船上パーティ開始前⑦
魔導船のVIPルームのひとつには冥王クロムエイナとその家族が居て、パーティ開始の時間まで思い思いに過ごしていた。
冥王陣営はトップであるクロムエイナが快人がこの世界に来た最初期から交流があることもあって、快人と知り合いの者はかなり多く陣営ごとで区分するなら、今回のパーティの参加者の数では最大である。
「へ~じゃあ、トーレお姉ちゃんの迷子癖も治ったんだね」
「う~ん、治ったというか正しくは逸れてもチェントやシエンが即発見できるようになった感じかな? まぁ、完全にカイトのおかげではあるんだけど……迷子を克服した私は、もうかなり隙が無いお姉ちゃんになったんじゃないかな? いまなら、お姉ちゃん力100000ぐらい行けるんじゃないかな?」
「お姉ちゃん力って、なに?」
「いや、ほら、アイ姉がメイド力とかそういうのやってたから真似てみただけで、特に数値が高いからどうだとかはないよ! まぁ、ともかくかなり隙の無い優秀お姉ちゃんって感じかな!!」
部屋のテーブルのひとつでは、トーレとフィーアが向かい合って座って雑談をしていた。最近トーレの迷子癖が解消されたと聞き、長い付き合いであるフィーアが感慨深そうな表情を浮かべたのも束の間、すぐにお姉ちゃん力だとかわけのわからないことを言い始めるトーレに対し、フィーアはなんとも言えない表情で苦笑する。
「……ふ~ん。じゃあ、例えばアインお姉ちゃんの隙の無さを100としたら、トーレお姉ちゃんはどれぐらい?」
「……そうだね。私は結構自分に甘いタイプだから、甘めに査定して……5かな!」
「隙だらけじゃん……」
「いや、これは比較対象が悪いと思う。だってアイ姉と比べたら皆隙はあるよ」
「じゃあ、ツヴァイお姉ちゃんを100とした場合は?」
「ツヴァ姉比較ならだいぶ変わるよ……8かな!」
「隙だらけだね」
「おかしいなぁ……まぁ、隙があるとこが私の魅力みたいな部分もあるし、それはそれでよしかな!」
「ポ、ポジティブぅ……」
相変わらず気楽で前向きなトーレを見てフィーアは楽しげに笑う。和やかな空気で雑談していたのだが、ふとあることに気付いてトーレに問いかけた。
「そういえば、トーレお姉ちゃんは礼服なんだね? いや、トーレお姉ちゃんは背が高くてスラっとしてるからすごく似合うけど……」
「うん。フィーアが言う通り、私はドレスよりこっちのほうが似合う気がするしね。いいでしょ、この服……この前クロム様に買ってもらったんだよ~」
「またクロム様におねだりしたの?」
「う~ん、したといえばしたけど、服買ってって言ったわけじゃなくて、クロム様の選んだ服を着たいから一緒に選んでほしいな~ってお願いしたんだよ。それで、たまたまクロム様の予定も空いてて、一緒に買い物に行くことになったんだけど……」
「あ~クロム様が私たちと一緒に買い物に行って、お金出させるわけないよね」
「そうそう、それで結果的に買ってもらう感じになったね。まぁ、ほら、私は上の人には思いっきり甘えて、下の子は思いっきり甘やかすタイプだからね」
トーレは実際に甘え上手であり、アインやツヴァイ、そしてクロムエイナにもかなり可愛がられている。特に本人に打算があったりするわけでもなく、今回のおねだりも純粋にクロムエイナの選んだ服を着たいという気持ちからの要望だった。
クロムエイナとしては家族からそうやって純粋な好意から甘えられるのは当然嬉しく、また世界一のお金持ちである彼女が家族と買い物に行って、お金を払わせるはずもなく、トーレが現在来ている服はクロムエイナからプレゼントされる形となった。
それに納得したように頷いたフィーアだったが、ふと何かを思いついたように意地の悪い笑みを浮かべる。
「ほうほう、じゃあ、トーレお姉ちゃんは妹である私は甘やかしてくれるわけだよね? てことは、私にはなにかを買ってくれたりするのかなぁ?」
「……そうくると思ったよ……じゃ~ん! 実はもう買ってある!」
「え? ほっ、本当にあるの? 冗談だったんだけど……」
「ふふふ、お姉ちゃんを舐めちゃだめだよ。知ってるんだからね……フィーアってばちょっと前に、論文で賞貰ったんでしょ? これはそのお祝いのプレゼントで、ブローチだよ!」
「……あっ……ありがとう」
まさか本当にプレゼントが出てくるとは思わなかったのか、トーレが差し出してきたブローチを受け取ったフィーアは一瞬ポカンとした表情を浮かべていたが、少しして徐々に喜びが湧き上がってきたのか嬉しそうな表情に変わる。
「……嬉しい。けど、意外だったなぁ。トーレお姉ちゃんが医学会の論文発表のことを知ってるなんて」
「ふふん。可愛い妹の動向はチェックしてるんだよ。ちゃんと論文も読んだよ!」
「え? 嘘、すごい! 結構専門的で難しいことも書かれてたと思うけど、分かったんだ……」
「読んだけど全然わかんなかった!! なんなら、2ページ目でもうサッパリだった! で、でも、ちゃんと最後まで読んだよ? なんかこう、血に含まれる魔力がなんとかかんとかで、相性がどうとかこうとかってやつだよね?」
「全部読んだ割には1割すら理解できてない感じがするなぁ……ふふ、トーレお姉ちゃんらしいね」
それでも専門的でまったくわからない論文を最後まで読み切ってくれるあたり、妹であるフィーアへの確かな愛情が感じられ、フィーアは嬉しそうに笑いながらトーレからもらったブローチを早速身に着けていた。
シリアス先輩「胃痛組とほのぼの組でしっかり分かれてる感じがする。六王陣営が順に出てるし、幻王配下は最初の変態どもでカウントするとしたら、次は七姫かな?」