船上パーティ開始前⑥
魔導船の受付ロビーでは、次々に訪れる招待客を離れた場所で死んだ魚のような目をして見ている香織と茜の姿があった。
茜は普通の招待客ではあるが、香織の方は今回パーティに出される料理に携わっていることもあり、招待客の顔ぶれは気になっていたところだった。
もちろん六王や最高神といった面々が全員参列するのは分っていたが、それ以外にも想像以上の面々が登場しており胃が痛い思いだった。
「……いまので、四大魔竜もグランディレアス様以外は揃うたな。グランディレアス様は体躯的に参加が難しいやろうし、仕方ないとして……これで、ウチらが見てるだけで戦王五将、七姫、四大魔竜はほぼ勢揃いしてんな……分かってはいたけどとんでもないわ」
「う、うぅ、お腹痛いよ……いや元から覚悟はしてたし、やるからには全力は尽くしたんだけど……」
「大丈夫やて、料理の原案は香織が考えたやろうけど、そこにいろいろな人がアレンジに加わってこの世界に合わせた感じにしてるんやろ? やったら、そんなに心配することないって」
苦笑しながら茜がフォローを入れ、香織の表情が少しだけ和らいだタイミングでふいに声が聞こえてきた。
「お、香織ちゃんじゃねぇか」
「あっ! 重さんにハンナさん!!」
「こんにちは、香織さん……凄いところですね」
現れたのはしっかりとした正装に身を包んだ重信とハンナの夫婦であり、知り合いが現れたことで香織の表情が明るくなる。
「本当に、こんなにとんでもないとは思ってなかったから胃が痛いよ……あっ、そうそう、紹介するね! こちら、私たちと同じ移住者の茜さん!」
「どうも、三雲茜っていいます。ああこれ、ウチの名刺です。ちっこい商会やってますんで、なんか入用なものでもあったら連絡をくださいな。どうぞ、よろしく」
「ああ、こちらこそ、香織ちゃんから少し話は聞いてたが、同郷に会えるのは嬉しいな。大蔵重信、今はハイドラの片田舎で農家をやってる。こっちは妻のハンナで、ともどもよろしく頼むわ」
「よろしくお願いします」
茜と重信が互いの話は共通の知り合いから聞いてはいたが、直接会ったことはないという状況だったので偶然会えたこの機会に自己紹介をし合う。
「そういや、もうひとり移住者の子がいるんだろ? 確か、光永正義くんだったか?」
「ああ、快人くんから聞いたことあるね。でもその子は確か爵位貰ってるんだよね? となると貴族として参加だろうし、当然護衛とかも連れているはずだから快人くんに紹介してもらわないと、会うのは難しいかもね」
「……あれ? 快人から聞いたけど、ノインさんちゅう方も移住者なんやない?」
「……あ、あの人は……いろいろ特殊というか、説明できない部分が多くて厄介というか……と、とにかく気にしちゃ駄目だよ!」
重信がもうひとりの過去の勇者役である正義について尋ねるが、香織も茜も正義には会ったことが無いため答えられる内容はない。
そのあとでノインの話になったのだが、元異世界人とだけ知っている茜に対し、ノインの正体が初代勇者だと知っている香織はなんとも言えない表情で誤魔化していた。
なんとか話題を変えようと視線を動かしていた香織は、受付の傍でキョロキョロと視線を動かしている知り合いを見つけて表情を変えた。
「あれ? オリビア様!」
「……うん? ああ、ミズハラカオリでしたか、丁度いいところで会いました。部屋が分からないのですが、この数字の数だけ部屋を進めばいいのでしょうか?」
「あっ、えっとそうじゃなくて、この頭の数字が階を表してて……」
偶然ではあるが常連客でもあるオリビアを発見した香織は、オリビアの元に駆け寄って声をかける。オリビアにとっても香織は外部との交流の少ない彼女にとって、比較的親しいといえる数少ない存在であり、ほんのわずかではあったが微笑みを浮かべ部屋について尋ねていた。
そのあと少し説明した後で、香織は茜たちの方を振り返って声をかける。
「ごめん! 私ちょっと、オリビア様を案内してくるね!」
「お~、ウチはまだしばらくこの辺におるから気にせんとゆっくり案内してきいや」
「は~い!」
茜の言葉に元気よく返事をして、軽く会釈したオリビアと共に部屋に向かって移動していく。そんな香織の後ろ姿を見つつ、茜は苦笑しながら呟いた。
「……いや、快人の影響やろうけど、香織も大概凄い交友関係を持ってるよなぁ……ウチもか」
快人経由で己も何人もの大物と知り合っていることを思い出して、茜もなんとも言えない表情で溜息を吐いた。
シリアス先輩「話題に上がることすら稀な正義さん……もう恐れ多くて呼び捨てにできねぇよ」
???「まぁ、まだ数年経ってないので、登場はしないでしょうけどね」
シリアス先輩「いや、いいじゃん!? 出してあげても……なんで、正義さんを年周期キャラにしようとしてんだ!?」