船上パーティ開始前⑨
魔導船のVIPルームのひとつ、界王陣営に割り当てられた部屋には界王配下幹部の七姫が集合していた。もちろんそれぞれに個室も与えられているのだが、パーティ開始までの時間に雑談を行おうと集まってきていた。
「おっきなお船さん凄いですね! どんなパーティになるんでしょうか? ティル、とっても、と~っても楽しみですよ!」
「同感……つまりは、私も楽しみ」
ウキウキとはしゃいだ様子のティルタニアに、エリアルが同意しつつ頷く。その様子を微笑まし気に見ながら、少し離れたテーブルの椅子に座っているカミリアは、すぐ近くにいたロズミエルに声をかける。
「やはりというべきか参加者はそうそうたる面々ですね。エリィは大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……というか、私としては知らない人が少ないから、むしろ普通のパーティより安心かな……い、いや、知ってるだけであんま話したこともない人も居るけど……」
ロズミエルは極度の人見知りであり、知らない相手は特に怖がる傾向にある。だが、今回のパーティは六王や六王幹部といった、ロズミエルにとってある程度知っている者の参加が多いため、見ず知らずの人ばかりのパーティなどよりはよっぽど気が楽な様子だった。
「ロズミエルは、相変わらず知らない人が苦手なんですね~」
「知らない人は、怖いよ……100回ぐらい見かけてから初めて話す段階に進んでほしい。ティルや、皆はよく初対面の人ともあんなに簡単に話せるよね」
「ティルは初めて会う人とお話しするのも大好きですよ! 新しいお友達ができると、ティルの世界がちょっと広がるです! ラズ様が教えてくれたです!」
近づいてきたティルタニアにロズミエルは苦笑しつつ答える。人見知りのロズミエルと、初対面の相手でもすぐ仲良くなる社交的なティルタニアはある意味対極といっていい。まぁ、とはいえ、同じ七姫同士仲はいいのだが……。
「そうですね! 新しい出会いは素晴らしいものです!! なんでも、このパーティには異世界人の方も招かれているとか!! 拙者としては、侍の話を聞ける可能性があると思うと気分が高揚します!!」
「……ブロッサム?」
「あっ、はい。声量を落とします」
相変わらずの元気の良さで、非常に大きな声を出していたブロッサムだったが、静かに告げられたリーリエの言葉を聞いてすぐに察したのか声を小さくした。
そんな風に和気あいあいと雑談をしている中で、もうひとりの七姫……ジュティアはなにやら難しい表情を浮かべて窓の外を見つめていた。
「あや? ジュティア、どうかしたですか? 難しい顔してるです」
「……え? ああ、ごめんよ、ごめんよ。ちょっと考え事をしてたんだぜぃ」
「考え事ですか?」
基本的に穏やかなジュティアがなかなか見せない真剣な表情をしていたのが気になってティルタニアが声をかけると、ジュティアは苦笑を浮かべながら振り返る。
「……噂程度なんだけど、今回のパーティのお土産で、紅茶の記念ブレンドが配られるって聞いてね。ボクってば、それが気になって、気になって、どうにも意識がそっちに向いちゃってたんだぜぃ」
「紅茶さんですか~カイトクンさんは、紅茶さんのブランドを立ち上げたわけですし、可能性はありそうですね。ジュティアはそのブレンドが楽しみなんですね~」
「そうだねぇ、そうだねぇ、カイトのブランド……というか、ネピュラの作る茶葉はいっつもボクを驚かせてくれて、すっかりファンになっちゃったんだぜぃ。それでさ、それでさ、もしかしたら、新作の茶葉とか入ってるんじゃって思うとね……ほら、宣伝効果もあるし、ここで新作配るのは理に適ってるしね」
実際ジュティアが効いた噂通り、今回は紅茶ブランドニフティに関した品と、記念ブレンドが帰りの際に参加者に配られる予定となっていた。
紅茶好きのジュティアとしては、どうしてもその記念ブレンドが気になっていた。なにせ、六王に最高神、創造神まで参加するパーティで配られるのだから、生半可な品ではないだろうと、そう予想しているし非常に楽しみだった。
とはいえ、ジュティアは極めて常識的な思考をしており、いくら気になるからとそちらにばかり意識を割いては失礼だと、海を見て必死に心を落ち着かせようとしていた。
少なくともパーティ中に快人に尋ねたりといったことをしてしまわないようにと……。
なお、同時刻……同じ噂を入手して居てもたってもいられずに快人の元に突撃しようとした某メイドが、冥王に叱られてパーティ終了まで我慢することを約束されられていた。
某メイド「乗るしかない! このメイドウェーブ(紅茶の新時代)に!」
冥王「……ステイ」
某メイド「……あ、えっと……ちょっとだけ……じ、事前に一言カイト様へ挨拶を……」
冥王「……メイド服禁止にするよ?」
某メイド「……あぅぅぅ……ぱ、パーティが終わるまで我慢します」