船上パーティ開始前⑩
当然ではあるがパーティに招かれているのは魔族ばかりではなく、神族もである。今回のパーティの招待状が送られる基準は、快人と自己紹介をしたことがあるか否かであり、上級神下級神関係なく、快人と知り合いの神族にも招待状は届いている。
そして現在、受付ロビーにて受付を終えた神族のひとりに、陽菜がどこか嬉しそうな表情で駆け寄った。
「スカイさん! こんにちは!」
「こんにちは、ヒナさん。素敵なドレスですね。ヒナさんによく似合っています」
「えへへ、ありがとうございます。前に快人先輩に買ってもらったやつでお気に入りなんです。あ、スカイさんのドレスもすっごく素敵ですね! 上品で大人の女性って感じがして、カッコいいです!」
「ふふ、ありがとうございます」
穏やかに微笑むのは白神祭にて快人たちの案内を務めた天空神スカイだった。性格的な相性もあるのか、陽菜は優しく穏やかなスカイのことを姉のように慕って懐いている。仮祝福を貰ったこともあって、白神祭後も交流を深めており、今回もパーティに参加するという連絡を貰って待ちきれずにロビーまで迎えに来ていた。
「……最近冒険者としての仕事はどうですか?」
「いい感じですよ。ちょっと前に葵先輩と遠征して……」
嬉しそうに話す陽菜に、スカイも優しく微笑みながら声をかける。上下関係は存在しても血縁などといったものは存在しない神族であるスカイにとって、家族のいうのはまだイマイチ理解が及びきっていないものではあるが、それでも陽菜との関係は好ましく感じているようで、傍目に見れば仲の良い姉妹のような雰囲気があった。
そんなはしゃぐ陽菜の様子に苦笑しつつ、一緒にロビーに来ていた葵はスカイと共に来ていたもうひとりの神……葵に仮祝福を与えてくれている大地神ガイアに声をかける。
「こんにちは、ガイア様」
「ええ、こんにちは、アオイさん。本日はよろしくお願いします」
「こちらこそ……ところで、ガイア様たちはこっちでいいのでしょうか?」
葵も白神祭以降は、陽菜と共に何度も神界を訪れており、ガイアとも交流がある。知識が非常に深く、特に葵が得意な土魔法に深くかかわる大地の神ということもあって、葵にとってガイアは尊敬できる存在だった。
当然ではあるが神であるガイアは大地に関する権能を持っており、その力で大地に関わることはほぼ行うことができる。しかし、ガイアは権能のみに頼ることをよしとせず、大地に関わる魔法もすべて習得しており、その深い知識でいまだ発展途上の葵に様々なアドバイスをしており、この両者の関係も良好だった。
「こっち……ああ、シャローヴァナル様の傍に付いていなくていいのかということですね。今回は特別に指示が出まして、船やパーティという関係上神族全員で固めるような形は難しいため、シャローヴァナル様の補佐には最高神様たちが付くと……上級神及び下級神は別途指示が無い限りは通常の招待客としてパーティに参加するように言われています」
「なるほど、確かにいくら大きな船で広い会場とはいえ、神族全員で来るわけにもいかないですよね。でも、おかげでガイア様とゆっくりお話ができそうで、私としては嬉しいですね」
「そう言ってもらえると私も嬉しいです。知識としては理解していても、こうしてパーティに参加するのは初めてなので至らない部分もあるかと思いますが、その辺りはアオイさんに教われたらと思います」
「あはは、果たして私がガイア様に教えられることがあるのか……頑張ります」
そんな風に穏やかな会話をしていると、ふと陽菜がなにかに気付いたような表情を浮かべてスカイに問いかけた。
「スカイさんは、ガイアさんとふたりで来たんですが?」
「ああ、いえ、招待を受けた上級神で纏まってきました。下級神……恋愛神などは人界に神殿があるのでそちらから向かったほうが早いため別で来ています。いまは向こうで受付を――あっ」
「天空神? どうかし――おや……」
他の上級神も一緒に来ていると言ったスカイが視線を動かして固まり、その様子に不思議そうに首を傾げつつ同じ方向を見たガイアもなんとも言えない表情を浮かべた。
ふたりが見た視線の先、受付のすぐ近くでは彼女たちと共に来た上級神が偶然通りがかった魔族と向かい合っていた。
「……お久しぶりですね、大海神のマリンさん」
「……ええ、久しぶりですね、海竜エインガナさん」
互いに名を呼び挨拶をする。それはごく自然な動作である……だが気のせいか、両者のぶつかり合う視線の間に火花が散ったかのように感じられた。
シリアス先輩「あ~あ、出会っちまったか……」