船上パーティの招待状⑧
船上パーティに関して、招待状なども送り終えたし世界メイド協会への依頼もクロ経由で済ませた。料理などに関しても順調である。
とはいえ、まだいろいろとやるべきことはあるのだが……だからといっても前のめりになり過ぎてしまってもいけない。
「うんうん。ちゃんと休むのは大事だよね。けど、ミヤマくんだと頑張り過ぎちゃうあイメージだったね」
「……いや、普段アニマに働きすぎずに休むようにって注意しておいて、俺が実行しないわけにもいかないので」
「あはは、なるほど、人の振り見て我が振りを~って感じだね」
そんなわけで一旦パーティの準備から離れての休憩も兼ねて、俺はフィーア先生の元に遊びに来ていた。フィーア先生の診療所は月に3日ほど休みの日があり、今日はその日のため診察時間などを気にせずのんびり過ごすことができる。
まぁ、逆に言うと月3日以外は診療所を開けていることになるのだが、午前診療のみの日や午後診療のみの日もあるため、フィーア先生いわく自由な時間は結構あるとのことだ。
実際六王祭とかにも予定を調整して来れていたし、激務過ぎるということは無いのだろう。フィーア先生の能力だと、激務でもケロッとしてそうではあるが……。
「でも、医者としては本当にいいと思うよ。疲労って疲れたな~って思い始めるより前に抜くのが一番いいからね。特にミヤマくんの場合は若さとシャローヴァナル様の祝福でゴリ押しが出来ちゃうから、なおのこと休憩とかには気を使ったほうがいいと思うね。精神的な疲労までは消せないんだしね」
「確かに、シロさんの祝福のおかげで運動しても筋肉痛とかは一切無いですし、その気になれば世界樹の果実で体力を強引に回復とかもできますしね……というか、過去に実際にやってクロに怒られました」
「無理しちゃったか~ミヤマくんらしいと言えばらしいけど、あんまり周りに心配かけちゃ駄目だよ」
「うっ、返す言葉も無い」
楽し気に笑いながら話すフィーア先生の言葉を聞き、俺は苦笑を浮かべる。実際オルゴール作りの時はクロに叱られてしまったし、反省すべきことである。
いや、でもある意味その教訓があるのはいいことかもしれない。いや、クロには心配かけたり怒らせたりと迷惑をかけてしまったのは申し訳ないが、実際にシロさんの祝福と世界樹の果実で無茶が効いてしまうので、無茶をして失敗したという経験はブレーキとしては有益でもある。
そんな風に考えていると、向かいの席に座っていたフィーア先生がハーブティーを置いて立ち上がる。
「……じゃあ、せっかくだし私のミヤマくんの疲労回復を手伝うよ。医学的見地に基づいてね」
「おぉ、それは頼もしいというか、実際少し精神的な疲れはあるので助かります」
フィーア先生は医者であり、いわばその道のプロだ。今回は精神的な疲労に関してだから、リラックス効果のあるハーブとか、あるいはマッサージとかしてくれるのかもしれない。
そう思っていると、フィーア先生は部屋に置いてあるソファーに移動して、軽く手招きをしてきた。やっぱりマッサージとかなにかだろうかと考えつつ、残り少しだったハーブティーを飲み干してフィーア先生の待つソファーの方へ移動すると、フィーア先生はこちらに向けて軽く両手を広げてきた。
「よし、じゃ、どうぞ」
「……うん? え? えっと……俺はどうすれば?」
「私の胸に飛び込んで来ればいいと思うよ」
「……んん?」
まるでハグ待ちのような姿勢でそう告げるフィーア先生の言葉に、意図が分からず困惑した表情を浮かべる。するとフィーア先生はどこか自信満々な様子で、軽く胸を張りながら告げる。
「適当に言ってるわけじゃないんだよ。これにはちゃんと根拠となるものがあってね。好きな相手とハグをすると脳内では幸福感を感じるドーパミンや心を落ち着かせる作用のあるオキシトシンが分泌されるって研究結果が出てるんだよ。それにオキシトシンによってセロトニン神経も活性化するから、ハグをすることによって精神的な疲労が回復しつつ、ポジティブな気持ちになったりやる気が出たりするんだ」
「な、なるほど?」
「というわけで、これは恋人のミヤマくんだけの特権……ミヤマくんの精神的な疲労を、私がたっぷりねっとり、ラブラブなハグで癒してあげるよ!」
いまさらではあるが、フィーア先生は俺の恋人たちの中でもトップクラスの積極性があり、こういった場面の強さには定評がある。
今日は休みで時間も十分にあるし、恋人として思う存分イチャイチャする気のようだ……いや、まぁ、俺の方も別に拒否する理由も無いし、イチャイチャしたいという気持ちもあるので、素直に甘えることにするのだが……
シリアス先輩「……は? いや、待て待て!? 急な砂糖展開はルールで禁止ですよね!?」
???「いや、そんなルールはねぇっす」