船上パーティの招待状⑩
快人の船上パーティの招待状は、当然ではあるが快人の知り合いに幅広く届いており、快人の性格上自己紹介をしてある程度話した相手であれば届けられていた。
その中には、意外といえる相手もいた。とある街にある冒険者ギルドの職員控室では、受付嬢を務めるひとりの女性が届いた手紙を手にガッツポーズをしていた。
「よしっ! 来ましたわ……お金持ちと知り合えるチャンスが!!」
「……そ、そんな、グリンさん……貴女いつの間に、そんなコネを……」
「う、裏切りじゃないですか……なんで、グリンちゃんにだけ……」
「ふっ、残念でしたわね。貴女たちが打ち上げを楽しんでいる中で、私はアンさんと共にミヤマさんと交流を深めておいたのですよ!!」
手に持つ招待状を見て羨ましそうな表情を浮かべる同僚のふたりの前で、いぜんフライングボードの大会にて快人と知り合ったチームスカーレットブルーのリーダーことグリンは、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
彼女たちは貴族令嬢のような生活に憧れる一般女性であり、こういったパーティへの招待状などもちろん初めてでテンションが上がっていた。
「船上パーティ……や、やっぱり豪華な客船とかですかね?」
「うぅ、グリンちゃんが羨ましい、お金持ちと仲良くなったら私たちのことも紹介してね」
「ええ、まぁ、とりあえずパーティに来ていくドレスのレンタルを予約しなくては……ちょ、ちょっと、奮発していつもよりグレードの高いものをレンタルしてもいいかもしれませんわね」
そう言って期待に胸を膨らませるグリンではあったが、彼女の認識には少々甘い部分がある。いや、それも致し方ないのだ。彼女の認識において快人は、フライングボードの大会で知り合ったお金持ちっぽい青年。いいところ貴族の関係者かなにかだと、そういった認識だった。
なので当然だが想定していない……まさかそのパーティに六王や最高神や人界の国王たちが集結するなどと……普段では話すことはおろか、姿を目にすることすら難しい相手だらけの、魔境といっていいようなパーティであるなどとは……この時はまだ、夢にも思っていなかった。
時を同じくして、アルクレシア帝国の山岳地帯にある大きなクルーエル族の地下都市では、ブラックマスカットのリーダーであるリメギテ・リノリア・ギスルド・アメテス・アン……通称アンと呼ばれる女性が届いた招待状を見ていた。
「……カイトさんからの招待状……こういった招待状を受け取ったのは初めてで、戸惑いますね?」
「というかアン殿はいつの間に彼と交流を?」
「ああ、いえ、打ち上げの際に軽く自己紹介をして話した程度なのですが……ど、どうなのでしょうこれは? 社交辞令的に送ってくれただけでしょうか? だとしたら丁重に断った方が?」
「いえ、むしろせっかくの招待なので都合が悪くない限りは参加した方がいいのでは? 船内であればそこまでの対策は必要ないですしね」
招待状を手に考え込んでいたアンに同じブラックマスカットのチームメンバーのふたりが、アンが手に持つ招待状を見ながら話す。
「……人を騙したりするような方ではないと思いますし、招待状の紙の質も凄いので正規の正体だと思いますが……」
「と、というか、黒魔羊紙ですよね? い、いえ、初めて見たので自信はないですが……これはもしかして、かなり格式の高いパーティなのでは? だとしたら場違いな気も……」
アンもまた普通の庶民であり、こんな招待状を貰ったことなどはない。見るからに高級そうな紙で届いた招待状に、若干気圧されている感じもあった。
「身なりのいい青年でしたし、異世界人は確か望めば爵位を貰えるという話なので、貴族的なパーティでは? そういえば、アン殿の祖父殿が昔貴族のパーティに出たと言っていませんでしたか?」
「田舎の小さなパーティですけどね……服装は自由で構わないと書いてありますが……やはりある程度はしっかりしたものがいいですよね?」
「あ~確か、うちの曾祖母が昔貴族様に貰ったアクセサリーとかを持ってたような……借りられるように頼んでみますか?」
「そうですね。正直ひとりではあまりに経験が不足し過ぎているので、皆さんの知恵をお借りできれば……」
彼女たちの種族であるクルーエル族は種族間の繋がりが強い。種族の住処である地下都市も、都市とは言いつつも実質は大き目の村のようなものであり、ほとんどが顔見知りといえる。両親や祖父母から名前を受け継ぐという風習もあり、何代か辿れば血縁者という相手も多い。
今回のアンの招待に関しても、すぐに地下都市内に「アンが貴族のパーティに招待を受けたらしい」と話が広まり、興味を持った者たちが大量に集まってくることとなり、話題の中心になってしまったアンは苦笑を浮かべていた。
シリアス先輩「まさかの再登場……イエローパイプは……そういえば自己紹介は誰ともしてないな」
???「新たな胃痛枠のエントリーっすね」
シリアス先輩「やめてさしあげろ」