船上パーティの招待状⑦
シンフォニア王国首都にあるアルベルト公爵家。その執務室では、書類仕事を終えたリリアがルナマリアが淹れてくれた紅茶を飲んで一息入れていた。
少しして手の空いていたジークリンデもやってきて、親友三人で自然と雑談をする形となった。
「そういえば、ミヤマ様が船上パーティのためにいろいろと頑張っているようですが、お嬢様は今回かなり余裕そうですね?」
「今回は私は特に関係ないですしね。パーティに関してもカイトさん主催ということで、貴族のパーティのような形にはならないでしょうし、そもそもカイトさんの知り合いは私もほぼ知り合いですし、いまさら初対面の挨拶をとなるわけでもないですしね」
「確かに、六王様も最高神様も全員知り合いですね。そういう意味では、リリにとっては顔見知りばかりのパーティで気楽というわけですね」
ルナマリアの疑問に答えたリリアの言葉を聞き、ジークリンデが納得した様子で頷く。もちろんまったくやることがないわけではないし、六王や最高神も勢ぞろいとなるパーティというだけで緊張する部分はある。
だが、建国記念祭の時の様に快人不在でリリアだけで対応しなければならないという状態ではなく、今回は快人が主催である。
当然六王も最高神もシャローヴァナルやエデンも、目当ては快人であり、どう考えても集中するのはそちらであり、リリアが六王や最高神と長く応対する可能性は低い。
そして初対面の大物相手に緊張しつつ自己紹介などということも無いので、リリアとしては気楽だった。
「まぁ、そういうわけなので、今回は私も参加者のひとりとしてのんびりとパーティを楽しむつもりですよ」
「……う~ん。なんでしょうね、この感じ……ジークはどう思いますか?」
穏やかな微笑みを浮かべて紅茶を傾けるリリアを見て、ルナマリアはなんとも微妙な表情を浮かべて隣に居たジークリンデに小声で問いかける。
というのも、確かにリリアの語った内容はその通りであり、特にルナマリアとしても反論の余地はない。だが、どうにも胸に湧き上がる気持ちがあるのも事実だった。
そしてそれはジークリンデも同様で、ルナマリアの質問になんとも言えない表情で答える。
「……なんでしょう? 筋は通っていますし、なるほどと納得はできるはずなんですけど……リリがこうやって余裕ぶってると、大きなしっぺ返しが来るんじゃないかと思ってしまいますね」
「ですよね。具体的な内容は思いつかないのですが、なにかありそうなんですよね……」
ルナマリアとジークリンデ……ふたりの予想は、さすがは付き合いの長い親友というべきか……的中していた。
そう、確かにリリアは六王とも最高神とも既に交流があり、ここにきて新しく挨拶をする必要はない……というのは甘い認識である。
現在のリリアの頭に思い浮かぶ参加者というのは、快人が新築記念パーティを行った際の参加者たちであり……リリアは重要なことを失念していた。
新築記念パーティからいままでの間に、快人は……『六王幹部全員と知り合っている』ことを……そして、リリアの名前は魔界でも有名であり、六王幹部の中にもリリアに興味を持つ者は多い。
だが、いかんせんリリアは快人とも交流が深く、家も快人の家の隣……いきなり会いにいってはリリアだけでなく快人にも迷惑がかかるからと自重している者も複数いる。
そういった者たちは、この機会にリリアと交流を持とうとするだろう。快人の元には六王や最高神が集まるだろうし、そちらを邪魔するわけにもいかない……となると、次に集中するのがどこか……それに気付いていない今のリリアは、ある意味幸せなのかもしれない。
シリアス先輩「え? いや、でもリリアも結構六王幹部とは知り合いだから、そんなに大変なことには……」
???「うちの変態共とはほぼ初対面ですけどね」
シリアス先輩「……リリア、終わったわ」