてですが、あの方がそうなんですね。ところでその、勢いのある貴族ランキングというのは、有名な雑誌かなにかに乗っているのでしょうか?」
「いえ、私と友人で作ったランキングです」
「じゃあ、私が知るはずないですよね!?」
元々貴族社会に憧れのあるグリンは、同志でもありフライングボードのチームメイトでもある同僚と、貴族に関するランキングを作っており、リリアはそのトップだった。
もっともそんな身内で楽しんでいるランキングをアンが知るはずもないのだが……。
「と、とりあえず凄い貴族なんですね」
「その通りです! アルベルト公爵家は、わずか数年でシンフォニア王国貴族のトップと呼ばれるまでに成り上がった。とてつもない貴族家ですよ」
「……ふむ、貴族社会には詳しくありませんが、それは相当優秀な方なのでしょうね」
「やっぱり公爵閣下ともなるとオーラが違いますわね。お話してみたいという気持ちはありますが、流石に公爵閣下に声をかけるのは、身分が違いすぎますね」
「というより、私たちの身分で声をかけられるような相手の方が少ない気が……」
会場の異様な雰囲気にもある程度は慣れてきたのか、それとも元々ミーハーの気質があるのか、調子を取り戻してきた様子のグリンを見て、アンは苦笑を浮かべていた。
時を同じくして、こちらもある意味では一般人の枠である香織と茜は、話には聞いていたが改めて快人の交流の凄まじさを思い知ってなんとも言えない表情を浮かべていた。
「……本当に凄いよ。というか、勇者祭よりすごくない?」
「確実に凄いやろ。基本的に勇者祭は、六王幹部は毎回ひとりふたり王に付き添って参加するだけやし、ほとんど全員集合みたいなのは異例中の異例やぞ」
「というかこれ、パーティ開始したらどうしよう? どの人も迂闊に話しかけられるような相手じゃないよ」
「せやな……なんか、失礼でもしてしまったらと思うと恐ろしいわ……」
「不安に思い必要はありませんよ、我が子たち」
「「ッ!?」」
あまりの面々に気圧され気味だった香織と茜の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきて、振り返るとそこには二十枚の翼のついたリングを背後に浮かべた神……エデンの姿があった。
マキナが思考分割して動かしている存在であり、香織たちにとっては依然一度会ったことのある相手だ。
「エデン様!? いらしてたんですね」
「これは、エデン様。ご無沙汰してます」
エデンが異世界……己たちの出身世界の神であるということは、香織と茜も知っており丁重な挨拶を行う。するとエデンは優しく微笑みながら、香織と茜の頭を撫でる。
「ええ、どちらも元気そうで安心しました。場が場だけに恐縮してしまう気持ちもあるでしょうが、今回のパーティには私も参加しますので、困ったら気軽に母を頼ってくれてかまいませんからね」
「エデン様……ありがとうございます!」
「ほんまに心強いです」
エデンの言葉に香織は嬉しそうに、茜はほっとした表情で言葉を返す。彼女たちにとってエデンは非常に優しく穏やかな神であり、以前に会った時もいろいろ心配してくれたり助けてくれた相手であるため、かなり信頼していた。
……というより、快人を相手にする時と違って暴走することが無いので、確かにエデンはふたりにとって頼りになる相手かもしれない。
「それでは私は他の我が子たちにも声をかけてきますので、貴女たちもあまり気負わずパーティを楽しんでくださいね」
「「はい!」」
「よい返事です。では、また後程機会があれば話しましょう」
そういってエデンはふたりの頭をもう一撫でしてから、重信や正義といった他の異世界人の元に向かっていった。
そんなエデンの様子を遠目に見て、アリスはなんとも言えないあきれた表情で近くにいるマキナに声をかける。
「アレを、カイトさんに対してもやれればいいんですけどね」
「いや、愛しい我が子に対する暴走は、私もワザとやってるんじゃなくて、愛しい我が子が可愛すぎて愛がスーパーノヴァしちゃうんだよ」
「そっすか……はぁ、カイトさんのパーティを台無しにしないためとはいえ、今日一日マキナ係ですか……即ぶん殴るので覚悟しておいてください」
「……殴ることは確定みたいな顔で言うよね?」
解せないと言いたげなマキナを見て、アリスは大きなため息を吐いた。
シリアス先輩「香織たちにとっては頼れる神なのが、なんとも面白い……」
???「あっ、ちなみに次回からパーティスタートみたいですよ」