船上パーティの招待状②
アリアさんとの出会いから数日経ち、偶然ではあったが俺はアルクレシア帝国の王城にやってきていた。今回用事があるのはクリスさんであり、俺の紅茶ブランドであるニフティのカップを届けに来た。
ネピュラとイルネスさんが帝国式の陶磁器も作れるようになったとのことで、一度クリスさんに確認してもらって問題なさそうなら販売する予定である。
クリスさんの執務室に通され、応接用のソファーに座って雑談をしていると、ノックの音が聞こえてアリアさん……もといアレキサンドラさんが、紅茶のカートを押して入室してきた。
アリアさんの時とは違って、前髪もピンで留めて顔を出し、髪全体も綺麗に結い上げていてビシッと決まっている。アリアさんの時はどこか緩い雰囲気のある年上お姉さんという雰囲気だが、アレキサンドラさんとして仕事をしている時はバリキャリというか、仕事のできる大人の女性感が凄い。
表情もキリッとしているし、雰囲気もなんだか研ぎ澄まさせれいるように感じる。分かっていても驚いてしまうほどの変化である。
「陛下、ミヤマ様。お飲み物をどうぞ」
「ありがとうございます」
クールな声でそう告げて、洗練された動きで紅茶を淹れて俺とクリスさんの前に置く姿は、声も違うせいか本当に別人のように感じられた。
そのことに若干戸惑っていたのだが、アレキサンドラさんはクリスさんの座っているソファーの後方、クリスさんから死角になり、俺だけしか見ていない場所でチラッとこちらを見たあと……「し~」という風に人差し指を一本立てて口元に添え、茶目っ気たっぷりに俺にウィンクをしてきた。
たぶん俺が若干戸惑っているのを察して、アリアさんとしての一面をクリスさんには見えないようにこっそりと見せてくれたんだろう。その気遣いと、やっぱりアリアさんだと感じられる様子に思わず笑みが零れた。
「ミヤマ様?」
「ああ、いえ、紅茶が美味しくて……改めて、クリスさん。これが手紙で伝えておいた陶磁器です」
「拝見させていただきますね……なるほど、素晴らしい完成度です。帝国式を完璧に再現していますし、単純に焼き物としてのレベルも高い……ニフティの商品のレベルの高さにはいつも驚かされます」
「作ってる人たちが凄いので……けど、クリスさんから見て問題が無さそうなら、商品ラインナップに加えてよさそうですね」
「ええ、きっとアルクレシア帝国の貴族やメイドを中心に人気が出るかと……」
どうやら陶磁器は好評なようで、帝国式のティーカップもラインナップに加えて問題は無さそうだ。そのまま少しクリスさんと雑談を続けていたのだが、せっかくこうして会ったので船上パーティの話も少ししておこうと思って、その内容を切り出す。
「そういえば、まだ正確な日程までは決まってないんですが、近いうちに俺が主催になって船上パーティを開催しようと思ってまして……」
「…………へ? ミ、ミヤマ様主催のパーティ……ですか?」
「はい。その際にはクリスさんにも招待状を送ろうと思うので、都合がよければぜひ参加してください」
「……な、なるほど……そ、それはなんとも恐ろし……い、いえ、非常に楽しみですね! もちろんその際には是非参加させていただきます」
そう言って微笑むクリスさんの笑顔は、気のせいかどこか引きつっているように見えた。
快人がクリスと会って雑談をしているのと時を同じくして、とある異空間ではアリスがクリスに負けず劣らずの引きつった笑みを浮かべていた。
「……いや、別に端末の方でいいでしょ……」
「いいじゃん! シャローヴァナルの使い走りみたいなことまでして契約を更新して、それ用の端末も作ったんだからこの姿で行ってもいいでしょぉぉぉ……ちゃんと、周りの肉塊に関しては我慢するから」
「いや、その我慢は当然として……そもそもその端末の力が強すぎるんですよ。僅かにでも気を緩めたら、力の弱い人なんて、貴女の存在圧で消し飛ぶでしょうが……」
「大丈夫だよ! 我が子たちも来るんだから、その辺のコントロールを間違うことは無いから……ね? ね? いいでしょ、アリス……」
「う~~~~~ん」
愛しい我が子である快人主催の船上パーティに、エデンとしての姿ではなくマキナとしての姿で参加したいと駄々をこねるマキナに対し、アリスは珍しく非常に悩むような表情を浮かべていた。
まず、マキナの姿で行動すること自体は世界の神たるシャローヴァナルが許している以上問題はない。だが、懸念点が非常に大きいのだ。
エデンの姿であれば問題ない……エデンに関しては、もう快人の知り合いほぼ全員が「異世界のヤバい神」として認識しているので、下手に刺激することは無いだろう。
だが、マキナの姿に見覚えのあるものは少ない。もし仮に誰かがうっかり迂闊な発言や行動を行って、マキナの逆鱗に触れる可能性を考えると、アリスはパーティ中ほぼマキナに気を配っておかなければならず……端的に言って面倒だった。
「愛しい我が子の晴れ舞台んなんだから、いいでしょぉぉ……ちゃんと大人しくしてるから!」
「そこに全く信用ができないから悩んでるんすけどね……う~ん」
そしてその後もしばらく、困った表情を浮かべたアリスにマキナが縋るという光景が続いていた。
???「なにが嫌って、そうなった場合にマキナ係になるのがアリスちゃんなのが嫌……私……アリスちゃんもパーティを楽しみたいんすよ……」