船上パーティ開始前⑫
大海原を進む魔導船の船内、いわゆる船長室というか、オーナー室というか、そういう場所に俺はいた。
パーティ開始まではもう少し時間があり、参加者たちもそれぞれの部屋で開始時間を待っている頃合いだろう。いやはや、結構緊張はするがひとまず順調なようでなによりである。
「…………で、なんでここにいるんですか、シロさん?」
思わず問いかける俺の前には、つい先ほど光と共に現れたシロさんの姿があった。当たり前ではあるが、シロさんにも部屋は割り当てている……もちろんVIPルームだ。
なんならシロさんが受付とかに行くのも、それはそれで問題だろうと、シロさんに関してだけは前日に受付は完了したものとして部屋の鍵を渡してある……それがなぜ、俺の部屋に?
「確かに、割り当てられた部屋はあります。ですがそれはそれとして、快人さんに会いたかったのでこちらに来ました」
「……」
さすがは日ごろから「私がルール」というだけはあり、あまりにもストレートに本人の要望が強い理由をどこか堂々と伝えてくる。本当にさも当然のように言うので、一瞬納得してしまいそうになった。
唖然とする俺の前で、シロさんはどこか誇らしげにすら見える表情で続ける。
「というわけで、パーティ開始まで私と――」
「我が子! 母だよ!!」
「マキナさん!?」
シロさんの言葉が終わる前に、これはまた唐突に室内に姿を現したのはエデンさんの本体……マキナさんである。いまは夢の中の記憶が引き継げるようになったので分かるのだが、明るく穏やかそうに見えて中身はやっぱエデンさんの本体だけはあるという狂気を併せ持った方である。
「……え、えっと、マキナさん? なんでここに?」
「愛しい我が子が、晴れ舞台を迎えるにあたって緊張してると思ってね。そんな時愛しい我が子の心を最も癒やしてあげられるのは、やっぱり母である私なわけだからこうして開始前に会いに来たんだよ! 嬉しい? 嬉しいかな? えへへ、そっかぁ、母と会えてそんなに嬉しいんだ~。母も、愛しい我が子のことが大好きだよ!」
まだ俺はなにも返事をしていないし、ついでに言えば心が癒されるどころが現在進行形でガリガリ精神が削られている気がするのだが、世界創造の神というのは皆こうもフリーダムなのだろうか?
「……感心できませんね」
「え? あれ? シャローヴァナル?」
「ただでさえ、パーティの主催として緊張している快人さんの元に自然に連絡もなく訪れて好き勝手に振る舞うとは、いささか非常識と言わざるを得ないでしょう」
すげぇ、すげぇよシロさん……一瞬で自分のことは完全に棚に上げて、マキナさんに抗議を始めた。
「いや、だからこそ愛しい我が子の心を癒そうと?」
「そうやって押しつけがましく何かをすることが最善であると? 今回のパーティにあたり快人さんは可能な限り六王や私たちといった存在の頼らず、主催側として頑張っていました。本当に快人さんのことを思うのであれば、余計なことはせずに大人しくパーティ開始時間を待つのが最善なのでは?」
「うぐっ、そ、そういわれると……た、確かに、愛しい我が子が頑張ってるところに水を差す形になっちゃう可能性も……え? あれ? でも、シャローヴァナルは?」
「私は事前の挨拶に来ただけです。一言挨拶をしたら部屋に戻るつもりでした。パーティ開始後は快人さんも多くの招待客を対応するために忙しくなるでしょうし、簡単な挨拶は事前に済ませておいたほうが快人さんの負担軽減になるだろうと考えての判断です」
「うぅっ……そ、そうなんだ……わ、分かった。じゃあ、私も一言挨拶したら部屋に戻るよ」
淡々と告げるシロさんの言葉を聞き、マキナさんは悩むような表情を浮かべたが……シロさんの発言にも一理あると感じたのか、軽く肩を落としつつ頷いたあとで俺のほうを向いて告げる。
「じゃあ、愛しい我が子、初めてのことでいろいろ大変だろうけど頑張ってね。なにか困ったら、無理せず母を頼ってもいいんだからね?」
「あ、はい。ありがとうございます。しっかり主催がこなせる様に頑張るので、マキナさんも楽しんでいってくださいね」
「うん! 頑張ってね! じゃ、私は部屋に戻るね~」
明るくそう告げた後で、マキナさんは光に包まれて姿を消した。おそらく自分の部屋に向かったのだろう。そして、この部屋の中には俺とシロさんが残された。
「……………………では、私も、部屋に戻ります」
渋々という言葉がこれでもかというほど似合う雰囲気……マキナさんにああ言った手前、自分だけ部屋に残ると言うわけにもいかないという感じだ。
たぶんだけど、シロさんは最初パーティ開始まで俺の部屋に居座るつもりで来たんだろう。だけど、急遽登場したマキナさんに俺が気圧されているのを見て予定を変更し、当初の目的を変更してでもマキナさんを退けることを選択した。
……言ってみれば、俺がパーティ前に精神的に疲れないように……自分のことより、俺のことを優先してくれたわけだ。
「……シロさん、実は俺結構緊張してまして……いや、特にパーティ前にこれ以上やることはないんですが、主催なんて初めてですし、パーティ時間になれば開始の音頭とか取る必要もありますしね。いや、ひとりでいると結構いろいろ考えちゃってリラックスできないんですよ……なので、シロさんさえ時間が大丈夫なら、少し話し相手になってくれませんか? 紅茶を一杯飲むぐらいの時間でいいので……」
「……」
俺が告げた言葉を聞いて、シロさんは予想外という様子で二度瞬きをした。だが、すぐに俺の意図を察したのか、嬉しそうに口角を上げる。
「……私は挨拶だけのつもりでしたが、快人さんの方からお願いされたのであれば、首を横に振るわけにはいきませんね。それでは、しばらく快人さんの話し相手になりましょう」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
とっても上機嫌という感じの笑顔で話すシロさんを見て、なんだか俺も楽しい気分になって思わず笑みをこぼした。
そして、パーティ開始までの少しの時間をシロさんと楽しく雑談をして過ごした。
シリアス先輩「シロのテンションめっちゃ上がってそう」
???「もしかしたら、空とか海にドヤァとか出てるかもしれないっすね」