閑話・パーティの余興
少し時間はさかのぼり、船上パーティの準備を始めたばかりのころ、快人は自室で招待状のリストを作りながらアリスと会話していた。
「カイトさん、カイトさん」
「うん?」
「思ったんすけど、私って実質カイトさんの家に住んでるようなものですよね?」
「まぁ、そういわれてみれば、そうかもしれないな」
アリスは基本的に24時間体制で俺の護衛に付いているので、事実上一緒に住んでいるといっても間違いとは言えない。
まぁ、基本的に姿を消してるし、夜とかは屋根の上でのんびり過ごしてたりするらしいので、あんまり一緒に住んでる感はないが……。
「こことかにも私の休憩室があるわけですし……」
「なに当たり前のように俺の部屋の壁をスライドさせて謎の隠し部屋を出現させてるんだよ。というか、お前本当にこの部屋に俺の知らない隠し機能がいくつあるのか、細かく聞きたいんだけど……」
「あはは、まぁ、それは置いておいて……」
「……勝手に置かないでほしいけど……それで?」
俺の部屋の隠し機能については本当に一度しっかり洗いたいものだが、適当にはぐらかしそうな気もするのでとりあえずいまは先に本題を聞くことにしよう。
「まぁ、つまりなにが言いたいかというと、私も実質カイトさんの身内みたいなものってわけですよ!」
「……なんか手伝ってくれるってこと? いや、でもこのタイミングで言い出したってことは、パーティそのものの準備とかじゃなくて、他のなにかってことかな?」
「おっ、さっすがカイトさん、よくわかってますね。いや、別に準備の方を手伝ってもいいんですけど、それだとカイトさんたちのやりたいことというか、形態みたいなのから外れちゃいますしね」
俺もアリスのことはそれなりによく知っている。もしアリスがパーティの準備を手伝うつもりなら、もっと前……それこそ企画の段階で提案してきていただろうし、このタイミングで言うならそれ以外の部分であるというのは理解できる。
気の利くやつだから、俺やアニマたちが主催側として頑張ってる状況に水を差すつもりはないのだろう。実際、アリスが本格的に参加すると、だいたいアリスに任せればいいじゃないかみたいな状態になりそうだし、それでは新築記念パーティの時の二の舞である。
「いえ、パーティでの余興とかに関して、私に任せてもらえたらな~って思ったわけですよ。あっ、別に変なことするわけじゃないっすよ、楽器の演奏とか秘蔵の美術品の公開とか、そんな感じですしちゃんと事前になにするかは伝えます」
「……なるほど、確かにパーティの余興とかその辺までは、現状だと手が回ってないな。ずっと食事と歓談ってだけより、そういう変化があったほうがよさそうではあるか……う~ん、じゃあ任せていいかな? もちろん内容とかは俺やアニマと相談して最終的に決定してほしいけど……」
「了解っすよ。まぁ、任せてください……せっかくのなのでアリスちゃんの秘蔵のコレクションとか出しちゃいますかね」
「それマトモなやつなのか?」
「いや、別に変なもんじゃないっすよ。ほら、まぁ、カイトさんは普通に気付いてると思いますけど、私っていろいろ別の名前で活動してたりするんすよ。鍛冶だったり、音楽だったり、美術だったりって……まぁ、金銭目的だったり暇つぶしだったり、理由は様々っすけど……作ったはいいですけど、公開してないものも結構あるので、そういうのを公開しても面白くないっすか?」
あ~つまり、幻王秘蔵のコレクションって感じの括りで紹介したりするわけか……俺がアリスと仲がいいというか、恋人同士なのは参加者のほとんどが知ってることだし、別におかしくはないか……。
「騒ぎになったりする危険とかは?」
「う~ん。たとえば、いろんな分野で有名な作品が多いので知ってる人は驚くかもしれませんが、過剰にって感じにはならないと思いますよ。あくまで快人さんが所有している品ではなく、私こと幻王が所有している品って扱いになりますしね」
「……なるほど、確かにそれなら大丈夫か」
俺のコレクションとかって話になるとまた騒ぎになるが、あくまで幻王であるアリスのコレクションを余興として一部公開するというだけなら別に問題はないだろう。
そもそもアリスはその辺り気が利くし、とんでもない騒ぎになったりすることはないと思う。ただ、それはそれとして人を驚かせて楽しむところもあるので、見る人が見れば仰天するような品は公開しそうな気がする。
「音楽は前にカイトさんの誕生日にやった感じで、合間合間に演奏する形でいいかなぁ~と」
「確かに音楽があると華やかに感じるな……うん。じゃあ、せっかくだし頼む。あっ、でも、ちゃんと事前になにやるかは俺やアニマに伝えてくれよ」
「ええ、その辺りは大丈夫です」
そんなわけでパーティの余興に関してはアリスに任せることになった。アリスのことは信頼しているし、大丈夫とは確信できるんだが……。
「……それはそれとして、なんで急にそんな協力をする気に?」
「まぁ、いろいろ高度で複雑な理由があるんですが、端的にまとめると……暇なので」
「深さの欠片もない……」
シリアス先輩「昔は悪ふざけとかかなり警戒されてたのに、恋人になってからはむしろぶっ飛んだ連中のストッパーに回ることが多いせいか、快人からの信頼がだいぶ上がってるなアリス……」
マキナ「アリスは献身的で優しいしね。それにしても、我が子だけじゃなくアリスにまで迷惑かけるなんて、そのぶっ飛んでる連中は一度母である私が説教したほうがいいんじゃないかな……」
シリアス先輩「いや、お前むしろそのぶっ飛んでる連中の筆頭なんだけど!?」