船上パーティ開始前⑧
パーティ会場を訪れるのはなにも高名な人物ばかりではない。あくまで快人との交流がある者たちだ。ただ比率的な話で言えばどうしても高名なものが多くなるという傾向はある。
オリビアを部屋に案内して戻ってきた香織と共に茜は受付ロビーの開けたスペースで、ぼんやりと参加者を見ていた。
ちなみに茜と香織がこの場にいるのは、豪華すぎる部屋が落ち着かないのと、どんな参加者たちが来るのか興味があったからそれを確認するためという感じだった。
「……そういえば、茜さん。フラウさんは?」
「ああ、アイツは今回のパーティで給仕するメイドに知り合いがあるらしゅうて、挨拶に行ったわ。参加者ならともかく、給仕のメイドとなるとパーティア始まってから挨拶ってわけにもいかんしな」
「なるほど、じゃ、フラウさんが戻るまでは私が茜さんの護衛だね」
「おっ、香織お前やれる口か? ウチは、転移魔法以外はからっきしやけど……」
「ふふふ、私は水魔法が得意だから、海の上だと結構すごいんだよ……あっ、すごいって言っても、このパーティの参加者と比較するとミジンコみたいなもんだけど……」
そんな風に他愛のない話をしていると、ふたりの元に……今度は少し前の重信の時とは違い、聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「あの、もしかしてパーティ参加者の方ですか?」
「え? ああ、はい。貴女は……」
「あっ、申し訳ありません。私はエリーゼと申しまして、シンフォニア王国で小さな占い屋を営む者です。いや、どこもかしこも凄い方ばかりで委縮していたところに、私と近い雰囲気の方たちが居たのでつい声をかけてしまいました。もし、私が知らないだけで高名な方であれば、申し訳ないです」
目元が隠れるぐらいのやや癖のある茶髪の女性……エリーゼの言葉に、香織と茜は納得したように頷く。
「ああ、気持ちはわかります。おっと、私は水原香織って言いまして、友好都市で定食屋をやっているだけの一般人です」
「ウチは三雲茜、いちおう三雲商会っていう小さな商会の会長ではありますけど、この会場の面子と比較したら完全に一般人ですわ」
「ご丁寧にありがとうございます。お名前の響きから考えて……もしかして、異世界人の方々ですか?」
「ええ、過去の勇者役です」
穏やかで人好きのする笑みを浮かべるエリーゼを見て、ここまで六王幹部だとかそんな人たちばかりを見ていたふたりは、なんだかホッとしたような表情で話す。
「エリーゼさんは……パーティに来てるんだから当たり前ですけど、快人くんと知り合いなんですよね?」
「ええ、店がオープンしたばかりのころから、ミヤマカイトさんにはいろいろお世話になっています。その縁で今回パーティにお誘いいただいたんですが、まさかこんなに凄いところとは思わなくて……はは、すっかり雰囲気に気圧されてしまってますよ」
「分かります! いや、別に高名な人しか参加できないパーティとかじゃなくて、基本は快人くんの知り合いってことは分ってるんですが、それでも六王幹部だとか六王様だとか神族だとか、そんな方ばっかりが次々来るので気圧されちゃいますね。エリーゼさんみたいな一般の人も居て、ホッとする気持ちです」
「私もおふたりがここにいらっしゃったおかげで、ああ一般人の参加は私だけじゃないんだって分かって心からホッとしました。ご迷惑でなければ、もう少しお話させていただいてもよろしいですか?」
「もちろんです! エリーゼさんのお店の話とかも聞いてみたいですね!」
「ウチも興味ありますね。もし、オリジナル商品とか他所で売ろうって考えてるんなら、ウチが協力できる部分もあるかもしれませんよ」
互いの一般人オーラに気を許したこともあって、しばし三人は楽し気に雑談を続けていった。
???「コイツは……いけしゃあしゃあと……」
シリアス先輩「いや、エリーゼはもともと快人やアリスの前以外だとMAX猫かぶり状態だから、こんな感じだろ。気圧されてるってのは完全に嘘だろうけど、心の中で快人に文句は言ってそう」
???「まぁ、コイツの場合相手に文句言うってことは、その相手への好感度滅茶苦茶高いんですけどね」