船上パーティの招待状⑥
三雲商会本部の会長室にて、茜が快人から届いた招待状を見つつフラウに声をかける。
「快人が主催のパーティか、楽しみではあるけど気つかうなぁ。どう考えても各界の重鎮が集まるんやろうし、コネ作りには最高かもしれへんけど、胃はいとうなりそうやな」
「まぁ、その辺は会長にお任せして私はパーティを楽しみます。今回は私も招待客ですし……」
「お前ホンマ、ええ性格してるよなぁ」
快人の知り合いということでフラウも招待状を貰っているが、三雲商会の会長としてコネ作りも必要な茜とは違って彼女はあいさつ回りなどは必要ない。
ついでに快人主催となればアリスなども本気を出すので、会場内の安全に関して心配する必要も無い。フラウが茜の護衛についていなくても問題ない。というかその警備態勢でなにか起こるようなら、フラウ程度の実力ではそもそも対応など不可能だ。
「……そういえば、今回の船上パーティでは給仕に関して世界メイド協会へ派遣の依頼があったようで、いまメイドたちの中でちょっとした騒ぎになっていますね」
「そうなん? まぁ、快人の知り合いっていっぱいいそうやし給仕を雇うのは必要やろうな。しかし、六王様や最高神様、果ては創造神様まで来る可能性があるパーティで給仕するってのも大変やな」
「ええ、なのでメイド力によって足切りはされるようですが、それでも大変栄誉な機会なので希望者は殺到しており、最終的にはかなりの倍率の抽選になりそうです」
「ほ~……サラッと日常会話にメイド力とか組み込むなや、ほんで対して疑問に思わんようになってきた自分が嫌やわ」
呆れた様子で呟く茜だが、フラウの方はまったく気にした様子もなくどこかしみじみとした様子で話しを続けていく。
「メイドたちの意識も高いですね。既に何名かはアイン会長より指名を貰っているようで、本番に備えて『山籠もり』を始めている者もいるそうです」
「……いや、なんで山にこもるん!? 関係ないやん! 給仕するんやろ、山でなにすんねん!?」
「会長、なにを言ってるんですか? メイドが山籠もりをすると言えば『メイド三大荒行』を行うに決まっているではないですか……」
「いや、さも常識みたいな顔してなに言うてんねん!! 言っとくけど、お前らメイドは常識の内側にはおらんからな!? というか、メイド三大荒行ってなんやねん!!」
さも当然のように語るフラウに対し、茜の心からの叫びが部屋に木霊する。もういい加減メイド界の常識外れ具合にはうんざりしてきているのだが、悲しいかなまだ話は終わっていない。
「メイド三大荒行とは、メイド力を高める伝統の修練方法で、破岩、滝割り、雲切りの三つです。これを成し遂げたメイドは、メイド力が5000は違ってくると言われていまして、私もかつては己のメイド力を鍛えるために行いました」
「いや、それゴリッゴリにバトルするやつの修行やろうがぁぁぁ!? あと、それが給仕のなんの関係あんねん! 滝割りとかどうやって給仕に生かすねん!?」
「なに言ってるんですか、会長? 滝を割る技術と給仕は別物ですよ?」
「じゃなんでそんな修行すんねん!?」
もうツッコミ過ぎて疲れてきている茜だが、性格的なものもあるのかどうしても反応せずにはいられない。どうせこの言葉にも訳の分からない理論が返ってくるのだろうと、頭ではそう理解していても衝動は抑えきれない。
そんな茜に対して、フラウは「やれやれ」と言いたげな少し呆れたような表情で告げる。
「言ったはずですよ。メイド三大荒行を終えれば、メイド力が5000は違ってくると……メイド力はメイドとしての技量そのものです。この数値は給仕としての技量にも大きく影響を及ぼします。つまり、要約すると……」
「要約すると?」
「……滝を割ると、給仕が上手くなります」
「なんでやあぁぁぁぁぁ!!」
もちろんそんな超理論がメイド以外に受け入れられるはずもなく、茜は今日一番の声量で叫んでいた。
【メイド三大荒行】
『破岩』
メイドたるもの身体の動かし方を完璧に把握しているのは当然の嗜みであり、巨大な岩を己の四肢のみで砂と呼べるほどまで細かく砕くのは一流のメイドならできて当然である。
『滝割り』
一流のメイドが放つメイドリックオーラならば滝を割ることなど容易い。メイドとは主以外の何物にも阻まれぬものであり、体を動かさず放つメイドリックオーラのみで滝を退けることは当然の嗜みとして行えるべきである。
『雲切り』
真のメイドの所作は天地海を掌握し、天を割り、地を砕き、海を割ることも容易い。だが、その力を暴威として振るうのは三流以下のメイドである。一流のメイドであれば己の力を完璧にコントロールして研ぎ澄ませ、風ひとつ起こさずに空の浮雲を切ることも、当然の嗜みとして身に着けておくべきである。