船上パーティの招待状⑨
さて、ハグとは言いつつも現状のソファーで両手を広げて待つフィーア先生とそこに向かう俺という構図で考えると、抱き合うというよりは抱きしめられるという形になりそうな感じだった。
「……なんというか、意識してハグされに行くってのはちょっと気恥しさもありますね」
「ふふ、でも今は私とふたりきりだから、気にせずに甘えてくれていいんだよ。だからね……おいで」
「で、では失礼して……」
聖母のように穏やかな微笑みを浮かべるフィーア先生は、優しい年上の女性という雰囲気が強く、なんというか妙な緊張を感じながら近づく。
するとフィーア先生はそっと手を俺の後頭部に添えて、優しく俺の頭を抱き寄せる。感覚としては、フィーア先生の胸元に抱きかかえられているような感じである。
「意外とさ、何度もしてることでも意識すると違って感じられるよ。ミヤマくん、ゆっくり体の力を抜いて私に身を任せて……服越しだけど、体温とか感じるかな?」
「あ、はい。その、温かいです」
「うん。さっきのオキシトシンの話に戻るけど、神経心理学の研究だと人を撫でる時はゆっくりと秒速5㎝ぐらいで撫でるのが一番心地よくて、オキシトシンの分泌も活発になるんだって……それはまだ諸説あるけど、ゆっくり触れることで相手の体温や感触を触覚で認識できるのが要因なんだってさ……」
そう言いながら、フィーア先生は本当にゆっくりと俺を抱きしめる力を強くする。最初は胸元に少し触れるだけだった俺の顔が、ゆっくりフィーア先生の体に密着して、柔らかさと共に温もりがじんわり沁み込むように伝わってくる。
ハーブのような心地良い香り、後頭部を優しく撫でる手の感触、顔を包み込む柔らかな温もり……これはちょっと、本当に心地良すぎるというか……俺にはオキシトシンだとか医学的なアレコレはわからないが、凄い安心感があって、じわ~っと体の奥まで温もりが伝わってくるような……そんな感じだ。
「……苦しくない?」
「はい。なんか、えっと、オキシトシンが分泌されてるってことなんですかね。すごく心地いいというか、フワフワするような……恥ずかしさはあるんですけど、それ以上に安心が勝る感じですね」
「なるほど、それはミヤマくんが私のことを気の許せる……信頼できる相手だって思ってくれてるから、より一層効果的なんだろうね。あとはアレだよ、やっぱり私の愛情だね。ミヤマくんのことが大好きで、心から愛おしく思ってるんだよ~って気持ちが、感応魔法なんか使わなくても伝わるぐらい優しく抱きしめてあげるね。だから、いまだけはなにも考えずに私にたっぷり甘えて……」
優しい声と共にもう少し抱きしめる力が強くなり、俺の顔はフィーア先生の柔らかい胸に埋まるような形になる。ただ、抱きしめる角度は考えているのかどちらかと言えば鼻より上を胸に押し当てるような形であり、強めに抱きしめられても息苦しさなどは感じない。
ただただ、柔らかくて心地よいというか……年上のお姉さん的な包容力をこれでもかと発揮しているフィーア先生に抱きしめられている状態の気持ちよさがヤバい。
本当に癖になってしまいそうなぐらいというか、しばらくこの状態を続けていたいというか……フィーア先生の言葉通りに、感応魔法など伝わなくてもフィーア先生の愛情が直接伝わってくるようで、つい顔がにやけてしまうというか幸せな気分でいっぱいだった。
「……なんというか、フィーア先生が優しくて包容力があるからか、心地よくて離れたくなくなってくるというか癖になりそうで怖いくたいです」
「え? 癖になっても全然問題ないと思うな~。これぐらいいつだってやってあげるよ。えへへ、ミヤマくんが気持ちいいって思ってくれてるなら私も嬉しいよ。私のラブラブハグは、ミヤマくん専用だから予約も必要ないし、いくらでも抱きしめてあげるからね」
その台詞は結構反則というか、本当に包容力が凄まじい。甘く優しい声でそんなことを言われると、耳まで心地よくてまるで天国のような感覚だった。
う~ん、駄目だこれ……しばらく離れられそうにないかもしれない。
「ふふふ、甘えてくれると私も嬉しいよ……いっぱいリラックスしたあとは、キスしたり恋人らしくいちゃいちゃしながら、ゆっくり過ごそうね。時間はいっぱいあるから……ね?」
そんな甘い言葉を聞きながら、俺はフィーア先生の胸元でそっと目を閉じ……どうしようもなく心地よい感触にしばし身を委ねて、包み込まれるような安心感の中で心からリラックスできた。
シリアス先輩「はぐぁっ!? 快人はリラックスしてても、私の心には絶大なダメージなんだけど!? というかフィーア……こいつ……かなりの糖力を持っていやがる……」
???「変な能力値を出さないで貰えます? まぁ、フィーアさんは基本恋愛に関してはストレートというか、積極的にイチャイチャしようとする恋愛積極勢なので、甘い展開になりやすいのはありますね」