船上パーティの招待状⑫
各地に招待状が届いているころ、快人の家ではネピュラとイルネスがパーティの参加者に配る記念品の準備を行っていた。
快人が紅茶ブランドを立ち上げたことは有名なので、それにちなんで船上パーティの記念ブレンドを作って参加者に配る予定であり、そのブレンドに関してはネピュラとイルネスが担当している。
「ですがぁ、ネピュラは～残念ですねぇ。世界樹から～あまり離れられないのでぇ、パーティには参加できませんしぃ」
「妾は気にしていませんよ。というよりは仮に参加するとなっても、妾は主様の……ホスト側ですから、パーティを楽しむというよりは参加者に楽しんでもらうように動くことになるでしょうしね。それに、主様、リリアさん、イルネスさん、アニマさんと主要人物が一時的とはいえ抜けるわけですから、留守を守る者も必要でしょう」
「そうですねぇ。ネピュラが居てくれるので～私としてもぉ、安心して参加することができますぅ」
「妾は絶対者ですからね。皆様の留守は問題なく守ってみせますので、安心してください」
小さく胸を張って宣言するネピュラを見て、イルネスが微笑みを浮かべる。イルネスは以前は基本的にリリアや快人と同時に屋敷を空けないようにしていたが、いまはネピュラが居るため様々な場面で融通が利く。
もちろんリリアの屋敷の仕事などは……ネピュラなら問題なくこなせるとは分かっていても任せるのは難しいが、快人の家の仕事や庭の手入れなどといった部分や来客の対応はネピュラに任せておけば安心である。
「……せっかくの主様の初企画パーティの記念ですし、少々特別な茶葉を使いますかね。以前に作った茶葉を使いましょう」
「大丈夫ですかぁ？ その茶葉は～効果が凄すぎてぇ、世間の混乱が懸念されるということで～しまっていたのではぁ？」
「0.5ｇ以下の使用であれば大丈夫ですよ。普通にこの茶葉で紅茶を淹れるのは、やめておいた方がいいですがブレンドして使う分には問題ありませんよ。まぁ、多少魔力量は増えるかもしれませんが、1ｇ以下であれば誤差……気付かない程度ですからね」
「なるほどぉ～」
ネピュラが作ってお蔵入りにしていた茶葉は、飲んだものの『魔力の最大値を増やす』という効果があり、しかも効果が永続する。その効果自体は偶然の産物ではあったし、増える魔力量はには限度があるため、永続といっても無限に魔力を増やせるわけではない。
しかし、イルネスと検証した結果……繰り返し飲むことで、最終的に『生まれ持った魔力限界値の倍近い魔力量』までは魔力を増やすことが可能であると判明したため、出回っては大きな混乱を招くということで封印していた。
ただ味に関しては他の茶葉に無い独特で素晴らしい風味なので、ネピュラが自分で飲むように少量だけ作り続けていたのだ。
「イルネスさんとの検証で紅茶一杯分。おおよそ3ｇほどの茶葉で、0.3％ほど魔力量が増えると分かりましたし、0.5ｇでの上昇量は0.05％ほどなので、アリスさんのような鋭い方以外には分からないと思います」
「なるほどぉ、確かにそれなら～大丈夫そうですねぇ。その茶葉は～味は本当に素晴らしいのでぇ、少量でも～いいアクセントになりますねぇ」
「ええ、いくつか細工をしておくので、アリスさんでも簡単には気付けないようにはできると思いますよ。さて、味はいいとして……香りはどんな感じにしましょうか？」
「そうですねぇ、カイト様の～好みで考えればぁ、フルーツ系のフレーバーがいい気がしますねぇ。この辺りの～茶葉などはいかがでしょうかぁ？」
「いいですね！ さすがイルネスさん、素晴らしいチョイスです。それならいい感じに味も調和しそうですね」
「お褒めに預かり～光栄ですよぉ。あとは～分量を調整していくだけですねぇ」
「はい！」
そうしてふたりで仲良く、パーティで配る記念ブレンドを作っていき……それがある程度形になったタイミングで、ネピュラがふと思い出したようにマジックボックスから小さな箱を取り出した。
「イルネスさん、これは日頃お世話になっているお礼で……妾が作った特別なプレゼントが入っています」
「おやぁ？ それは～ありがとうございますぅ。むしろ～私の方がよくお世話になっている気もしますがぁ、ネピュラの気遣いが～とても嬉しいですよぉ」
「喜んでもらえたならよかったです。その箱はランダムボックスの仕組みで作ってありまして、中には妾が作ったワインが入っていますので……パーティが終わったあとに、互いの労を労う形で、主様とふたりで飲んではいかがでしょう？」
そう言って軽くウィンクをするネピュラを見て、イルネスは思わず苦笑を浮かべてもらった箱を大切にしまった。
シリアス先輩「……なに余計なパス出してんだ絶対者ぁ！？」
